Credit: JD Lasica, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
1900年に開催されたパリオリンピックは、女性が初めて競技に参加することを許された記念すべき大会でした。ただし、当時の女性アスリートは全体のわずか2.2%。それから125年余りが経ち、オリンピック界にも大きな前進が見られました。ひとつは、2024年に再びパリで行われた大会で、男女アスリートの参加比率が史上初めて同数となったこと。そしてその翌年、IOC(国際オリンピック委員会)史上初の女性会長として、カースティ・コヴェントリーの就任が決まったことです。
IOC新会長はアフリカ出身の女性
2025年3月20日、IOC会長に選出されたカースティ・コヴェントリーは、初のアフリカ出身、年齢も41歳と史上2番目の若さでした。IOC会長選挙では、複数の候補者がいた場合、過半数の票を得た候補者が当選となります。最初の投票で過半数が出ない場合、最下位の候補を除外して再投票を行うという仕組みです。このプロセスを繰り返し、1人が過半数を獲得するまで投票が続けられます。当初は、コヴェントリーを含む有力候補7人が、僅差で競り合う展開が予想されていました。ところが、コヴェントリーは初回の投票で早くも過半数を獲得し、圧倒的勝利を収める結果となりました。現会長のトーマス・バッハは、「オリンピックの未来は明るいです。新会長のもとで、努力やフェアプレー、団結といったスポーツの価値が、これからも世界中に広がっていくことを確信しています。」と述べ、コヴェントリーの就任を称えました。

カースティ・コヴェントリー
Credit: Martin Rulsch, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ジンバブエ出身のコヴェントリーは元オリンピック競泳選手であり、現役時代には金メダル2個を含む、計7個のオリンピックメダルを祖国にもたらしました。コヴェントリーが生まれ育ったジンバブエは、政治と人種の問題が複雑に絡み合い、政治的混乱が続いたため、長年にわたり西側諸国から制裁を受けてきました。そうした国の出身であるにもかかわらず、彼女は数々の困難を乗り越え、輝かしいキャリアを築きました。2004年のアテネ大会で初めて金メダルを獲得した際には、「当時、政治不安に揺れていたジンバブエの人々が、たとえ一瞬でもひとつになれたように感じた」と振り返っています。
歴史的な就任を話題作りで終わらせない
コヴェントリーのIOC会長就任について、スポーツ界では当然の結果とする声が多い一方で、疑問を口にする人もいます。スポーツ界の専門家やマイノリティ支援団体には、「彼女の就任がどのような意味を持つのかが試される」という見方もあり、同様の視点を持つ人々が彼女の母国ジンバブエを含むアフリカにも多く存在します。IOCという組織はこれまで、同質的なバックグラウンドを持つ人々によって運営が為されているとの指摘を受けてきました。そうした状況の中、彼女がジェンダー格差の是正に本格的に取り組むことができるのか、世界の注目と期待が集まっています。コヴェントリーが、アフリカのスポーツ界における希望の象徴となることを願う声もあります。一方で、今回の人事は単なるパフォーマンスに過ぎず、「オリンピックはより開かれた大会である」という印象を与えることが目的なのではないか、という懸念もくすぶっています。

ローザンヌ(スイス)のIOC本部
Credit: Gzzz, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
女性新会長はトランス女性の敵か
そして今、性の多様性に対するコヴェントリーの姿勢が注目を集め、激しい議論を巻き起こしています。彼女は、トランス女性が女性の枠で競技に参加することを禁じる方針を公にしており、LGBTQ+の人権団体から強い反発の声が上がっているのです。生物学的優位性をめぐる科学的議論はいまだ決着しておらず、このような方針は、トランスジェンダーやノンバイナリーなど、ジェンダーの枠を超えたアスリートたちの権利と尊厳を脅かすものだと批判されています。さらにこうした措置によって、身体の性と性自認が一致するシスジェンダーの女性であっても、見た目や体質が女性的ではないという理由で、女子競技から排除されるおそれがあると指摘されています。実際、南アフリカ出身の女子中距離走選手キャスター・セメンヤは、男性ホルモンの値が体質的に高いことや外見的特徴を理由に、心身ともに過酷で不公平な検査を長年にわたり強いられてきました。
カースティ・コヴェントリーが、女性として、そしてアフリカ出身者として初めてIOC会長に就任することは、間違いなく歴史的な快挙であり、多くの人々に希望をもたらす出来事です。しかし、各国の地理的背景や政治情勢を鑑み、ジェンダー平等や制度改革といった数々の課題をコヴェントリーがどのように調整し、解決に導くのか。そこで見せる具体的なアクションこそが、彼女の真価を問うことになるでしょう。さまざまな面で初となる彼女のIOC会長就任が、果たして意義のある、永続的な変化をもたらすのか。その一挙手一投足に、世界の注目が集まっています。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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