トナカイはサーミ人の生きる糧|温暖化で先住民に広がる医療格差

Credit: Ernmuhl, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


地球の気候変動は世界中に影響を及ぼしていますが、特に北極圏は地球平均の4倍もの速さで温暖化が進んでおり、最も深刻な影響を受けています。北極圏に広がる「サーミ地域(Sápmi)」は、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、そしてロシアのコラ半島を含む、先住民「サーミ人」の故郷です。現在、サーミ人の人口はおよそ5万~10万人程度にまで減少したと言われています。

サーミ文化と自然との深い結びつき

サーミ文化において、自然は彼らの全てでした。そして17世紀以降、サーミ人は食料や収入源などの全てを、放牧するトナカイに依存しています。その象徴的な一例が、北サーミ語です。北サーミ語には「雪」を表す言葉が約360種類、季節を表す言葉が約8種類。さらに、トナカイの行動や感情の変化を、年齢や性別ごとに異なる言葉を使って細かく表現するのです。

気候変動が深刻化する中、自然と共に生きてきたサーミ人に徐々に危険が迫っています。サケの漁獲量の減少や環境の急激な変化が、サーミ人の生活様式を脅かしているためです。こうした環境の変化により、サーミ語には今後使用頻度が大幅に減る言葉や、新たに生まれる言葉が出てくると考えられています。例えば既に、「トナカイが雪の下で簡単に食料を見つけられる状態」を意味する「ealát」という言葉はあまり使われなくなり、「dálkkádatrievdan」(気候変動)という新しい言葉がサーミ語に加わっています。これまでサーミ人は他の先住民たちと共に、代々受け継がれてきた生態学的な知恵を社会に共有し、北極圏の気候危機と闘ってきました。しかし、オウル大学のヨウニ・ヤッコラ教授が指摘するように、「地球温暖化の責任から最も遠い立場にいる人々が、最も大きな影響を受けてしまっている」という理不尽な現実が存在しています。

スェーデンの地方で多くのトナカイに囲まれたサーミ人の飼育者

Credit : Mats Andersson, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


「運動不足」に陥るサーミ人

サーミ人はこれまで、伝統的な生活様式を守り、身体を動かす機会が多かったため、病気とはあまり縁が無い暮らしをしてきました。しかし、環境の変化によりその生活様式が継続できなくなり、これまでかかることが無かった精神疾患等の病気がサーミ人の中で増加傾向にあります。ナッカラヤルビ、ヤッコラ、ユントゥネンら研究者による調べでも、糖尿病や心血管疾患、精神疾患が増えていることが確認されました。ナッカラヤルビは、「強いサーミ人」としてのアイデンティティを保つことが、精神的な状態を安定・向上させると述べています。また、スウェーデンで行われた研究ではサーミ人に不健康な人が増えていることが明らかになっており、口腔内の健康、男性の慢性疾患、喘息、肥満など、自分の健康に自信が持てない人が多いという結果が報告されました。

国による医療格差解消への取り組み

サーミ人の健康問題は増加傾向にあるものの、彼らに対する医療サービスは依然として十分とは言えません。本来であれば彼らの伝統的な治療法を理解し、それを尊重しながら現代医療と調和させた適切な医療を提供することが望ましいでしょう。ところが、現時点ではまだ、他のノルウェー人に合わせた一般的な治療にとどまっています。南サーミ人を対象としたノルウェーでの研究では、医療自体を信頼していないことから無力感に陥り、どうしても必要な時にしか受診したくないと答えた人が多いという結果が出ました。また訪問看護を受けた人々の中には、自分たちがノルウェー系住民よりも軽視されていると感じた人もいます。人種に基づく医療は、とかく多くの社会的弱者層に対するデメリットが目立ちます。一方、先住民たちの文化や価値観を考慮した医療を適用すれば、彼らへのケアを大幅に改善できる可能性が出てきます。

ノルウェー政府は既にこの問題を認識しており、最近の政策提言書において、これまで見落とされていた点やサーミ人に対する医療格差を解消するための議論が行われています。「サーミ人の視点を取り入れ、彼らの孤立や疎外感を解消すること。さらにサーミの文化や言語の保護・支援を一部の自治体で行うこと」を主な取り組みとしており、こうしたインクルーシブな提案を進めることで、医療格差も徐々に解消されていくとみられます。ノルウェーにおけるサーミ人の格差は他国ほどひどくありませんが、ノルウェー保健福祉省のイングヴィルド・ケルコル大臣は、「我が国の責任として、先住民であるサーミ人に対するこのような格差を絶対に見逃すわけにはいかない」と強い口調で述べています。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


Learning Cycle Logo

この記事を読んで、ダイバーシティの促進に興味を持たれましたか?そんな皆様には、私たちLearning Cycleのプログラムが必ずやお役に立ちます。詳しくはこちらをご覧ください。

Top Posts This Week


Learning Cycle Editorial Team

世界各国のスタッフライターから、旬なDE&I関連ニュースやトピックスをお届けします!

私たちは、社会や職場におけるダイバーシティの促進に日々全力を注いでいます。DE&Iの浸透に向けて、グローバルの色々な意見に触れてみてください。(更新日は毎週火曜日、木曜日を予定しています。) まだ一般的には数少ない、「DEIイベント・セミナー」も毎月ご紹介しています。こちらも是非お勧めです!

日本語と併せ、オリジナルの英語バージョンもお読みください。尚、時差と公開タイミングの関係から該当ページが表示されない場合があります。


Categories


In Association With

聴くテレ朝「ホンマのホンネ」(株式会社テレビ朝日)
サストモ(LINEヤフー株式会社)
「Pride Action30」特設サイト(パナソニック コネクト株式会社)