昨今私たちは、バーンアウト(燃え尽き症候群)やワークライフバランス、セルフケアについて語る機会が増えてきました。しかし、問題の本質に踏み込んだ内容は意外と少なく、表面的でポジティブな言葉があふれるばかりで、日々の生活がやっとの低所得労働者の実情に触れられることはほとんどありません。たとえば、週末に気軽に旅行へ出かけてリフレッシュできる高収入の人たちがいる一方で、介護職など低賃金の仕事に従事する人たちは、たとえ体調を崩しても簡単には休めません。たった1日仕事を休むだけでも家計に深刻な影響を及ぼすことがあり、家賃の支払いさえ危うくなることもあるからです。収入に関わらず、誰もが休暇を必要とすることに変わりはありませんが、実際には経済的な余裕のある人たちだけが休みを取れている現実があります。
所得が休暇の取得を左右
休暇を「取れる人」と「取れない人」に隔てているのは、社会的地位や人種、性別、勤務先の福利厚生といった構造的な格差にほかなりません。所得階層の下位10%に属する就業者で、有給休暇を利用できる人はわずか6%にとどまります。一方、上位10%では、43%の人々が「有休を取れる」と回答しており、そこには大きな開きがあります。また、有給の傷病休暇を利用できると答えた低所得層は52%にすぎませんが、高収入層ではより充実した休暇制度を利用している人が圧倒的に多い状況です。
アメリカで、「Family and Medical Leave Act(家族医療休暇法)」によって認められているのは無給休暇のみです。そのため低所得の人々は、たとえ心身ともに疲れ切っていても、休むという選択は現実的ではありません。常に生活費のやりくりに追われる生活の中で、たった1日の休暇でも、無給となれば大きな打撃となります。実際、アメリカの成人の約37%が、もし突然400ドルの出費の必要があっても、それをまかなえる経済状況にないと言われています。休暇分の収入保障がなければ、休む権利が制度上はあっても、それを行使する金銭的余裕がないのです。こうした格差は、特に低所得層の女性や有色人種の女性に顕著です。彼女たちの多くは、融通のきかないシフト制で働いており、休暇制度も不十分なままです。

所得階層別に見た有給休暇利用率(米国、2021年3月)
Credit: U.S. Bureau of Labor Statistics via The Economics Daily
無給の家族サポートと女性の経済的損失
一方で、たとえ休暇を取得できても、実質的な休息として活用しない、活用できないというケースが多々あります。病気の子どもの看病、ダブルワーク、その他家族の用事などに追われ、休息のための休暇のはずが、むしろ負担になってしまうということです。こうした状況では、サポートが必要な家族を抱える人々が、収入、家族のケア、そして自分自身の健康管理のうち何かを犠牲にせざるを得ないという、厳しい選択に直面します。実際、家族のサポートを無給で担う人々は、女性が59%を占めています。この状況は、母親である女性の生涯収入を平均で15%、金額にして約29万5千ドルも減少させる要因となっています。
休まず働くことが評価される企業文化
実は、こうした状況に拍車をかけているのは、企業文化そのものでもあります。常に全力で働くことが美徳とされる、いわゆる「ハッスル文化」は、多くの企業に根付いています。生産性の高さばかりが評価され、バーンアウトすら武勇伝のように語られ、少しでも休めば不利になるような風潮があるのです。そのため、有休制度があっても、実際に取得することに心理的なハードルを感じる人は少なくありません。働きすぎが常態化した職場では、休みを取ることに罪悪感を抱いたり、評価が下がるのではと不安を覚えることもあります。有給休暇を権利ではなく特典のように捉える誤った認識も未だにありますが、有休は従業員の定着率を高め、体調の改善効果もあり、ジェンダーや人種の格差を縮小する一つの有効な手段です。それにもかかわらず、アメリカの民間企業の従業員のうち、有休を取得できるのはわずか27%。制度自体が存在しない企業や、一部のみ保障する企業も少なくありません。こうした状況では、低所得層にとっては休みそのものが取りにくく、有給休暇は依然として手の届きにくい制度のままとなっています。

アメリカの就業者の4割以上が有給休暇を未消化 Credit: More than 4 in 10 U.S. workers don’t take all their paid time off, Pew Research Center, Washington, D.C. (August 10, 2023)
休暇は、心と体の健康のために欠かせないものです。それならば、その大事な休暇を誰もが公平に取れるということは、DEIを語る上で不可欠な視点の一つといえるでしょう。企業は、従業員一人ひとりが休暇をしっかり取得できているかどうか、そしてそれが実際に心身の回復につながっているかどうかを確認する責任があります。加えて、休暇取得が確かに奨励されているか、逆に休んだことで不利益を被るような暗黙の圧力がないかどうかにも、注意の目を向けることが重要です。
私たちには皆、心と体を整え、自分を見つめ直し、活力を取り戻すための時間と空間が必要です。休むことは、甘えでもなければ贅沢でもありません。それは本来、一部の人だけの特権ではなく、すべての人が等しく保障されるべき基本的な権利なのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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