近年、東京都はスタートアップ支援に大変積極的な姿勢を示しており、起業家の挑戦やイノベーティブな取り組みを後押しするため、「SusHi Tech Tokyo」のようなイベントを実施したり、支援制度の拡充に力を入れています。その一環で、国際女性デーに合わせて「EmpowerHER Week」が都内で開催され、働く女性が直面する課題に焦点が当てられました。ラーニングサイクルはソーシャルイシューの解決に貢献したいという思いからこの企画に賛同し、ひとつのパネルディスカッションの企画・運営を担当し、大変意義のある経験となりました。
男性育休の焦点は取得率より取得期間
第一部のパネルディスカッションには、ワーキングペアレンツを含むすべての社員が、子育てと仕事の間で悩むことなくキャリアアップできる職場を目指す、上場企業の人事担当者たちが登壇しました。彼らは、現場での実体験を通じて得た「公平性こそがカギである」との確信に基づき、非常に率直な意見を交わしました。
この中で、国の施策により男性の育児休業取得率が各社で高まっている現状が紹介され、中には取得率が100%に達している企業もありました。この状況は確かに大きな前進といえますが、ここでより注目すべきポイントは、取得率の高さより育休の取得期間にあります。実際、日本企業における男性の育休取得日数は、1日から数か月までと、大きな幅があります。しかし、育休が短期間となる場合、男性社員本人だけでなく、その家族も育休のメリットを十分に享受できません。つまりこのことは、企業側が育休の重要性やその背景にある意義を、社員に十分伝えきれていない可能性を示唆しているのです。

(左から)村上英貴氏(兼松)、徳永佳愛氏(マネックスグループ)、細川大輔氏(テレビ朝日)
マミートラックの二の舞とならないために
男性の育休取得を広げるためにさらに福利厚生を拡充することは、必ずしも根本的な解決にはならなのではないか、といった意見もパネリストの中から挙がりました。もし男性社員が半ば義務的に長期育休を取得できるようになったとしても、女性の産休取得が普及するにつれ「マミートラック」が問題になったように、今度は男性に同じ問題が起こるおそれがあるためです。制度を拡充するだけでは不十分であり、日本社会全体が家族やその役割に対する意識を見直すことこそが必要だという現実的な見方が、この意見の背景にあります。母親たちはすでに100%の力で家族を支えているのですから、父親も育休を取ることを目的とするのではなく、その期間を通じて、家事や育児に積極的に関わるという心構えが大変重要となってきます。そうすることで、これまで女性一人に偏っていた負担を夫婦で公平に分担し、心身をすり減らすことなく、仕事と家庭の両立を実現していくのです。
このような変化には、従業員の働き方に対する企業側の意識改革が欠かせません。現在も多くの企業では、常態化した残業や有給も取らずに働くことが未だ称賛される向きがあり、家庭での役割など、職場外の責任を持つ従業員が評価されにくいケースも少なくありません。しかし、働く母親や家族介護などを担う従業員も、高い意欲と能力を備えたかけがえのない戦力です。たとえ夜遅くまで残業ができなくても、そのことがキャリアに悪影響を与えるようなことは決してあってはなりません。

(左から) 溝上由夏氏、大島はるか氏、外山薫氏 (テレビ朝日)
性別役割の固定観念がもたらす格差の助長
家事や育児を夫婦間でどう分担するかという点は、第二部のパネルディスカッションでも中心的なテーマとなりました。このセッションには、子を持つ母親であり、現役のテレビ局プロデューサーでもある3名のパネリストが登壇し、日本における仕事と家庭に関するさまざまな興味深いデータが示されました。中でも特に印象的だったのは、未就学児を持つ親の「会社からの帰宅時間」に関する男女比較のデータでした。右のグラフが示すように、47都道府県すべてにおいて、女性は男性より早い時間に帰宅していることが明らかになったのです。このデータによると、女性の全国平均での帰宅時間は夕方5時ごろとのことでした。つまり、母親が時短勤務などで早く帰宅するケースが多く、家事や育児の担い手が母親に集中している実態があるということです。こうした傾向は、「父親プレミアム」や「母親ペナルティ」と呼ばれる現象にも通じています。たとえば男性は、妻が家庭を支えてくれることで自分は長時間働くことが可能となり、子どもの誕生を機に昇給する傾向にあります。ところが女性は、夫から同様のサポートを受けることが少なく、出産後に昇給することは中々叶わず、高い業務評価を得ることもほぼありません。そのため昇進機会が限られてしまい、キャリアにマイナスの影響が出やすいのが現状です。
女性がそのような困難に直面する一方で、男性が家事や育児を行うと周囲から「父親の仕事ではないのでは」と批判を受けることもあります。これは、家庭内の労働は女性の役割だという文化的な固定観念が、まだ社会全体に根強いためです。また、これまで妻が主に家事や育児を担い、自分のやり方を確立してきた結果、夫が異なる方法で関わろうとすると夫婦間で摩擦が生じることもあります。

未就学児を持つ働く親の平均帰宅時刻|都道府県別の男女比較
Credit: Labor Policy Council
こうした状況を乗り越えるためには、男性自身が家事や育児の重要性を真剣に理解し、妻の貢献を当然と捉えることなく、パートナーとして敬う姿勢が求められます。そして女性も、たとえ夫の家事や育児の方法が自分と違っても、それを間違いと決めつけない寛容な姿勢を持つことが大切です。
誰もが自分の可能性を発揮できる社会へ
今回登壇したパネリストたちは、それぞれの企業文化の変革に積極的に取り組みながら、従業員とその家族にとって意味のある、現実的な働き方を日々模索しています。これまで多くの女性たちが、家庭と仕事の間で揺れ動きながら、男性の仕事の成功を支える土台のような役割を担ってきました。この不公平な状況が放置され続ける限り、女性の真の社会進出は実現しません。DEI推進をただ支持するだけでは、何も変わらないのです。私たちラーニングサイクルは、女性のエンパワーメントを目的としたイベントや勉強会を通じて、同じ目標に向かい共に歩む仲間とのつながりを大切にし、強化していきたいと考えます。そして、社会や職場に存在する格差や、「家事と育児は女性の仕事」といった固定観念を乗り越え、女性たちが自分の可能性を最大限に発揮できるインクルーシブな社会をこれからも目指し、前進し続けます。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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