日常と化す家庭での介護|疲弊する家族を孤立させず救う社会へ

アメリカ在住の私は、ある時、仕事の都合で別の州へ引っ越すことになりました。その州には私の祖父母が住んでいましたが、間もなく祖父が亡くなり、私は家族介護者として祖母を支えることになりました。祖母の認知機能の低下には周囲の家族も気づいてはいたものの、祖父が亡くなって初めて、祖母の毎日の生活をどうサポートするのかという現実的な問題が私たちに突きつけられることになったのです。私は、自分が比較的フレキシブルに動ける立場にあったので、すぐに祖母の介護を引き受けることを決めました。しかしいざ始めてみると、身近な親戚の中にも、日常的に家族の介護を担っている女性が何人もいることに改めて気づかされました。

仕事との両立に向き合う家族介護者

皆さんの周辺でも、思いのほか多くの友人や親族が、家族の介護に関わっている状況かもしれません。オンライン精神科医療サービスを提供する「Remedy Psychiatry Inc.」によると、現在アメリカ人の3人に1人が、高齢者や障がいのある身内の介護を行っているといいます。さらにそのうちの5人に3人は、日々の仕事に加えて介護の責任も負っています。こうした状況では、家族介護者が自分の時間を確保したり、ストレスを発散したりする余裕はほとんどありません。多くの人が、経験も知識もない中で、突如として始まった介護と懸命に向き合っているのです。

報われずストレスを抱え続ける介護労働

家族の介護は、その負担の重さに比べて、正当に評価されにくい労働です。家族の世話をしたからといって、誰かに褒められるわけでもありません。こうした介護に関する無償労働は「バーンアウト(燃え尽き症候群)」につながりやすく、特に家族介護者は高いストレスを抱えがちです

こうした状態が続くと、不安障害やうつ状態に陥るだけでなく、解離性障害の一種で自分の意思と体が分離したように感じる「離人症」を発症することもあります。また、介護そのものに対して達成感を見いだせなくなることもあります。このような過酷な状況の背景には、過剰な労働量や、いくつもの役割を同時にこなさなければならない負担感、そして自分の時間が奪われるような感覚からくるストレスなどが挙げられます。

誰もが家族介護に関わる可能性を持っていますが、特に職場でもバーンアウトしやすい傾向のある女性たち、自分より家族を優先する文化を持つアジア系、1人で全てを抱え込みやすい未婚の人々は、家族介護による強い疲弊を感じやすいと言われています。女性の介護者においては、慢性的なストレスが身体的な病気のリスクを高め、それが男女間の健康格差をさらに広げる要因にもなっています。また、長期間にわたって強いストレスにさらされることで、介護者の心身にはさまざまな悪影響が現れます。特に、黒人やLGBTQ+の介護者は、支援ネットワークが小規模であることなどから、経済的負担がより重くなりがちです。

介護者が各タスクに費やす時間を示すグラフ

家族介護者の1日の時間配分(一般平均値との比較) 
Credit: More than one-in-ten U.S. parents are also caring for an adult, Pew Research Center, Washington, D.C. (November 29, 2018)

追い詰められた先の「暴力」

介護する側が疲弊してしまうと、その影響は介護を受ける側にも及びます。学術誌「Journal of Interpersonal Violence」に掲載された研究によれば、うつ状態や健康問題を抱える家族介護者は、被介護者に対して暴力をふるうリスクが高くなることが示されています。また、認知症の人によく見られる「被介護者による暴力」も、家庭内での虐待やさらなる暴力への引き金となる可能性があります。こうした現実は、介護者だけでなく、被介護者の安全と尊厳を守るためにも、早急な対策が必要であることを示しています。

「介護休暇」の普及で介護者を支える社会へ

介護休暇という取り組みはまだ比較的新しいものですが、コロナ禍以降、その必要性が一層注目されるようになりました。従業員たちはこれまで以上に柔軟な働き方を求めるようになり、特に女性たちの間では、充実した福利厚生を重視する傾向が強まっています。人事・財務分野のクラウドサービスを提供する「Workday」は、この問題に正面から取り組んでいる数少ない企業のひとつです。同社では、育児や高齢者の介護など、さまざまな「ケア労働」を担う従業員に対して介護休暇を導入しています。年間最大12週間の休暇を認めており、従業員が家庭での責任を果たしながらも、心身をリフレッシュできる柔軟な仕組みを実現しています。このような制度がより多くの場に広がれば、社会における格差の是正や経済的負担の軽減に加え、介護者と被介護者の心身の安定にも必ずやつながっていくことでしょう。

2人の女性が高齢の親族と楽しげに会話している

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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