2009年、ディズニーがアニメーション映画「プリンセスと魔法のキス」の公開を発表したとき、私は大きな期待に胸が高鳴りました。待ち望んでいた黒人プリンセスの誕生であり、しかも舞台が私の故郷のニューオリンズだったからです。ところが、映画館で私が目にしたのは、物語の大半を通して描かれる「2匹のカエル」の姿でした。残念なことに、こうした例は珍しくありません。大手制作会社が手がけるアニメーション作品では、主人公が白人ではない場合、動物や精霊など人間以外の姿に変身させられ、ほぼその状態で作品が終わることが少なくないのです。「プリンセスと魔法のキス」では、主人公ティアナがカエルの姿で描かれるシーンは映画の約70%を占めています。「ソウルフル・ワールド」の主人公である黒人音楽教師ジョー・ガードナーは青い魂や猫の姿に変わり、「スパイ in デンジャー」の黒人スパイ、ランス・スターリングは鳩に、「ブラザー・ベア」のイヌイットの少年キナイは熊になります。こうしてみると、人間として描かれる条件は、今なお「白人かどうか」であることが分かります。作中で有色人種を動物や人間以外の存在へと変えてしまう風潮は根強く続いており、その結果、有色人種の子どもたちが、自分と同じ人種の「人間の主人公」をスクリーン上で目にする機会が大きく制限されています。
スクリーンに映る多様性の欠如
白人ではない主人公を人間以外に置き換えることで、有色人種の描写はさらに少なくなり、結果的に白人ばかりが登場する状況が続きます。欧米のアニメーションを対象にした調査では、現代のアニメ作品の多くが、差別的な現代の社会構造をそのまま色濃く反映していることが示されています。メディアにおける有色人種の描写は、これまで同様今も限定的で、改善は少しずつ進んでいるものの、変化はごくわずかです。1930年代から1990年代半ばまでに制作されたアニメ作品を分析した研究では、人種的マイノリティのキャラクターが出ている作品は全体の16.1%にとどまる一方、白人のキャラクターが登場している作品は約70%にのぼりました。こうした数字からも、作品に描かれる人種構成に大きな偏りがあることが明らかです。しかし、この問題はアニメ業界だけに限ったものではありません。マイノリティが主役となりにくい背景には、ステレオタイプに基づく単純な描き方や固定的な発想があり、これはハリウッド全体に共通する課題でもあります。

マイノリティキャスト出演比率と映画興行収入の関係(2011–2021年)
Credit: UCLA College of Social Sciences via Hollywood Reporter
子どもたちは映画に自分自身を重ねる
より現実を反映した表現を求める声が高まる中で、これまでの風潮に抗い、有色人種のキャラクターの人生や物語を取り上げた作品も増えています。たとえば「スパイダーマン:スパイダーバース」、「ミラベルと魔法だらけの家」、「モアナと伝説の海」、「ベイマックス」といった近年の作品では、有色人種の主人公が生き生きと、物語の最初から最後まで人間の姿で描かれています。子どもたちはこうした映画をただ楽しむだけでなく、スクリーンに映る登場人物の顔立ちや家族、彼らを取り巻く世界観に自分との共通点を見つけ、自分自身を重ねて心を弾ませるのです。
登場人物がどのように描かれるかによって、作品は単なる娯楽を超え、観る人に希望を与えます。また、多様な主人公を描いた作品は、興行的にも安定した成功を収めています。このことから、社会には偏見が残る一方で、一般の観客は多様でインクルーシブな物語を受け入れ、高く評価していることがうかがえます。マイノリティが主役の作品が予想以上に広く支持されていることを受け、映画やアニメーションの制作現場では、多様なクリエイターの起用や表現方法の見直しが進みつつあります。「人間として描かれる機会の格差」は、ようやく縮まり始めているのかもしれません。
有色人種のキャラクターが人間として描かれる意義
キャラクターが人間の姿のまま描かれることで、その個性や感情、髪型や顔立ち、しぐさ、さらには考え方や習慣まで、人物としての豊かさや深みが伝わってきます。子どもたちはそこに、自分自身の姿と想像の世界を重ねることができます。一方で、主人公が途中で人間以外の存在へと変えられてしまうと、子どもたちは自分を「人間のヒーロー」として重ね合わせることができなくなり、「有色人種の物語は、人間であることを手放さないと成立しない」というメッセージだけが強い印象として残ってしまいます。有色人種のキャラクターを闇に葬るのではなく、「ありのままの人間」が描かれた作品こそ、人々の共感と感動を呼ぶものです。観る側の私たちも、そうした作品を今後も応援し続けることがとても重要です。

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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