体に不調を感じたとき、医療機関を受診するのはごく当たり前のことです。しかし、女性が医療を受けようとすると、多くの壁に直面します。たとえば痛みを訴えても、それが身体的な問題ではなく不安やストレスによるものだと片づけられ、まともに診断してもらえないことがあります。黒人女性をはじめとするマイノリティの女性たちに至っては、医療に残る偏見から誤診や適切な治療の遅れが生じやすく、その結果、死亡率は依然として高い状況です。とりわけ女性特有または女性に多い疾患を抱える場合、適切な医療にたどり着くまで険しい道のりとなるのが現実です。
将来の妊娠の可能性が今の治療を決める
かつてアメリカでは、医薬品の臨床試験に女性の参加を大幅制限する規則が存在していました。この背景には、1970年代にある薬が子どもに先天異常をもたらすことが発覚し、それをきっかけにアメリカ国立衛生研究所(NIH)が女性全般の参加を一律に禁止した、という経緯があります。結果として、妊娠の可能性が極めて低い独身女性や避妊中の女性、さらには、パートナーがパイプカット手術を受けている女性まで、将来の妊娠の可能性だけを理由に臨床試験の対象から外されました。つまり、今この世に存在する女性の健康よりも、将来生まれてくるかもしれない子どもの安全が優先されてきたということです。
こうした考え方は、現代の医療にも根強く残っています。生命に関わる病気であっても、将来の妊娠への影響を考慮すべきという理由で、必要な治療を病院側に拒まれる女性は少なくありません。たとえば「月経前不快気分障害(PMDD)」は、強い抑うつや不安、イライラの症状が特徴であり、仕事や人間関係に深刻な影響を及ぼし、ときには自殺念慮にまで至ることがあります。この症状に対して有効とされる治療に、卵巣摘出による外科的閉経が知られているものの、多くの場合この手術はすでに不妊要因が明らかになっている女性にしか認められません。将来妊娠の可能性があるというだけで、女性自身の意思や深刻な症状よりも、医療側の判断が優先されてしまうのです。

月経前不快気分障害(PMDD)の症状周期
Credit: U3217109, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

各疾患の女性患者および女性の臨床試験件数の割合:自己免疫疾患、精神疾患に大きな差
Credit: Clinical Trials Arena, JAMA, Harvard Medical School, via Forbes
患患者の希望より「妊娠可能性」を優先
女性が自殺を考えるほどの痛みに苦しんでいても、あるいは、癌のような命に関わる病を抱えていても、医療現場ではしばしば「今必要な治療」より、「将来妊娠できる可能性」が優先されます。アメリカの29歳の母親ジェナ・ボワは、子宮頸がんを患い、再発リスクを抑えるため子宮の摘出手術を希望しました。しかし、担当医は「もっと子どもを産めるはずだ」として手術を拒否し、代わりに行った処置によって彼女の状態は悪化してしまいました。また、イギリスで重度の子宮内膜症を患っていた26歳のエミリー・グリフィスは、この時まだ子どもがいなかったことや将来母親になる可能性があることを理由に、子宮摘出を断られました。激しい苦痛を訴える彼女に対し、医師は「ピラティスやヨガを試してみては」と言い、その一言に、彼女は自分の痛みがどれほど軽んじられているかを痛感したといいます。
少しずつ広がる女性の選択肢
女性たちは今も変わらず、将来の妊娠よりも現在の自分の健康を優先してほしいと訴え続けています。中絶規制の存在や、妊娠に関わる特定の治療への障壁、そして女性の身体について医学的知見が十分に蓄積されてこなかったことなど様々な要因が重なり、本来なら助かるはずの命が現実的に失われています。それでも、現状には少しずつ改善の兆しが見えています。例えば、女性特有の健康課題にテクノロジーで応える「フェムテック」の発展により、医療格差を縮める取り組みが進められていることが挙げられます。また、米国食品医薬品局(FDA)は更年期ホルモン治療に関して、治療薬のパッケージや添付文書に記載されていた「重篤な副作用リスクの警告表示」を撤廃しました。この警告は1990年代に、ホルモン治療が心疾患や乳がんリスクを高めるとの指摘を受けて加えられ、医師は治療のガイドラインとしてきました。しかし、近年の大規模研究により、リスクが過剰に強調されていたことが明らかになっています。この変更によって、医師も患者も不要な心配に縛られずに治療方針を検討できるようになり、これまで選択肢から外されていた治療法も視野に入れられるようになってきました。
最終的に必要なのは、「女性が自分の身体のことを自分自身で決める権利」を尊重し、女性を「出産するだけの存在」としてではなく、一人の人間として認める社会をつくることです。その実現のために、私たち一人ひとりが声を上げ、行動していくことが求められています。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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