女性がジム通いを止める理由|見た目重視が作る危険な環境と影響

フィットネスジムといえば、運動不足解消や健康促進、自分磨きの場としてポジティブなイメージを持つ人が多いでしょう。しかしその明るいイメージとは裏腹に、性別によって、ジムで感じる居心地や安心感、運動への取り組み方まで異なるのが実情です。そして、フィットネスにおける非現実的な「理想体型」は、決して女性だけの問題ではありません。男女問わず、世間一般が理想とする体型を意識するがあまり、無理なダイエットや過剰な運動などの不健康な行動を引き起こすのです。まずはこうした現実を理解することが、インクルーシブなフィットネス文化を作るための第一歩です。

女性がジムで運動しにくい理由

運動がメンタルヘルスの改善に効果的であることは、多くの研究で明らかです。ところが、アシックスの調査では、多くの女性がスポーツジムという空間を「安全ではない」「十分に配慮されていない」と感じていることがわかりました。これは、いわゆる「ジム恐怖症(Gym-phobia)」の一例で、理想体型を意識させられる空間への抵抗から生じる現象です。ジムを男性中心の空間だと感じる女性や、理想体型の人向けの場所と考える肥満の人が陥りやすいといわれます。自分の体型を笑われたり、性的対象として見られたり、さまざまな声かけに不快感や恐怖を感じるため、服装を過度に気にしたり、ジム通いそのものを避けたりしてしまうのです。

1年以内にジムを辞める割合が、男性より女性のほうが大幅に高いことを示すインフォグラフィック

ジム通いを1年以内でやめてしまう人の男女別割合
Credit: Muscle+Brawn


理想体型を意識し過ぎて失われる自信

こうした空間的なハードルに加え、時代とともに変化してきた「理想の体型」そのものも、人々のフィットネス観に大きな影響を与えています。かつては、女性には「細さ」、男性には「ムキムキの筋肉質」といった性別による理想が存在しましたが、最近では男女問わず「筋肉を感じさせる引き締まった体」を良しとする傾向があります。性別にとらわれていない点ではジェンダーニュートラルとも言える基準ではありますが、ほとんどの人は簡単には達成できません。そんな中、SNSではこうした「完璧な身体づくり」をテーマにした投稿があふれています。このような投稿は「フィットスピレーション(Fitspiration)」と呼ばれ、健康的で美しい体を目指す意欲が高まる一方、それを目にした人の多くは、自分の体型への満足度が下がることも研究で示されています。女性は、SNSに登場する人たちとの比較で自分の体型への自信を失いやすく、男性は過酷な筋トレと減量の繰り返しに陥りやすいといいます。

理想の体を追い求め過ぎて、かえって健康を損なうこともあります。たとえば極端な食事制限は、摂食障害や代謝の低下、栄養不足、骨密度の低下、月経不順などさまざまな深刻な問題を引き起こします。また、近年注目される新たな摂食障害の一つに「オルトレキシア(Orthorexia)」があります。これは、健康的と自分が信じる食事以外は一切摂らない傾向のことで、小麦や添加物の入った食品や加工食品を徹底的に避けたりする行動を指します。こうした極端な行為がかえって拒食症や過食症につながり、心疾患や不妊症、臓器障害など、命を脅かすリスクを高めてしまいます。

運動のやり過ぎは逆効果

繰り返しになりますが、フィットネス業界で称賛されがちな過剰な運動は、心身の健康に悪影響を及ぼします。摂食障害専門の学術誌「Journal of Eating Disorders」の研究によれば、過度な運動は免疫機能の低下、慢性疲労、疲労骨折、ホルモンバランスの乱れにつながることが示されています。特に女性の場合は、過度な運動とエネルギー不足により、ホルモン分泌が抑制され無月経となり、骨量維持に必要なエストロゲンが低下することで、骨粗鬆症のリスクが高まります。これは「女性アスリート三主徴」と呼ばれ、それぞれが相互に影響し合いながら進行する健康障害です。

男性では、筋肉質な体型を求めるプレッシャーから、アナボリックステロイド(筋肉増強を目的とした合成ホルモン)や未規制のテストステロン補助剤(男性ホルモンを補うサプリメント)の使用が増えています。アメリカ国立薬物乱用研究所(National Institute on Drug Abuse)によれば、ステロイドの乱用には心臓病、肝障害、不妊、攻撃性の増加などのリスクが存在します。それにもかかわらず、多くの人は競技目的ではなく、外見を良く見せるためにこれらの物質に手を出してしまうのです。

フィットネス界に存在する現実離れした体型基準の問題は、単なる外見上の話だけではありません。どんな人がジムに通うか、ジムでの運動を快適と感じられるか、目指す体型に近づくためにどれだけ自分に負荷をかけるのかといった、人々の行動や心理状態にまで広く影響を与えます。だからこそ、理想体型への妄信を手放すこと、そしてフィットネスジムを安全な環境に変えることが重要です。フィットネス体験が与える様々な影響を理解することで、「完璧な体」を追い求めるのではなく、自分の健康や心身のケアのために運動できる、誰もが参加しやすいフィットネス空間を作ることができるでしょう。

女性が床に置いたノートパソコンを見ながら、片手にドーナツ、もう片手にダンベルを持っている。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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