意外に感じる人も多いかもしれませんが、アメリカには、国が一律に義務づける「有給の育児休業(育休)制度」が存在しません。そのため、新たな家族を迎える家庭への支援体制は、州や勤務先によって大きな差があります。連邦法である「家族医療休暇法(Family and Medical Leave Act)」では、一定の条件を満たす従業員に対し、子どもの出生やその他対象となるライフイベントの際に最長12週間の休暇を取得する権利が認められています。しかしこの休暇は無給であることに加え、勤務先企業が半径75マイル(約120km)以内に従業員50人以上を抱えていること、そこでの勤務歴が12カ月以上であり、過去12カ月間で1,250時間以上の勤務実績があることなど、さまざまな条件を満たす必要があります。
州によって異なる有給育休の実態
こうした厳しい要件により、多くの従業員は育休制度の対象から外れてしまいます。また、たとえ条件を満たしていたとしても、無給で仕事を長期間休めるほどの経済的余裕のある人はそう多くありません。一部の州では、給与の一部を補償する有給の家族休暇制度が導入されていますが、給付内容や条件は州や所得水準によってばらつきがあります。現在、有給育休制度を義務づけているのはわずか14州にとどまり、それ以外の地域では安定した保障がありません。そのため、有給で育休を取得できるかどうかは、所得や勤務先企業、居住地域によって変わり、最も支援を必要とする人々ほど制度を利用できない状況に置かれています。
有給育児休暇は、すべての人に平等に与えられているものではありません。高所得層は、低所得層に比べて休暇中に一定額の給与を受け取れる割合がおよそ2倍に上ります。また、給料が全額補償されたり、より長期の休暇を取得できたりするケースも多く、リモートワークやハイブリッド勤務といった柔軟な働き方の選択肢も与えられています。一方、低賃金労働者で有給の育休を利用できるのはわずか1~2割程度にすぎず、多くの人が無給の家族医療休暇法を利用するか、十分な休養を取れないまま早期に仕事へ戻ることを余儀なくされています。
アメリカの非営利調査機関ピュー・リサーチセンターの調査によれば、有給での育休を利用できない母親たちは育児休暇を無理に短縮したり、公的支援に頼ったり、借金を抱えさまざまな支払いが滞るなどの実態が明らかになっています。有給育休制度を導入している州であっても、賃金補償には上限があるケースが多く、家計のやりくりは容易ではありません。こうした状況は経済的な困窮の連鎖を生み、無給または収入が減る休業期間をどう乗り切るか、仕事や収入についてどうするか、人々は難しい選択を迫られます。そしてときには「そもそも子どもを持つ余裕が自分達にあるのか」という考えにまで至ることもあるのです。

州ごとの有給育児休業および医療休暇制度の状況 (青:法的義務あり/ピンク:企業による任意提供/グレー:なし)
Credit: Emily Wielk via Bipartisan Policy Center
支持率82%でも進まない制度化
アメリカでは、国民の少なくとも82%が母親への有給育休制度を支持しています。これほど強い世論の後押しがあるにもかかわらず、有給育休は全員が当然のように利用可能な支援制度ではなく、優秀な人材を獲得するための企業の福利厚生として位置づけられることが少なくありません。経済的なメリットも明らかであり、有給育児休業に1,000ドル投資するごとに、7,000~29,000ドルの純利益が生まれるとも言われています。これは主に、特に女性従業員の離職率改善によってもたらされるもので、この制度を導入している企業では、優秀な人材の雇用だけでなく、従業員の満足度や生産性の向上も見られます。
有給育休をめぐる長い道のり
今後も、国が制度として育児休業の権利を保障しない限り、その恩恵を受けられる人とそうでない人の間には格差が残り続けます。多くの家庭が、人生における最も重要な局面で、十分な支援を受けられない状態にあるのです。家族医療休暇法の成立を後押しした「Paid Leave for All」のような団体は、すべての国民が有給の育休を取得できるよう、制度の拡充に向けた活動を続けています。現時点ではまだこの制度を法制化するには至っていませんが、最近では年間最低10日間の有給休暇を保障する「保護された有給休暇法案(Protected Time Off Act)」が提出されるなど、着実な歩みも見られます。 この法案には43人の連邦議会議員が共同提案者として名を連ねていますが、成立までにはまだ多くの壁が立ちはだかっています。
もちろん、有給育休の有無だけが、子どもを持つかどうかの判断基準というわけではありません。 しかし十分な支援制度がなければ、出産や育児を先延ばしにしたり、親になること自体をためらう要因になり得ます。経済的な豊かさだけでなく、安心して子育てができる社会をつくるためには、親をしっかりと支える保障制度が不可欠です。

Credit: Ciphr, CC BY 2.0, via Flickr
ゲストライター M. Hickmanによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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