出社組だけフリーランチは不公平|全員が使える福利厚生へ

無料の食事提供やオフィスの一角に設置されたリフレッシュスペース、そしてそしてジム利用補助やメンタルケアといったウェルネスサポートなどは、現代の職場における福利厚生の定番です。こうした制度は就職先を選ぶ際の魅力的な条件の一つでもあり、企業の採用活動においては大きなアピールポイントになります。しかし実態として、こうした恩恵を十分に受けられるのは、私生活に時間や心の余裕がある一部の従業員に限られることが少なくありません。そのため、より多くの従業員が幅広く利用でき、職場環境そのものを改善する「インクルーシブな福利厚生」を、優先的に整備することが重要です。

平等な福利厚生を妨げる壁

職場環境や働き方が変化し続ける中で、私たちは従業員のウェルビーイング(心身の健康や生活の質) を妨げる構造的な障壁を取り除いていく必要があります。私自身、HRで実務に携わってきた経験から、インクルーシブな福利厚生の実現において重要なのは「その制度の有無」だけではないと実感しています。制度として様々な福利厚生が用意されていても、実際に利用するには本人に時間的な余裕が必要だったり、上司の承認が必要になったりすることもあります。職場の不平等は、こうした見えない条件によって生み出されています。 

働き方の違いで生まれる制度の格差

オフィス勤務を前提としている福利厚生は、当然ながら、毎日出社ができ、決まった時間に勤務が可能で、仕事の状況によって私生活も調整できるような人ほど利用しやすい仕組みになっています。家事は行わず、家のことはすべて妻に任せきりの男性などがその典型例です。コロナ禍における感染拡大防止をきっかけに普及したリモートワークは、結果として出社前提の働き方の不平等を和らげる解決策にもなりましたが、すべての業界で導入できるわけではありません。米国の調査機関ピューリサーチセンターによると、在宅勤務が可能な職種に就く人の75%が、実際にリモートワークを活用していると回答しています。しかし、対面で顧客対応を行うフロントラインの従業員など、出社が必須となる業務の担当者はそもそもリモートワークという選択肢すらありません。出社と在宅のハイブリッド勤務は、働き方の柔軟性を高める素晴らしい選択肢ではあるものの、利用できない従業員が一定数いる以上、それは公平な福利厚生とは言えません。

同様の問題は、医療費負担にも当てはまります。勤務先の企業に医療保険制度があっても、医療費の実質負担が軽くなるわけではありません。米国の医療政策に関する調査機関KFFが実施した2025年の「従業員向け医療給付調査」によると、従業員本人とその家族を対象とする企業提供の医療保険の年間保険料は平均26,993ドルに達し、そのうち従業員の自己負担額は、年間平均6,850ドルでした。これは、フルタイム勤務者の年収(中央値ベース)のおよそ11%に相当します。しかもこの金額は毎年支払う保険料のみで、病院の受診や薬代など、別途支払う自己負担分の医療費は含まれていません。自己負担金額の重みは収入によって大きく異なり、収入に余裕のある従業員にとっては家計への影響が小さい一方、収入の少ない従業員にとっては同じ金額でも生活を圧迫します。

また、自己啓発に対する支援制度にも同じような格差が見られます。従業員の自己研鑽の学習費用を補助することと、実際に学ぶ時間や環境を与えることとは全くの別問題であるため、こうした学習支援制度も、もともと学習しやすい環境にいる従業員ほど利用しやすい傾向があります。例えば、日本の「令和6年度能力開発基本調査」によると、54.9%の企業が従業員の自己啓発学習に一定の補助を行っています。また、2025年には、従業員が教育訓練を目的に休暇を取得した際に給付金を受けられる「教育訓練休暇給付金」も創設されました。 しかし、こうした制度を利用できるよう、教育訓練休暇を就業規則などで整備していた企業は、わずか7.5%にとどまり、制度というサポートが存在しても、現場の環境が追いつかず形骸化してしまう実態が浮き彫りになっています。

米国の労働者にとって、保険や退職給付以外で評価の高い福利厚生を示すグラフ

従業員が望む福利厚生(アメリカ)
Credit: https://www.wellable.co/blog/most-popular-employee-perk-is-time/


従業員ニーズに合わせた再設計の必要性

このような事例からも分かるように、福利厚生は、実際に利用する人の状況に合わせて見直していく必要があります。その一例が、通勤手当などの交通費補助です。アメリカでは通勤費補助は比較的珍しく、米労働統計局によると、通勤費の補助を受けていた労働者は2025年3月時点でわずか11%でした。賃金水準が最も低い層での割合は4%と低く、賃金水準が最も高い層の18%とは大きな差があります。また、通勤手当が補助される場合でも、一律の支給方法では十分とはいえません。電車やバスなどの公共交通機関で通勤する人、自家用車や自転車を利用する人、日によって通勤手段を使い分ける必要がある人など、従業員の通勤事情はさまざまです。そのため、特定の通勤方法だけを対象にするのではなく、一人ひとりが自分に合った移動手段を選べるような、柔軟な交通費補助を設けることが重要です。

企業は、どれだけ多くの制度を揃えたかで満足するのではなく、制度を活用しにくい従業員に必要な支援は何かを考えることから始めるべきです。人事部門のリーダーに求められるのは、福利厚生を整備することだけではありません。従業員が制度のどこに利用しづらさを感じているかを明らかにし、誰もが恩恵を受けられるよう改善していくことも重要な責任です。 インクルーシブな福利厚生は、すべての従業員が無理なく利用できる環境が整って初めて、その価値を発揮します。

企業オフィス勤務、在宅勤務、工場勤務の労働者がそれぞれの職場環境で働く様子を並べて示した画像

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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