もう一つの人生を生きるリアルな空間|ゲームがくれた自由と友情

Image: Blizzard Entertainment


皆さんは、World of Warcraft(通称WoW)というオンラインゲームをご存じでしょうか。これは世界中のプレイヤーとオンラインでつながりながら、広大なファンタジーの世界を冒険できる多人数同時参加型のロールプレイングゲームです。その世界で、ノルウェーの青年マッツ・スティーン(Mats Steen)は、「イベリン(Ibelin)」というキャラクターで知られていました。彼は生まれつきデュシェンヌ型筋ジストロフィーという進行性の病を患っており、そのため筋肉は徐々に衰え、身体の自由も奪われていきました。それでも、マッツはWoWの世界で自由な自己表現の喜びと人とのつながりを見い出し、カリスマ性と冒険心にあふれたキャラクターを創り上げ、世界中のプレイヤーと国を越えた深い友情を築きました。マッツの家族が、オンラインコミュニティでの彼の広い交流について知ったのは、彼が25歳で亡くなった後のこと。世界中のプレイヤーたちから寄せられた悲しみと感謝のメッセージを目の当たりにし、マッツの存在と彼が与えた影響の大きさを、家族は初めて知ることとなったのです。彼の物語は、ドキュメンタリー映画「The Remarkable Life of Ibelin(邦題:イベリン、彼が生きた証)」として映像化され、ゲームに馴染みのない人々にもその存在が知られるようになりました。この作品では、障害のある人々にとって、ゲームが社会との共生やつながりを築くうえでとても大きな力を持つことが、実際の映像の中で描かれています。

コミュニティとして機能する「ゲーム」

マッツ・スティーンのWoWでの経験は、たとえバーチャルな空間であっても、人との深いつながりや生きがいが生まれることを私たちに教えてくれます。オンラインに広がるコミュニティを通じて、マッツは一度も会ったことのない人々と、深い友情を築くことができました。これは、どんな人でもゲームに参加しやすい環境を実現した、現代のゲーム技術の進化により可能になったものです。例えばWoWには、約50種類の便利な機能があり、中には「クモは見るだけでも怖い」という人はクモを甲殻類に変更できたり、乗り物酔いに似た「画面酔い」を軽減できる機能など、様々な設定が設けられています。

カスタマイズ機能で誰もが楽しめる環境

最近のゲームには、テキスト読み上げや音声の文字変換といったコミュニケーション支援機能も備わっており、聴覚や発話に困難を抱えるプレイヤーでも安心して楽しめるようになりました。字幕もカスタマイズ可能で、文字の大きさや位置を変えるだけでなく、背景の透明度を調整して視覚障害のある人にも字幕を見やすくしたり、登場人物ごとにセリフを色分けすることもできます。視覚や聴覚に頼らずにゲームを楽しめるよう、振動など触覚的な反応を加えたり、音声でゲームの指示を出すなどの機能もあります。また、難易度の調整、片手操作モード、ターゲットに自動的に照準を合わせてくれる「オートエイム機能」といったオプションもあり、より多くの人々が、仲間とのつながりやプレイヤーごとの自由な楽しみ方でゲームに参加できるようになっています。

ゲーム空間で生まれる一生の絆

ゲームへのハードルを下げるこうした工夫や技術は、デジタルの分野以外にも広がりを見せています。UNOなどのカードゲームを手がけるアメリカのMattel社は、「言語や文化を超えて人々をつなげ続ける」という目標を掲げ、2025年までに、自社のゲームの90%を色覚異常の人でも色を区別しやすい仕様に改良すると発表しています。さらにゲーム機器技術の革新により、マッツのように身体が不自由な人も、好きなゲームを思う存分楽しめるようになりました。

たとえば、Microsoftの「Xbox Adaptive Controller」は入力方法を選択でき、体を思うように動かせなくても、ゲームの操作環境を状態に合わせて設定できます。さらに、足踏みペダル型のコントローラーや口でくわえて操作する「ジョイスティック」なども登場し、手による操作が難しい人でもゲームへの参加が可能です。

障害のあるゲーマー向けに設計されたアダプティブコントローラー

Credit: Geni, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

マッツ・スティーンの物語は、障害のある人々にとって、ゲームが人生を変えるほどの力を持っていることを強く世の中に訴えかけています。しかしゲーム業界は今なお、専用コントローラーや入力装置の製作にかかる高コスト、プラットフォーム間での標準化の問題、オンライン上でのハラスメント行為など、真のアクセシビリティを実現するまでに多くの課題を抱えています。私にはマッツのように難病と闘う苦しみを語ることはできませんが、自身の経験から、ゲームコミュニティで生まれる絆の可能性には確信を持っています。実際、20年前に親友と私はWoWの「ストラングルソーン」の海岸で出会い、今でもその友情は続いています。誰もがゲームを通じて人とつながり、私のように生涯続く友情を育めるよう、ゲーム業界が今後も「誰でも参加できる場づくり」を最優先にすることを願っています。

身体の自由がきかない男性が適応ツールを使いノートパソコンを操作

Image: FreePik

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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