見えない障害と交通アクセシビリティ|個々に応じた配慮へ

アクセシブルな移動とは、障がいの有無にかかわらず、誰もが必要な情報や支援を受けながら、安全に、そして自分の力で目的地へ向かえる環境を指します。その実現には、単に交通機関を利用できるようにするだけでは十分ではありません。どの交通手段を使い、どのルートを選べばよいのかが明快であり、困ったときにはどこでも適切なサポートを受けられるという安心感が欠かせません。

多くの交通事業者は、すべての人が利用しやすい環境づくりに向けて日々工夫を重ねています。しかし、「障がいのある人には皆同じような支援を提供すればよい」という考えが根付き、画一的な対応が行われるケースが今なお少なくありません。現実には、ある人にとっては心強いサポートであっても、別の人にとって同様に役立つとは限りません。それぞれの利用者が抱える課題や必要な支援はそれぞれ異なるため、すべての人に当てはまる万能な解決策は存在しないのです。一律に同じ配慮を行うのではなく、一人ひとりの異なるニーズに応える柔軟な選択肢を用意することが、アクセシブルな移動環境を実現するための第一歩となります。

善意の配慮が障壁になるとき

米国運輸省のデータによると、1,860万人ものアメリカ人が「自身の障がいによって外出や移動が制限されている」と回答しています。しかし、単に「障がいがある」といっても、移動の際に直面する障壁は決して同じではありません。例えば、聴覚に障がいのある人は、駅や空港での重要な音声アナウンスを聞き逃してしまうリスクがあり、一方で視力が極端に低い弱視の人は、案内表示を読みとることに困難を抱えています。

このように外見からは判断がつきにくい「見えない障がい」を抱える人々に対しては、配慮のあり方が複雑になります。車いすを利用している人や白杖を携えた人とは異なり、周囲からは不自由さが分かりにくいため、本人が深刻な事態にあってもサポートの手が差し伸べられない場面が頻繁に発生します。自閉スペクトラム症のある人が、人混みや騒音にあふれた駅構内で過剰な感覚刺激を受け、パニックに近い精神的負担を感じてしまうケースなどはその典型です。そのような場面では、周囲の環境に惑わされることなく、目的地まで直接誘導してくれる人の存在が大きな助けになります。

こうした多様な個別の事情を顧みず、事業者が外見や先入観に基づいて「誰にどのような支援を与えるべきか」を一方的に判断してしまうと、障壁を取り除くどころか、かえって新たな障壁を作り出すことになりかねません。すべての人を一律に扱うことは、一見すると公平に思えますが、公平であることと画一的な対応をすることは、必ずしも同じではないのです。「障がいのある人にはこの支援」という思い込みから離れ、当事者のリアルな声に対応できる、複数の選択肢を整えていく必要があります。

障害のある利用者への配慮を航空会社が改善すべきだと考える米国人が多数派であることを示すグラフ

航空会社に対し、障がいのある人々への配慮や対応を改善すべきと考える米国人の割合
Data: The Century Foundation


より良い支援は当事者の声から

当事者の具体的な体験は、構造的な問題をより明確に浮き彫りにします。聴覚障がいに関する情報を発信するメディア「The Aural Report」に寄せられた体験談では、ある空港利用者がサポートを依頼した際の体験が紹介されています。聴覚障がいのある彼女には、空港内のアナウンスを視覚的に確認するためのコミュニケーション面での支援が必要でした。しかし、問題無く自力歩行ができるにも関わらず、実際に彼女に提供されたのは車いすでした。必要な支援が提供されなかったことだけでなく、本人が何に困り、どのような支援を求めているのかを十分に汲み取ることなく、「障がいのある旅行者には車いすを手配すればよい」という一方的な固定観念で対応が処理されてしまった点に大きな問題があります。

このようにちぐはぐな対応では、この利用者が直面していたコミュニケーションの障壁は、何ひとつ解消されません。そればかりか、不要な車いすの利用を求められたことで、自身の身体に関する決定は自分自身で行うという「からだの自己決定権」すらも、不当に損なわれてしまったのです。適切な配慮がなく、既存のステレオタイプに基づく対応を押し付ける行為は、単なる接客上のミスのみならず、エイブリズムの表れとも言えます。エイブリズムとは、健常者を標準として社会や制度を捉え、障がいのある人の意思や能力、自己決定権を無意識のうちに軽視してしまう社会構造や価値観を指します。本当の意味のアクセシビリティとは、単なる「手助け」ではなく、当事者が何を必要としているのかを先入観を持たずに確認し、その意思と尊厳を尊重した対等な支援を提供することです。

このようなミスマッチを防ぐために、元パラリンピック金メダリストであり、障がい者の権利擁護活動家でもあるタニ・グレイ・トンプソンは、当事者を意思決定の場に積極的に参加させるよう働きかけ、航空業界におけるアクセシビリティの向上を推し進めてきました。彼女が一貫して訴えてきたのは、社会的障壁や構造的な問題の影響を直接受ける当事者こそ、解決策づくりのプロセスで実質的な発言権を持つべきだという考え方です。これは、DEIにおける重要な原則の一つでもあります。

目に見える障がいであれ、見えない障がいであれ、障がいのある人には自分たちの自立や尊厳に関わる意思決定に対して、対等に意見を言える権利があるのです。マイノリティ、そしてこれまで耳を傾けてもらえなかった人々の意見を聞くことで、組織は問題の本質をより正確に理解し、それぞれのニーズに寄り添った支援を実現できるようになります。


誰もが安心して移動できる社会へ

世界がますますグローバル化し、人々の移動が活発になった今、交通システムはこれまで以上にインクルーシブなものへと進化していかなければなりません。その取り組みの一つが、航空業界を中心に広がる、Hidden Disabilities Sunflower(ひまわり支援マーク)です。この活動は、見えない障がいのある人がひまわりのバッジやストラップを身につけることで、周囲に配慮の必要性を自然に伝えるものです。この取り組みが社会全体に浸透すれば、利用者が自らのプライベートな事情を毎回詳しく説明することなく、スタッフや周囲の乗客が一目で配慮の必要性を理解し、必要な手助けを差し伸べられるようになります。

こうしたインクルーシブデザインの考え方は、決して特定の誰かのためだけに存在するものではありません。今は健康に暮らしている人であっても、将来のどの時点で障がいや身体的な制約を抱えることになるかは予測できません。だからこそ、障がい者差別やアクセシビリティの問題を「自分には関係ないこと」と簡単に片づけてはならないのです。誰もが利用しやすい交通インフラを整えることは、すべての利用者が自立した暮らしとウェルビーイング(心身の健康と豊かさ)を保ち続けるための基礎となります。そして交通システムが、人により異なるニーズや、ときには相反する要望にも対応する必要性を正しく認識できれば、誰もが安心して利用でき、個人が尊重される環境へと近づいていくはずです。

ブリスベンのバス停のベンチで点字標識を読む男性

Credit: John Robert McPherson, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ゲストライター F. Makoniによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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