南アフリカにおけるアフリカーナーの農業従事者が、アメリカで難民認定を受けたというニュースを耳にしたときの困惑と衝撃、そして大きな失望は、今でもはっきりと覚えています。南アフリカの暴力に満ちた不平等の歴史を知る多くの人々も、私と同じ思いを抱いたのではないでしょうか。
アフリカーンスの歴史と現代の主張の皮肉
一般に「アフリカーナー(Afrikaners)」や「ボーア(Boers)」と呼ばれる人たちは、1652年に南アフリカへ最初に入植したオランダ系移民を中心とする子孫で、現在はアフリカーンス語という言語を話します。彼らは今、土地をめぐる対立のなかで身の危険を感じ、安全の確保を求めて保護を訴えています。しかし、長年にわたり土地や富を独占し、黒人から奪ってきた側の白人が今になって保護を求めるというのは、当時の被害者たちからすれば到底納得できるものではないでしょう。
これを理解するには、まずアパルトヘイトについて触れる必要があります。アパルトヘイトとは、1948年から1994年まで南アフリカで続いた、国による人種隔離政策です。白人は政治や経済面、教育、土地所有などで優遇される一方、非白人、特に黒人は社会の外に追いやられ、その結果、人種間の貧富の差が拡大しました。所得や資産の分配の偏りを示すジニ係数で見ると、南アフリカの直近の格差指数は63%と、世界でも最悪のレベルにあります。
アパルトヘイト終結から30年が経過した今も、その状況は解消されていません。2017年の土地所有状況調査によると、南アフリカの白人農業従事者が全私有農地の72%を所有する一方で、黒人農業従事者が所有する農地はわずか4%にとどまっています。なお、この調査には政府所有地や都市部の不動産、そして慣習的に共同管理されている農村地域の土地は含まれていません。南アフリカの人口の大多数は黒人であり、白人は全人口の8%未満であることを考えると、この土地所有の偏りは極めて深刻な問題と言えます。

Credit: 白人専用と書かれたダーバンの海水浴場 Guinnog, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
法律は格差解消の一手となるか
1994年以降、南アフリカ政府は土地改革を通じて、不当な土地取得や占有を正すという重い課題に取り組んできました。その施策のひとつが「土地収用法案(Expropriation Bill)」です。この法案は、特定の厳格な基準のもとで、補償なしに政府や公的機関に土地を収用できる権限を与えるものです。たとえば、未活用または放棄された土地や、公共の利益のために必要とされる土地がそれに該当します。この法案は、5年にもわたる議論を経て成立に至りました。これこそが南アフリカの富の格差解消のために必要な抜本的改革だと支持者たちは主張していますが、公平性や憲法との整合性をめぐって、今も国内では激しい議論が続いています。
一方で、アフリカーナーの農業従事者や右派グループの一部には、この法案を私有財産権の侵害だと批判する声があり、人道的権利に反するとの主張も見られます。そうした懸念の中で、たびたび過去の事例として引き合いに出されるのが、1913年に制定された「先住民土地法(Natives Land Act)」です。この法律は、黒人の土地所有を厳しく制限し、国土の大半をオランダ系やイギリス系の植民者に集中させたもので、白人にとって極めて有利な制度でした。ところが現在では、その法律が「国家による土地収用の乱用を示す歴史的な前例」として持ち出され、一部の白人の間では、今度は反対に自分たちの土地が奪われるのではないかという不安が広がっているのです。
土地改革に対する懸念や、不安を煽るような主張や見方が広まったこともあり、一部の白人農業従事者は身の危険を感じてアメリカへの移住を決断。その後、「人種を理由に迫害されている」と訴えて難民認定を申請し、実際に認められたケースも存在します。この一連の出来事は、多くの人々に強い違和感をもたらしました。特に、かつてアパルトヘイトのもとで抑圧されてきた黒人の南アフリカ人や、いま現実に命の危険にさらされている紛争地域の難民たちは、驚きと深い憤りに包まれました。
歴史を都合よく解釈することの危うさ
アフリカーナーの難民申請は、平等の実現や抑圧されてきた人々の救済を目指す運動に乗じて、かつて人種差別政策によって最も大きな恩恵を受けてきた人々が、今度はあたかも「被害者」であるかのように装い保護を求めるという、極めて都合の良い解釈にほかなりません。たとえ土地収用法案の実施に問題があったとしても、それは長年続く不平等を是正しようとする試みの一つであり、正しく評価されるべきです。アパルトヘイトという不当な人種差別の歴史を振り返るとき、そこから利益を得た人々の責任を曖昧にしてはいけません。彼らの資産は、個人の努力で築かれたものではなく、制度的な差別と抑圧の土台の上に成り立つものです。正義の歩みは、過去を忘れないことから始まります。私たちには、この歴史を語り継ぎ、より良い未来へとつなげていく責任があるのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

私たちLearning Cycleは、大規模な組織から小さな単位のチームまであらゆる組織を対象に、DEI促進の実践的ソリューションを提供しています。詳細はこちらでご確認ください。








