仕事できないアピールで業務を回避|無能の武器化はサボりの戦略

皆さんは、こんな状況に心当たりはないでしょうか。この一週間、四半期の事業計画プレゼン資料の作成に追われ、連日残業続き。本来であれば上司が主導すべき仕事でしたが、「プレゼン作りはどうも苦手だから、得意な君に任せたよ」と言われ、気づけば丸投げされてしまいました。役員への報告会議が迫る中、必要な指示も得られないまま、自力で仕上げようと奮闘しています。そんなあなたの小さな楽しみは家での夕食と、ひとときのリラックスタイム。ところが、ようやく帰宅した自宅で待っていたのは、ひどく散らかった台所。シンクには使い終わった食器が山のようにたまっています。するとパートナーがこう言います。「いつも洗い方が雑だって言われるから、今日は手を付けずにそのままにしておいたよ。」もしこのような場面に少しでも覚えがあるなら、それは「無能の武器化(Weaponized Incompetence)」の典型的な事例と言えます。

出来ないことを装い責任を回避する人々

自分のスキルが本当に足りないと感じたとき、多くの人は向上心が働き、苦手な仕事を克服しようと努力します。しかし、「無能の武器化」は、まるで本当に能力がないかのように装う意図的な演技です。あえて「できない」とアピールすることで、他の誰かが助けてくれるように仕向けたり、自分の負担を軽くしようとする行動を指します。このような行為は職場でも家庭でも見られ、不平等な労働負担を一層常態化させてしまいます。

特に女性やマイノリティの人々は、細かい雑務など、評価されにくい仕事を押し付けられることが少なくありません。その結果、目立つ仕事を要領よくこなす人に昇進の機会が多く与えられ、職場の公平性も保たれず、いつも理不尽な業務を回される人のウェルビーイングが損なわれていきます。「無能の武器化」を利用して、歓送迎会といった懇親会の企画や、経費精算の入力作業、掃除や片付けなどを含むオフィス内の雑務等、負担が大きいわりに評価されにくい仕事が、女性に押し付けられるケースがよく見られます。

家庭でも同様で、オーストラリアの調査では、女性が男性より週に平均8時間も多く家事を担っていることが明らかになっています。その結果、責任や精神的負担が重なってしまい、女性は家事分担への不満を抱え、バーンアウト(燃え尽き症候群)や心の疲労を訴える割合が高くなっているのです。

性別ごとの週あたりの無償家事労働時間を示すグラフ

1週間で家事に費やす時間の男女比較
Credit: Taking the Pulse of the Nation (TTPN) Survey, via Melbourne Institute


職場の「出来ないふり」を見極める

「無能の武器化」を見抜くには、いくつかのポイントがあります。たとえば、上司や同僚が「自分はこの仕事が苦手」と自分を卑下するような言葉を口にしたり、「この仕事は〇〇さんのほうが得意だから」と責任を回避する表現を頻繁に使っていないか観察してみましょう。また、チーム内での業務の割り振りを注意深く見ることも大切です。いつも同じ人がサポート役に回っていたり、特定の人だけが手間のかかる仕事をうまく免れていることもあります。

こうした理不尽な不公平な行いを是正するには、「役割の明確化」と「オープンなコミュニケーション」が欠かせません。職場では職務分担表を、家庭では家事分担表を共有し、誰が何を担うのかを明確にしましょう。そうすることで、単純な雑務が特定の人に偏るのを防ぎ、成果が正当に評価される環境が生まれます。また、何より大切なのは、同僚や家庭でのパートナーのスキルを面倒がらずに育てようとする姿勢です。「この仕事は難しくて苦手」と言われたときは、自分が代わりに引き受けるのではなく、その人が出来るようにサポートすることを心掛けてみましょう。

公平な分担で健全な関係を

「無能の武器化」は、一見ささいな行動に見えても、職場や家庭における公平性や生産性、信頼関係に大きな影響を与えます。ぜひ一度、自分自身や周囲の行動を振り返ってみてください。知らず知らずのうちに、人がやりたくない仕事を引き受けていませんか。そのほうが摩擦を生まず、楽な選択に思えても、次第に引き受ける側が疲弊し、チーム全体の士気を低下させることにもなりかねません。役割分担を意識的に見直し、お互いのスキルを育て合うことこそが、職場と家庭の健全な環境をつくる第一歩なのです。

女性が洗濯物を畳んでいる側で、スマホをいじっている男性

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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