近頃では、職場の格差問題に向き合う企業が増えてきた一方で、その解消にはまだ多くの壁が立ちはだかっています。現実には、ビジネス界でマジョリティとされる層で構成された上層部に、根強く残る排他的な体質が存在します。こうした意識が、結果としてマイノリティのキャリア形成を阻んでいることも否めません。見えない障壁である「ガラスの天井」を打ち破るには、職場のマジョリティに属する人々がアライ(理解者・支援者)として関わることが非常に重要です。 なかでも、経験や知識が豊富な先輩や上司がメンターとして寄り添うことは、最も強力なアライのあり方のひとつです。メンターは自らの知見を活かし、指導を受けるメンティーを部下や同僚としてではなく、一人の人間としての成長を促していきます。
双方向の成長につながるメンターシップ
メンターとメンティーの関係は、実際には双方にとって実りあるものです。メンターは、メンティーとの絆を深めながら、自らが組織やコミュニティの発展に貢献できているという充実感を得ることができます。さらに、組織における若い世代が日々直面する課題やリアルな感覚に直接触れることで、常に最新のトレンドや現場の状況をアップデートできるというメリットもあります。
しかし、良いメンターになることはそう簡単ではありません。優れたコミュニケーション能力と、相手に寄り添う傾聴力は、メンターにとって欠かせない資質です。メンティーの経験や将来の目標を深く理解したうえで、その成長と充実した人生やキャリアの実現に向けて的確なアドバイスを届けることが、メンターの本質的な役割です。
メンティーにとっては、経験豊富な先輩から一対一の指導を受け、その知識と経験を存分に吸収することができます。信頼できるメンターからの的確なアドバイスをもらいながら、彼らが築いてきた仕事上の人脈にも自然と加わり、キャリアの壁に立ち向かえる確かな実力と自信を着実に身につけていきます。

キャリアの課題に高いモチベーションで向き合っている人の割合(青:メンターあり/赤:メンターなし)
Credit: The Price of Success: Navigating the Tradeoffs That Shape Career Growth via Martha Ekdahl on SHRM.org
地方銀行が起こした大きな変化
このメンターシップの価値を体現する成功事例が、第四北越銀行の取り組みです。人事部シニアマネージャーの高橋瑞穂氏が中心となり、男性優位の傾向が残る地域金融の環境を変革すべく、女性幹部候補向けのメンタリングプログラムを、他の地方金融機関と共に推進しています。この施策は一歩一歩実を結び、第一期のメンティーの中からはすでに執行役員に就任した人物も生まれました。現在その人物は自らメンターとなり、次世代の育成に携わるという好循環が始まっています。
こうしたプログラムを通じて社員同士の人間関係が深まると、組織のあらゆる階層に心理的安全性が生まれます。そして、社員が帰属意識を持てるようになり、企業にとって計り知れない利益をもたらします。メンターとメンティー、共に仕事へのエンゲージメントが高まるため、やる気を失ったまま働き続ける「静かな退職」の回避も期待できます。このようなインクルーシブな企業文化を醸成し、組織の持続的な成長リターンを得るためには、 社内に質の高いメンターをいかに増やすかが鍵となります。

高橋瑞穂氏/外山ひとみ氏
経験豊富なメンターが可能性の扉を開く
第四北越銀行は地方銀行であるため、組織内で確保できるメンターの数には限りがありました。組織規模の限界という課題を乗り越えるべく、同行が選択したのがMentorForの導入です。MentorForは、メンタリングプログラムの構築を目指す企業にプロのメンターをマッチングする、人材開発専門組織。そのメンターシップの力を誰よりも信じているのが、同社代表の池原真佐子氏です。「人は自分の経験を語り合うことで、キャリアや人生の選択肢が広がります。人生の岐路に立ったとき、AかBかという二者択一的な選択に迷うことがありますが、メンターと話すことで、第三の道となるプランCを見いだすことができるのです」と、池原氏は語っています。
MentorForの専門的なアシストのもと、第四北越銀行はメンタリングのノウハウを体系的に積み上げ、社内のメンターシップの新たな潮流を着実に生み出しています。高橋氏は、こうした取り組みを粘り強く継続することで、必ず組織に良い変化が生まれると力強く語ります。実際、このプログラムを通じて、女性従業員たちは自分たちの未来への希望を抱くようになり、「女性活躍推進」という言葉が不要になる、真の男女平等の実現に期待を寄せているとのことです。さらに興味深いことに、今では男性従業員側から、女性のエンパワーメントを求める熱意が高まり始めたそうです。

池原真佐子氏
メンターシップを職場で正しく活かすために
メンターシップは、とりわけマイノリティにとって大きな力となり得ますが、その効果を十分に引き出すには、適切な設計と継続的な運用が欠かせません。正しく機能すれば、関わるすべての人にとって自信と成長の糧となりますが、それらが不十分であれば逆効果にすらなります。何よりメンターとメンティーの双方が、信頼関係を真摯に築こうとしなければ、メンターシップは成り立ちません。傾聴姿勢の欠如や不十分なコミュニケーション、お互いへの著しく過度な期待、不適切な言動やアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。これらの要素はいずれも関係性の崩壊を招き、メンティーの成長の可能性を阻むだけでなく、メンター自身の立場や信頼にも悪影響を及ぼしかねません。
メンターシップが職場の格差解消に果たす役割は、第四北越銀行の取り組みからも明らかです。今やその価値は、多くのトップ企業が認めるところでもあります。2026年時点で、フォーチュン500の上位50社すべてが、すでに社員向けのメンタリングプログラムを導入しています。互いに学び合い、次世代の成長を支えるメンターシップこそが、強いチーム、強い企業、そして強い社会を築く原動力となるのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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