Credit: Debbie McCallum, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
2022年時点で、世界の科学技術分野で働く研究者や研究開発従事者のうち、女性が占める割合はわずか31.1%です。アメリカでは、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の学士号取得者のうち女性はわずか34%であり、卒業後にその業界で実際に働く女性はさらに少なく、テクノロジー分野で27%、情報技術分野で28%にすぎません。ワシントン大学の研究によると、女子学生はSTEMを含むほぼすべての教科で男子を上回る成績を収めているにもかかわらず 、その道へ進むのは男子の方が多いというのが現状です。
この格差が、なぜそれほど重大なのか疑問を呈する人もいるかもしれません。その答えのひとつが、収入です。STEM職の給与水準はその他の職種と比較して2倍以上であり、これほどの高収入の職種をキャリアの選択肢から外してしまうことは、女性にとって大きな機会損失となってしまいます。同時に、企業にとっても多様性の欠如は組織のイノベーションおよび生産性の低下につながり、収益や利益に悪影響を及ぼします。
多様性の欠如が生む研究の盲点
研究の現場においても、多様性の欠如は重要な問題を見過ごす危険をはらみます。その典型が医療分野です。医療研究に関わる女性が少ないと、男女の生物学的な差異が考慮されず、女性特有の問題を認識できないこともあります。たとえば心血管疾患の分野では、長らく「心臓発作の典型的な症状は胸痛である」とされてきました。ところがこれは主に男性に見られる症状であり、吐き気や倦怠感など女性特有の症状は軽視され、見落とされてきました。この背景には、男性の身体を基準とした研究が長年にわたり行われてきたという事情があります。こうした男性中心の研究のあり方が誤った診断や治療の遅れを招き、心臓発作による女性の死亡率は男性よりも高くなっています。医療研究におけるジェンダーギャップが、女性の健康と安全を脅かしているのです。

職種によって異なるSTEM分野の女性比率
Credit: STEM Jobs See Uneven Progress in Increasing Gender, Racial and Ethnic Diversity, Pew Research Center, Washington, D.C. (April 1, 2021)
イメージが湧かないからSTEMを選べない
多くの研究が示すように、STEM分野のジェンダーギャップを加速させる要因は、この分野での女性の存在感の低さやロールモデル不足にあります。 日本の山田進太郎D&I財団は、STEM分野における多様性とインクルージョンの推進を目的に、こうした課題の調査や啓発活動に取り組む団体です。一般的には、親からの反対や「男子は理系、女子は文系」といった固定観念が、女子学生がSTEM分野に進まない原因と言われています。しかし、同財団が発行した、STEM領域のジェンダーギャップ解消に向けた調査提言レポート「Project 0.91%」では、親の意見も一般論も、STEM分野に女性が少ないこととほぼ関連がないことが明らかになりました。
また、北米で女子学生のSTEM進出を促進するNational Girls Collaborative Projectも、同様の調査報告を行っています。女子の86%が「人の役に立つSTEMの仕事」に興味を持つ一方で、ロールモデルの不在により、自分もSTEM分野で活躍できるという自信を持てていません。同団体は、これがSTEM分野におけるジェンダーギャップの大きな要因だとしています。 そして、女子がSTEMの世界に触れる機会を増やし、そこに自らの可能性を見いだすことこそが、STEMにおける男女格差の縮小に最も効果的であると結論づけています。

女性研究者が活躍する職場を訪問する女子学生
Credit: Thermo Fisher Scientific
鍵を握るのは女性ロールモデルの存在
山田進太郎D&I財団が運営する「Girls Meet STEM」プログラムは、38の大学と232の企業と連携し、中学、高校の女子生徒とSTEM分野で活躍する女性の社会人や研究者、大学生等をつなぐ取り組みです。同プログラムでは企業や大学へのツアーなどが行われ、ツアー体験後に「(文理選択で)理系を選択しようと思う」と答えた生徒の割合が、5点満点中で平均0.55ポイント向上しました。また、「理系学部に進学できる」という自信を表す項目は、10点満点で平均1ポイント以上向上しました。
ドイツにも同様の取り組みがあります。「Girls’ Day」と名づけられたこのプログラムは、女子生徒にSTEMの現場で実践的な体験を提供し、大きな効果を生んでいます。連邦教育研究省や、男女機会均等を担う複数の省庁が直接支援し、政府が一丸となってこの課題に取り組んでいます。このプログラムに参加した女子生徒の70%はSTEM分野の仕事に興味を持ったと答えており、また参加企業の46%に、学生からのインターンシップや(※)デュアルシステムへの参加希望がありました。
さらに、アメリカ発のTechnovationという非営利団体は、160以上の国の8歳から18歳の女子生徒に、IT業界の起業家やリーダーたちとの対話や交流の機会を設けるなど、よりグローバルな取り組みを行っています。同団体の修了生のうち、76%はSTEM関連の学位を取得し、60%はSTEM分野で仕事をしています。また、プログラムを通じて技術的なスキルが向上し自信がついたと答えた女子生徒は、97%にも達しました。
これらすべての事例は、女子生徒が「STEMは自分にも関係がある分野」だと感じ、そこで働く自分の姿をイメージできたとき、STEMへの道を選ぶ可能性が格段に高まることを示しています。
(※)デュアルシステム:学校での理論教育と企業での実務訓練を組み合わせた職業訓練制度で、ドイツを中心にヨーロッパ各国に広く普及しています。ITや医療など300以上の職種を対象とした、社会的評価の高いキャリアパスとして定着しています。
女性リーダーが定着する環境へ
このように、女子生徒と企業を結ぶ草の根的な活動により、STEMに興味を持つ女性、実際に働く女性の数は少しずつ増えてきました。しかし、より多くの女性の参入を促し、定着させるためには、安心して働き続けられる職場環境を企業側が整えることも不可欠です。 現実として、キャリアを積んだ女性たちがSTEM分野を離れるケースはいまだ少なくありません。その背景には「男性中心の文化」が根強く残る、職場の現状があります。
組織や業界の中で、マイノリティが実質的な発言力を持ち始めるターニングポイントは、その割合が「30%」に達したときとされています。Project 0.91%は、日本のSTEM分野における女性比率の目標をこの30%とすべきだと提言しています。 女性比率が30%に達すれば、女性の声に周囲も耳を傾けるようになり、職場文化を変えることができるのです。そのためにはまず、STEM分野に残るジェンダー格差を徹底的に取り除く必要があります。女性リーダーたちが長く活躍できる環境を築くことが、誰もが働きたいと思えるSTEM分野への第一歩となるはずです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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