AIは自律学習していない|プロンプト精度を支える不当労働

アメリカのAI企業の多くは設立当初、がんの治療法の発見や気候変動問題へのアプローチなど、人類の未来への貢献を理念に掲げた企業活動であると声高に主張してきました。しかし実際には、無料検索エンジンのようなサービスを提供する一方で、AI開発や運用に従事する人々からの搾取の実態を世間に隠し続けてきました。この問題を調査研究する学者たちは、AI産業と「植民地主義(コロニアリズム)」との間に共通点があると指摘しており、この現象を「デジタル植民地主義(テクノコロニアリズム)」と定義づけています。

これは「グローバルサウス(アジア、アフリカ、中南米などの途上国や新興国)」が、データ管理やデジタルインフラ整備の面で 「グローバルノース(欧米などの先進国)」に支配され、依存させられている構造のことを指します。アメリカのAI企業の経営者たちは、技術革新で人類の未来を切り拓くと言いながら、実際にはかつての植民地時代と同様の労働搾取や資源の収奪を繰り返しています。

AIという名の人海戦術

最近では、巨大AI企業が新しい人工知能モデルを「自己学習型」と謳う一方で、グローバルサウスの労働者たちが不当に低い賃金で開発の一旦を担わされている労働搾取の実態が、次々と明るみに出ています。その最たる事例のひとつが、イギリスのスマートフォン・アプリケーション開発企業であるBuilder.aiです。同社は、AIの活用によりアプリ開発のスピードを劇的に向上したと繰り返し主張していましたが、実際には、700人のインド人契約社員がコーディングをマニュアルで開発していました。

このように、自社の開発が「人間を介さない知能」によって行われているかのように見せかけたブランディングは、低賃金で働かされてきた人々の長年の労働や人間の知能そのものの価値をおとしめるものであり、植民地時代から続く人種差別的な労働搾取の構造を存続させています。

生成AIを精錬するために低賃金労働者が行う職種名一覧

ファクトチェッカー、プロンプトライターなど、AIを陰で支える多様な職種
Credit: AWU-CWA, TechEquity via Communications Workers of America


大企業が目をつけた安価な労働力

歴史的に植民地支配を受けてきたグローバルサウスの労働者たちは、大企業から安価な労働力としてターゲットとされ、今も利用され続けています。2014年頃から始まったベネズエラの経済危機は、急激なインフレと物資や雇用の不足を引き起こし、多くの国民が困窮しました。こうした状況は大企業にとって、ベネズエラの労働者に低賃金で仕事をさせる絶好の機会となりました。

これに乗じたのが、AIデータラベリング企業と呼ばれる存在です。AIデータラベリング企業とは、AIが正確に学習できるよう、画像や音声、テキストなどのデータを分類し、整理する地道な作業を専門に請け負う企業です。例えば、自動運転AIのために画像内の歩行者や信号を識別したり、チャットボットの回答が適切かどうかを人間が判定したりする作業がこれにあたります。GoogleやMetaと契約関係にあるこうした企業の多くは、優秀なベネズエラ人労働者数十万人を「日の目を見ない労働」に従事させ、低賃金で酷使したのです。

そこで企業は、ギグワーカーという雇用形態に目を付けました。ギグワーカーとは、特定の企業に雇用されることなく単発の仕事を短期間で請け負う働き方を指します。 OpenAIをはじめとするアメリカの大手AI企業は、アフリカの労働者たちと単発契約を結び、ChatGPTやGeminiのような新しいLLM(大規模言語モデル)の開発を次々と外注しています。そのため、上述のベネズエラのような状況が、ナイジェリアや南アフリカ、ケニアにも広がっています。企業側にとってこの仕組みは、雇用責任や社会保障の義務を負わずに労働力を確保できるという、都合の良い搾取の一手段となっています。

こうして開発されたLLMは、まるでAIが自律的に学び、進化したかのように見せていますが、現実にはアフリカの労働者たちが、回答の質を高めエラーを修正し、プロンプトへの応答を一つひとつ細かく作り込むという膨大な作業を担っています。それにもかかわらず、重要な役割を担う労働者たちは不当な低賃金で働かされ、使い捨て同然の扱いを受け、LLM開発における多大なる貢献は正当に評価されない状態が続いています。

また、アフリカの労働者たちはイギリス式英語教育を受けており、その丁寧で格式ある文体はLLMの学習データとして大量に取り込まれました。ところが理不尽なことに、LLMが彼らの文体を学習し受け継いだ結果、アメリカ英語に慣れた先進国のユーザーにはその丁寧で格式ある文体が固く不自然なものに映り、いつしか「AIが書いた文章」の象徴として認識されるようになってしまいました。アフリカの労働者にとってごく自然なイギリス英語が、皮肉にもAIっぽい文章の代名詞となってしまったのです。

多くの人がChatGPTのような便利なAIツールを無料で使い、AI企業が莫大な富を積み上げている陰に、こうした過酷な格差が存在することはあまりにも衝撃的です。デジタル上で動くAIは開発工程などの実態が掴みにくく、また単純作業を担う労働者たちはAI企業から距離的にも離れた国で働いています。この構造が搾取の事実を巧みに覆い隠し、労働者たちが受けるべき評価も、生み出した収益も、彼ら自身には手が届かない状況となっています。


見えない労働者からの搾取に終止符を

このような実態は長らく隠蔽されてきましたが、内部から勇気を持って声を上げる人々も現れています。そして、この動きに呼応するように、デジタル植民地主義に対する様々な取り組みがアメリカ国内で広がっています。たとえば、草の根の抗議活動が、新たなデータセンター建設を阻止することに成功した事例もあります。また、全米最大の労働組合AFL-CIOは、AI分野で働く人々の権利を守るため、厳格な労働法の制定など幅広い改革を訴えています。さらにAIの偏りや不正利用の問題に取り組む非営利団体Algorithmic Justice Leagueは、AIがもたらす被害や不公正を告発する一方で、生産的で有益なAIの利用を支援しています。

人々が団結すれば、その力は強大なものになります。私たちが日常的に使っている便利なAIが、労働者たちの不当な低賃金による搾取の上に成り立っているという現実を、これ以上見過ごすわけにはいきません。そのために、こうした搾取に加担する企業やサービスの利用を中止し、AIをよりよい社会の実現に向けて活用する企業や団体を積極的に支持していくこと。これが今の私たちにできる、はじめの一歩です。

ChatGPTの初期画面を映すコンピューター画面

ゲストライター S. Jarvisによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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