アメリカは産休後進国|無給休暇では育児も生活も出来ない現実

出産直後の母親にとって産休は、自身の体調を回復させ、我が子との絆を深める大切な期間です。その産休育休の制度内容や取得条件は、それぞれの国や企業によって大きく異なります。アメリカは、国として法定の産休制度を設けていない数少ない国の一つとして知られており、多くのヨーロッパ諸国とは対照的な状況です。

産休制度なしの企業が多数のアメリカ

アメリカでも一部の企業では有給の産休を導入していますが、法的な義務付けは無く、産休制度の有無や内容は企業の裁量に委ねられています。アメリカの産休制度は主に「Family and Medical Leave Act(家族・医療休暇法)」という法律に基づいており、年間最大12週間の無給休暇と、出産後1年間の雇用保障が認められています。しかしこの制度は従業員50人以上の企業のみが対象で、さらに産休を希望する従業員は、過去12か月以上継続勤務し、かつ1,250時間以上の労働実績が必要となります。

生まれたばかりの子どもを保育園やベビーシッターに預けて働くことを考えている人であれば、この制度を問題なく利用できるかもしれません。しかし、出産後は特に出費がかさむため、無給であることは多くの家庭にとって大きな問題となります。

ヨーロッパの産休制度の充実度

アメリカとは対照的に、ヨーロッパでは産休が基本的な権利とみなされています。EU(欧州連合)では、妊婦や出産後の女性労働者を保護するための規定を設けた「Pregnant Workers Directive(妊娠中の労働者に関する指針)」が、産休制度の基盤となっています。この法令により、最低14週間の産休が保証され、そのうち2週間は出産前または出産後に取得が義務付けられています。また、多くのヨーロッパ諸国では、母親だけでなく父親も含めた育児休暇制度を設けていますが、その内容は企業の規模によって異なります。企業によっては、法定休暇よりも長い育児休暇を認めているところもあります。

例えば、リトアニアはヨーロッパでも、国の負担で取得できる産休期間が最も長い国の一つです。産休期間は最長2年とされており、そのうち母親と父親それぞれに2か月間、譲渡し合えない有給休暇が設けられています。ただし、この制度を利用するには、母親が妊娠前に社会保険料を納めていることが条件です。支給額は、取得する休暇期間と基本給に基づいて決まります。

また、エストニアでは納税要件を満たした労働者に対し、手厚い生活支援を提供しています。出産前後に取得できる産休期間は86週間と長く、そのうち20週間は給与が100%支給されます。

国ごとの有給産休制度の有無を示す世界地図

国が保障する産休育休制度の状況
Credit: WORLD Policy Analysis Center via UCLA World


求められる産休の法的支援

一般的に、母親である女性は職場で偏見や差別を受けることが少なくありません。産休制度がないことは、こうした偏見が根強く残っていることの表れとも言えます。産休取得を法的に保証し、両親が公平に育児休暇を取得できる制度を導入することは、こうした問題を解決するための重要な一歩となります。現在、日本は父親に対し最大365日間の育児休暇を認めており、世界をリードしています。EU諸国も日本に続き、父親と母親双方が育児に関われる環境整備を進めています。その結果、親子の絆が深まるだけでなく、母親の育児負担が一人に集中するのを防ぎ、女性のキャリアアップの可能性も高まるのです。しかし、アメリカの施策が国際的な基準と比較して「母親に優しいもの」となるには、まだ道半ばであることは明らかです。

子どもを産み育てることは、親にとってかけがえのない経験です。子どもを望むすべての人が、仕事を失う不安や経済的な心配をせずに、安心して子どもを迎え、育てられる。私たちは、そんな社会を目指すべきです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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