生成AIをはじめとする先端技術が日々進化する中、社会的に弱い立場にある人々が暮らす地域では、環境汚染や環境差別の被害が世界各地で深刻化しています。これらの地域は、汚染物質や廃棄物を排出する施設の建設先として意図的に選ばれ、事実上「ごみ捨て場」と化しているのが現実です。このような現象は「環境レイシズム」と呼ばれ、環境汚染やその影響が人種的、民族的マイノリティに不当に集中することを意味します。近年では、生成AIの開発、運用に不可欠な巨大データセンターの建設が、この環境レイシズムの新たな形として問題視されつつあります。膨大な電力や水を消費し、時に有害物質を排出するこれらの施設が、立場の弱い人々が暮らす地域に集中的に設置されているのです。
たとえば、2014年にアメリカのミシガン州フリントでは、水道水に鉛が混入する水質汚染が発生しました。フリントは住民の過半数をアフリカ系アメリカ人が占めており、構造的格差や貧困が色濃く残る地域です。また、ノルウェーでは、同国最大の風力発電所を先住民族サーミ人の土地に建設する計画をめぐり、3年にわたり対立が続きました。

ミシガン州フリントの給水塔
アジア、アフリカ、中南米といったグローバル・サウスでも、「グリーンエネルギー」の名のもとに、環境破壊だけでなく労働力や資源の不当な搾取が深刻な問題となっています。そして今、注目を集めているのが、テネシー州メンフィスのボックスタウンと呼ばれる地域です。
生成AIが引き起こす環境汚染
2025年6月、全米黒人地位向上協会(National Association for the Advancement of Colored People:NAACP)は、イーロン・マスクが所有するAI開発企業「xAI」を提訴しました。訴状によると、xAIとマスクは、黒人住民が多く暮らすテネシー州ボックスタウンに、ガスタービンで稼働する2つのデータセンターを急ピッチで建設し、その結果、排出ガスによる大気汚染を引き起こしたとされています。さらにNAACPは、xAIが排ガス処理に必要な許可を取得せず、汚染対策も講じていなかったと主張しています。
現在、テキサス州シェルビー郡では、xAIがスモッグ汚染の大きな要因となっています。この郡にあるメンフィスは黒人住民の比率が高く、以前から深刻な大気汚染に苦しんできました。全米で喘息患者が最も多い都市の一つと言われ、空気の質は常に最低レベルに近い評価を受けています。
雇用創出だけでは語れない代償
AIデータセンターの建設によって新たな雇用が生まれることは、確かに恩恵としての側面もあります。しかし、その多くはデータセンターに直接関連する仕事ではありません。アメリカのオンラインメディアBusiness Insiderによると、AIデータセンターによって創出された約470万件の雇用のうち、センター内でのポジションはわずか60万件程度。大半は建設や保守管理、またはその他間接的に発生する仕事です。雇用機会の乏しい低所得地域にとって、新たな雇用は一見すると好ましく映るかもしれませんが、それに伴う代償は見過ごせません。2023年から2030年にかけて、データセンターによる電力需要は少なくとも29%、最大で166%も増加すると予測されており、この負担に見合う価値が本当にあるのかは疑問が残ります。さらに、AIデータセンターは1日あたり約500万ガロン(約1900万リットル)の水を消費するとされており、大気汚染とあわせて、地域住民の健康に対するリスクも軽視できません。

世界のデータセンターにおける電力供給源(2020~2035年)
Data via IEA, CC BY 4.0
環境レイシズムと企業や社会の責任
マサチューセッツ工科大学の論文でも、制度的な監視体制が整わなければ、生成AIは深刻な環境被害を引き起こす可能性があると警鐘を鳴らしています。もはや「AIを使って効率を上げればよい」という単純な話ではなくなってきています。生成AIの開発を担う企業の経営者たちは、経済や環境、そして社会への悪影響を最小限に抑える責任があり、その方向に開発そのものを導く責任があります。そして、それを確実に実行させるために、投資家、従業員、消費者など、すべてのステークホルダーが、企業に対して明確にその責任を求める必要があります。同時に、今まさに進行している「環境レイシズム」に対し、私たち一人ひとりが関心をもつことも重要です。社会的に弱い立場の人々が、新しい技術によってどのような実害を受けているのかを社会が見過ごす限り、企業が自発的に責任を取ることは期待できません。技術の進歩にエネルギー消費はつきものです。しかし、それを理由に、企業が特定の地域を一方的に「ごみ捨て場」として扱うことを、私たちは許してはならないのです。

2030年までのデータセンターおよびAIによる電力使用量の増加予測
Credit: TPIN via Frontier Group
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

私たちLearning Cycleは、まだDEIについてよくわからない方、具体的な推進方法を知りたい方など、どなたでも大歓迎です!私たちは、様々な知識やご経験に対応したDEIプログラムをご用意しております。ワークショップの詳細はこちらでご確認ください。








