トランスジェンダーが国外避難をするほど米国で強まる規制

アメリカでは今、多くのトランスジェンダーが、彼らに対する規制法によって住む場所を変えざるを得ない状況に直面しています。トランスジェンダーとは、出生時の性別と、自分自身が認識する性別が一致しない人を指す言葉です。その彼らがそこまで追い込まれている背景には、全米各地で「反トランスジェンダー法」が次々と可決されている現状があります。自認するジェンダーに合わせて外見や身体を変えることを性別移行と呼びますが、「反トランスジェンダー法」は、そのための医療へのアクセスや、公共施設の利用、身分証明書の性別表記変更などに制限を課すものです。これを受け、私自身も含め、多くのトランスジェンダーやノンバイナリーの人々は自らの安全を守るため、現在暮らしている州、さらにはアメリカ国外への避難を考えざるを得ない状況に直面しています。ある調査によると、トランスジェンダーの回答者の48%が引越しを検討しており、2024年12月時点で23%はすでに転居を完了しているという結果でした。アメリカにおける成人のトランスジェンダーの推定人口は214万人であることを考えると、8万人から最大60万人ものトランスジェンダーが、こうした法律から逃れる形で住み慣れた場所を後にしている計算になります。

トイレ規制が生む差別と暴力

残念なことに、反トランスジェンダー的な言説は、政治的立場を超えて広く支持を集めています。そのため、反トランスジェンダー法案は共和党優勢の州で成立する割合が高いものの、民主党が強い州なら完全に安全かといえば、決してそうではありません。実際に、2021年から2025年の間に全米で2,357件の反トランスジェンダー法案が審議され、そのうち308件が成立しました。この動きを目の当たりにし、トランスジェンダーのコミュニティには強い恐怖と絶望感が広がっています。こうした法案はさまざまな形でトランスジェンダーの人々を標的にしており、その代表的なものが、トイレの利用を規制する「トイレ法案(バスルーム・ビル)」です。

2025年に49州で1022件の反トランスジェンダー法案の提出を示す画像

米国各州における反トランスジェンダー法案の成立状況。2025年には49州で1,022件が審議され、そのうち126件が成立。
Credit: Trans Legislation Tracker via translegislation.com 

これにより、公共トイレの利用をめぐる、過度な監視や取り締まりが助長されることとなりました。トランスジェンダーだけでなく、性自認と出生時の性別が一致するシスジェンダーであっても、いかにも男性らしい、または女性らしい見た目ではない人々が、ただトイレを利用しようとしただけで嫌がらせや暴力を受けるケースが増えています。

カンザス州では今年、運転免許証の性別欄は出生時の性別で記載しなければならないとする新しい法律が制定され、これにより過去に性別表記を変更した人の免許証はすべて無効となりました。あるトランスジェンダー女性は、この新しい州法に従って免許証を元の性別表記に戻す手続きを行いましたが、その後、軽微な交通違反で警察に止められました。州法の規定通り免許証には「男性」と記載されていたものの、警察官は彼女を見た目で女性と認識したため、そこに混乱が生じました。この時は警告のみで済んだにもかかわらず、後日、彼女のもとに有効な免許証を不携帯であったとする罰則通知が届きました。幸いにも警察側の誤りが判明し、最終的に処分は取り下げられましたが、この出来事は、たとえ差別的であれ、法律に忠実に従っていたとしても、トランスジェンダーの人々は危険にさらされる可能性があることを如実に示しています。

転居できる人とできない人の間の格差

トランスジェンダーを標的にした法律が次々と成立する中、トランスジェンダーの人々は、自分たちを受け入れてくれる州へすでに避難しているか、あるいはこれからそうしたいと望んでいます。しかし、彼らは貧困に陥る割合が他の人々と比べて高く、州をまたぐ転居や国外への移住に必要な費用を捻出するのは容易ではありません。移住できたわずかな人々は、反トランスジェンダー政策に反対する、リベラルな一票を持つ有権者でもあります。そのため、こうした人々が州を離れることで、元々住んでいた州では反トランスジェンダー派の政治家に対する反対勢力が弱まり、差別的な政策が成立しやすくなる悪循環が生まれます。こうした中で転居することも叶わない、最も弱い立場にあるトランスジェンダーの人々が、州内でますます強まる偏見に一人で立ち向かわざるを得なくなってしまうのです。

差別の代償は経済にも及ぶ

経済面から見ると、反トランスジェンダー法を制定した州は観光収入や関連する経済効果の減少に見舞われています。 世界80カ国以上の、LGBTQ+の旅行者たちの受け入れに積極的な旅行関連企業が加盟する International LGBTQ+ Travel Associationの会長は、2030年までにクィア(性的指向や性自認が多様な人々)の旅行者市場が6,000億ドル近くに達する可能性があると述べています。反トランスジェンダー政策を推し進める州の多くは、こうした潜在的な収益を逃す結果となっており、中には人権活動家やクィア団体が「旅行先として選択すべきではない州」として指定されているところもあります。反LGBTQ政策を特に強く推進している州の一つであるフロリダ州では、こうした抗議活動の影響により、イベントやカンファレンスの中止が相次ぎ、観光客が減少し、実際に数百万ドルの損失が生じています。 

トランスジェンダーを守り、理解する社会へ

私たちは、最も弱い立場に置かれている人々を守るために、このような差別的な言説を断固として拒絶していかなくてはなりません。その一つの取り組みとして、アメリカではトランスジェンダーの人々が、性自認に沿った医療を提供するジェンダー肯定医療を受ける権利や、それを提供する医療従事者を保護する法律が導入されています。こうした法律は、他州で禁止されている医療を受けた人やそれを提供した医療従事者を、禁止している州からの訴追などから守ることを目的としています。主に民主党優勢の15州とワシントンD.C.でこうした法律が可決されているほか、さらに3つの州の知事がトランスジェンダーの住民を保護するための行政命令を出しています。 

しかしそもそもは、トランスジェンダーの人々がこれほど行動を制限されなければならない状況が生まれること自体が問題です。どの州においても、すべてのトランスジェンダーに対し法的な保護が行き届く必要があります。またそれだけでなく、社会の中でトランスジェンダーへの理解を広げ、受け入れていくことも欠かせません。マイノリティの人々と日常的に接し、実際に交流する機会が増えれば、彼らに対する偏見は徐々に弱まっていきます。

1. The newest anti-trans risk assessment map is here for transgender people.The situation continues to deteriorate for trans people in the United States.Idaho becomes the fourth "Do Not Travel" state, with up to 5 year prison sentences for bathroom usage.Subscribe to support our journalism.

— Erin Reed (@erininthemorning.com) 2026-07-13T16:12:18.387Z

逆にトランスジェンダーの人々を身近に感じることが少なければ少ないほど、多くの人が接するのは反トランスジェンダー側のメディアや政治家による否定的な情報ばかりになり、トランスジェンダーに対する社会の理解がさらに後退してしまいます。

私は、社会がトランスジェンダーと対話をする機会が失われることに対し、強い危機感を抱いています。トランスジェンダーも同じ一人の人間なのだと知ってもらえるのは、実際に顔を合わせ、言葉を交わす機会があってこそです。私たちを社会から遠ざけるのではなく、互いを知り、理解し合える環境をつくっていくことが必要だと、私は強く感じています。

「トランスの人々は脅威ではない」と書かれたプラカードを掲げる抗議者

ゲストライター W. Tysonによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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