ブレインロットとスマホ依存|若者の思考力低下は誰が招く

「スマホで脳が腐っていく」。そんな現代人の危機感を象徴する「ブレインロット(脳の腐敗)」という言葉が、いま注目を集めています。スマホでSNSなどを見るうち、不安や恐怖を煽るニュースを、やめたいと思っても延々と見続けてしまう行為は、「ドゥームスクロール」と呼ばれます。破滅を意味するドゥーム(Doom)とスクロール(Scroll)を組み合わせた造語で、コロナ禍において一気に広まりました。このドゥームスクロールを繰り返すことが、「ブレインロット」の一因になると考えられています。

一般的にこの単語は、ネット上のコンテンツを長時間消費し続ける行動を揶揄する言葉として使われます。しかし、ブレインロットという言葉が一気に拡散され、多くの人が使うようになった背景には、そこにもっと深い問題、すなわち、利便性の高いデジタルへの依存によって、人間が自分で考える機会が徐々に失われつつあることを、多くの人が感じているからにほかなりません。

教育とは本来、不確かな事象に向き合い、目の前の問題に対し自ら考え抜く力を育むものでした。しかし、生成AIがその思考プロセス自体を代替するようになった今、どのようなツールを使い、どう情報を集めるかを学生に教えるだけでは、もはや十分ではありません。今問われているのは、学生に自分の頭で考える機会が十分に与えられているかどうかです。

SNSやアプリなどの各種プラットフォームは、ユーザーがデジタルコンテンツを受動的に見続け、途中でやめられなくなるように設計されています。アルゴリズムにより最適化されたメディアコンテンツに過度にさらされることは、メディアリテラシーの低下やメンタルヘルスの問題と密接に関連していることが研究でも指摘されています。 今や世代を問わず、AIによって生成された誤情報やオンライン詐欺、特定の情報に偏りやすいデジタルコンテンツに日常的に接しています。高齢者は、利用者を騙して本人に不利な操作に誘導する「ダークパターン」 の罠にはまり、金融詐欺の標的になりやすい一方、働く世代では、業務上の判断をAIに依存する機会が増えています。このように、デジタルコンテンツとの関わり方も世代によってさまざまであり、ネガティブな影響も多岐にわたります。

若者の発達を阻むデジタル技術

デジタルネイティブともいわれるZ世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)や、AIやデジタル技術に囲まれて育ったα世代(2010年代以降生まれ)は、批判的思考力(クリティカル・シンキング)や認知、感情がまだ発達途上にある時期から、こうしたテクノロジーに囲まれて育っています。そのため、思考習慣が確立される前の段階で、プラットフォーム側の意図的な誘導に対して、ひときわ脆弱な状態に置かれていると言えます。そのような大事な時期に、「ブレインロット」による思考力の低下が原因で、物事を深く考え抜く力や集中力が減退してしまうという問題も明らかになってきています。デジタル技術が子どもたちの健全な発達を妨げている以上、若い世代をその弊害から守ることは社会が果たすべき責任なのです。

香港の研究者たちが示した見解によると、誤情報を正しく見極めるには、AIの仕組みや特性を理解する「AIリテラシー」と、メディア情報を正しく読み解く力である「従来型のメディアリテラシー」の両方が、ますます重要になっているということです。しかし、これらは自然に身につくものではなく、体系的に教育されるべきスキルです。だからこそ、教育はデジタル社会にあふれる誤情報や、利用者を巧みに誘導する仕組みから身を守るための重要な手段となります。しかし現実には、教育格差によって、デジタル社会を生きていくために必要なスキルや論理的思考力を、すべての若者が身につけられているわけではありません。

ソーシャルメディア依存を自認する人の割合を示すグラフ

ソーシャルメディア依存を自認する人の割合を示すグラフ
Credit: Statista via Truelist


AI活用で教育格差縮小に期待

AIは、情報へのアクセスを平準化し、学習を支援することで、教育格差の縮小につながるツールとして期待されています。それならば、AIの特性を理解し、倫理的かつ責任を持って使いこなす方法を学生に教えることが最優先です。AIが生成する情報を客観的に評価し、そこに潜むバイアスを見抜く力が欠如していると、若者はますます巧妙化するオンライン空間を生き抜く準備ができないまま、社会に放り出されてしまいます。 

昨今では、当事者である学生の間でも、より実践的なAIリテラシー教育を求める声が高まっています。ヨーロッパで行われたある意識調査によると、中高生の76.5%が、AIおよびデジタルリテラシーに関する実践に即した授業を受けたいと回答しました。アメリカ、カリフォルニア州など一部の地域では、こうした動向を見据え、今後の教育カリキュラム改訂においてAIとメディアリテラシーの授業を義務付ける動きが進んでいます。


AI時代を生きるZ世代に必要な「考える力」

AIが、新たな知識への扉を開き、学習を支えるツールであることは間違いありません。しかし、情報を吟味し適切な結論を出すためのスキルは教育によって培われるべきであり、そこをAIが取って代わることはできません。私自身、Z世代の一人として、同世代の学び方や日常のコミュニケーションの中に、AIが急速に浸透していく様子を目の当たりにしてきました。そして、その利便性ゆえ、目の前の物事に対し疑問を持つ機会が減り、情報を鵜呑みにする受け身の姿勢が助長されることに強い危機感を抱いています。

さらに気がかりなのは、AIを開発、提供する巨大IT企業よりもはるかに力も経験も乏しい若者に、こうしたシステムから自分の身を守る責任まで負わせていることです。利用者を意図的に誘い込み、時間を奪うよう精密に設計されたテクノロジーに対して、自分の身は自分で守るよう若者に求めるのは酷であり、論理的ではありません。年齢や教育環境にかかわらず、子どもたちが物事を深く読み解き、自分の頭で主体的に考える力を育む環境をつくること。この責任は、学校現場から政策立案者、保護者、そしてテクノロジー企業に至るまで、あらゆる立場の人々が一体となって担うべきです。自律的な思考力そのものが「一部の恵まれた層だけが持てる新たな教育的特権」へと変貌してしまう前に、私たちは今、行動しなければなりません。

SNSアプリがフォルダーにまとめられたスマホのスクリーン写真

Credit: Shutter Speed via Unsplash

ゲストライター G. Thomasによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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