マーケティングは、ブランドや企業の「顔」です。マーケティングという言葉には「広告宣伝」、「販促活動」などの意味が含まれますが、消費者はブランドの持つ価値やその企業自体についてよく知らなくても、広告を通じてその価値観を見極め、商品やサービスを購入するかどうかを判断します。購入リピーターの安定確保は全ての企業が目指すところですが、DEIの普及と共に、現在はそのDEIのエッセンスを加えたマーケティング戦略が非常に重要となっています。Meta社の調査によりますと、DEIのテイストが効果的に織り込まれた広告のブランドに対し、消費者の59%が好感を持つと報告されています。
新しい世代の消費者たち
これまでの世代とは異なり、今後最も売り上げに影響を与える「Z世代」は、企業がどのように弱い立場の人々を支援し、社会問題に取り組んでいるかに深い関心を持っています。私自身も「Zoomer(Z世代を指す俗語)」でありますが、実際自分の購買過程を振り返ってみると、そのブランドがどの程度多様性を反映しているかを非常に重視し、購入するかどうかを決めていることに気づきます。広告から多様性を感じ取ることで、そのブランドのコンセプトが自分の価値観に合うかどうかの判断基準にもしています。逆に多様性を感じられない広告を目にすると、その企業はインクルーシブではないと捉え、違和感と共に不快感をも覚え、その商品や企業への興味は一気に失せてしまいます。そしておそらく将来的にも、そのブランドの商品を手に取ることははないでしょう。
Z世代をターゲットにした新たな戦略
スポーツ用品メーカーのナイキは、多様性を上手くマーケティングに活用し、成功している企業の一つです。長年にわたり、同社は多様性を前面に押し出したキャンペーンや、様々な経歴や能力を持つアスリートたちを支援し、社会的にも高く評価されています。特に印象に残るのは、元NFL(プロアメリカンフットボール)選手で市民権運動家でもあるコリン・キャパニックを起用した「Dream Crazy」というキャンペーンです。コリン・キャパニックは、警察による人種差別や暴力への抗議として、2016年にアメリカのNFL選手として試合前の国歌斉唱時に膝をつき、大きな話題となりました。支持者からは人権擁護者として称賛される一方、愛国心の欠如と批判する人々も存在し、彼は現在もNFLでのプレーには復帰していません。当時そのような賛否両論の中、反DEI団体からの反発をものともせずナイキはキャパニックを支援し、同社の売上は31%増という結果となりました。このインクルーシブで一貫した企業姿勢こそ、ナイキが長年スポーツ用品界のリーダーに君臨し続ける理由とも考えられます。
私が注目したもう一社は、グローバル・コンサルティング企業のアクセンチュアです。2022年、同社はDiversityIncが発表する「ダイバーシティ企業トップ50」の中で1位に輝きました。このランキングは、企業や組織に多様性がどれ程浸透しているかを多角的に評価し、順位付けしたものです。更にアクセンチュアはオラクルと提携して、企業がDEI目標と実際の運営とのギャップを埋めるためのソリューション「AWARE」を開発しました。そして昨年には、マーケティング・コミュニケーション業界において障がい者インクルージョンを推進する「Disability:IN」という団体をTD Bankと共同設立。これにより、企業がインクルージョン推進に対して社内外でさらにコミットすることで、障がいがある人々が活躍できる職場環境の整備が進むことが期待されています。
しかし、企業の評判を決定づけるのはマーケティングだけではありません。一部には、「ダイバーシティウォッシング」と呼ばれる、「実際には多様性への取り組みを行わず表面的にDEIを促進しているように見せかける」ような企業も存在しています。私たち消費者は形だけの取り組みではなく、偽りない誠実さを企業に求めていることを理解していないようです。
ダヴ「美しさは全ての人に」
そして多くの人々から誠実な取り組みを評価されているのが、誰もが知るユニリーバ社の「ダヴ」ブランドです。これまでこの業界は、白人を中心としたマジョリティーを対象に広告宣伝を展開してきたことで、長い間批判にさらされてきました。そんな中、2004年に同ブランドが開始した「Real Beauty」キャンペーンは、こうした美容業界に衝撃を与えました。このキャンペーンでは様々な年齢、体型、人種の女性たちを広告に起用し、画一的で偏った従来の美の基準を見事に打ち砕くことに成功したのです。こうしてこのキャンペーンは世界中の消費者たちの共感を集め、ダヴは20年間にわたって支持され続けています。
また最近では、ダヴはこの業界で初めて、広告にAI画像を使用しないことを発表しました。このことは、同社の「Real Beauty」キャンペーンと同じメッセージ性を持ち、AIのトレーニングデータが多様性に欠けることや、AIが「リアルな女性」にはまだ程遠いことへの同社の見解を示すものです。ダヴは、真のDEIを追求する他の企業にとって、素晴らしいロールモデルのような存在です。
多くの消費者がDEIに注目し、それが商品を選ぶ際の基準にもなっている現在、企業は社内外でDEIの浸透に真剣に取り組むことが不可欠です。そして長期的に売り上げを伸ばすためには、多様な意見や視点をマーケティングキャンペーンに取り入れることも必要です。それにより、消費者との強い信頼と絆が構築され、インクルーシブで公平な環境が整っていく。そういった一連の結果として、売上の増加やブランド評価の向上が期待できるのではないでしょうか。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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