アメリカ南部の民話を題材にしたSouth of Midnightというゲームをご存知でしょうか。黒人女性が主人公のこの創作アドベンチャーゲームがリリースされたとき、その大胆で新鮮な試みに、私はとても好感を持ちました。同様に、江戸時代初期の蝦夷を舞台にしたゲーム、Ghost of Yōteiが、主人公に日本人の男性ではなく女性を選んだことも非常に印象的でした。いずれも男女平等という概念が薄い時代設定のなかで、あえて女性を主役に置いたことは、大変意味のある一歩だと感じたのです。 しかし、同じ熱量でこれらの作品を評価したゲーマーは思いのほか少なく、私にはそれが率直な驚きでした。
進化する業界に戸惑うゲーマー
これらの作品をめぐっては、ゲームそのものや制作側への激しいバッシングが起きました。South of Midnightは黒人女性を主人公にしたことで「白人への逆差別」「DEIの押しつけ」と批判され、一部では「2025年で最も人種差別的なゲーム」とまで評されました。Ghost of Yōteiにおいては、前作で好評だった男性主人公が女性へと変わったことは、政治的メッセージを優先した結果ではないかという疑念が噴出しました。また、その主人公のモーションアクター(顔や体の動きをゲームキャラクターに反映させる役)と声優を一人で担当したエリカ・イシイは、その攻撃の標的となっています。彼女が性的マイノリティであり、LGBTQの権利などについて積極的に発言する活動家であったことも、批判をさらに加速させました。
こうした批判は多様性そのものへの反発のように見えますが、その本質は「変化への拒絶」にあります。一部のゲーマー、とりわけ長年ゲームを自分たちの文化と感じてきた男性ファン層の中には、「ゲーム業界が多様性によって壊されている」と受け取る人もいます。しかし裏を返せば、こうした反発こそが、業界が確実に変わりつつある証拠とも言えます。もちろん、変化に戸惑いを感じること自体は自然なことです。ただ、その感情をバッシングという形で表すこととは、切り離して考える必要があります。
自分は招かれざるプレイヤーと感じたとき
多様性の浸透がゲームにとってデメリットであるという主張は、実際の数字が否定しています。ゲーマーのほぼ半数は女性であり、男女含めたゲーマーの64%が、多様なキャラクターの登場するゲームをプレイしたいと答えているからです。多様性はゲーマーに押しつけられているのではなく、むしろ必要とされているのです。
また、キャラクターのカスタマイズ設定機能は、開発者がどのようなプレイヤーを想定しているかを如実に映し出します。白い肌、青い目、ストレートの髪など、いわゆる欧米的な美の基準に偏った選択肢しかないゲームは、それ以外の見た目を持つプレイヤーの存在を、制作側がそもそも想定していないことを示しています。カスタマイズしようとした時に、自分に似たキャラクターが作れないと分かった途端に失望感が広がり、ゲームへの熱も冷めていきます。
一部のゲーマーは、DEIの広がりによってゲームの質が下がると頑なに主張します。一見、ただの感情論のようでもありますが、実は心理学の「保有効果(エンダウメント効果)」という概念で説明がつきます。 これは、一度自分のものと感じた対象へ強い愛着や高い価値を感じ、その状態を変えたくない、手放したくないと思う心理です。
また、長年常識とされてきたことが変わり始めるとき、人はそれを脅威と捉える傾向があります。かつてゲームの主人公といえば男性が当たり前で、プレイヤーも男性が中心でした。それが徐々に多様化して男性以外の存在感が増すにつれ、「自分たちのゲーム文化が奪われていく」といった感覚に陥る男性プレイヤーも少なくありません。

世界におけるゲーム利用率の属性別データ(性別、年代)
Credit: Worldwide, GWI, and DataReportal via Statista
誰もが楽しめる空間へ向けて
今やゲームは性別や人種を超えて、世界中で楽しまれるエンターテイメントとなりました。 ゲームのコンテンツにおいて、少しずつ現実社会の多様性に追いつきつつありますが、LGBTQ+をテーマにした作品がまだ少ないなど、課題が残る部分もあります。 一方で、翻訳、字幕や音声ガイドの充実、難易度のカスタマイズなど、アクセシビリティは大きく向上しています。
現状の問題は、批判自体ではなく、何をどう批判するかにあります。 もちろん、描写の浅いキャラクター、トークニズム(形だけの多様性)やステレオタイプにはめた描き方は、稚拙なストーリーと同じくらいプレイヤーをしらけさせるものであり、すべての批判が的外れというわけではありません。批判の内容と方法を問い直すことは、とりわけ変化に抵抗を感じているゲーマーに考えてほしい課題です。女性や黒人が主人公というだけで不満を口にする前に、一度「自分は何に引っかかっているのか」を振り返り、先入観を捨て、異なる視点に触れてみることが重要です。
そして、実際にプレイした後でも納得できなければ、感情的な批判ではなく、制作側に具体的な言葉でフィードバックを届けること。そうした建設的な声が積み重なったとき、多様性はゲームのストーリーに自然と溶け込む要素になるはずです。ゲームの未来をつくるのは、批判するだけのプレイヤーではなく、真剣にゲームと向き合い、実直に改善していこうと考える人たちです。

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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