ひとり親は失敗ではない|一人二役を強いる役割分担の限界

アメリカでは今、約3人に1人の子どもがひとり親家庭で育つ時代です。決して珍しい家族の形ではなくなった今も 、一人で子育てを担う親たちへの社会の視線はいまだに厳しいままです。

母子家庭の子どもが1,440万人、父子家庭の子どもが350万人という現状にあっても、ひとり親は無責任で、経済的にも精神的にも不安定といったネガティブなイメージで見られがちであり、この偏見が社会的孤立を招く要因ともなっています。実際、ひとり親の64%が、その立場を理由に何らかの差別や不当な扱いを受けた経験があると回答しています。

ひとり親につきまとう偏見

母親であれ父親であれ、一人での子育てが極めて過酷であることは広く認識されています。イギリスで、ひとり親への社会的偏見を研究する社会学者ニコラ・キャロル博士は、インタビュー調査に参加した母親たちが、孤独感やステレオタイプに対する強い不満を抱えていたと述べています。例えば、シングルマザーは「母親一人では力不足で、子どもの不幸を招く」と批判が向けられ、シングルファザーには「男性に育児は無理だ」と周囲から決めつけられることが多いのです。

このように、ひとり親はその性別によって、異なる偏見にさらされます。私自身もひとり親であり、これまでも「努力が足りないのではないか」「家に父親がいないから息子はうまく育たない」といった、心無い言葉をかけられた経験があります。そうした言葉には思いやりなど微塵もなく、ひとり親という現状を「失敗」として責め立てる、暴力的な偏見に他なりません。 

ひとり親が背負う二つの役割

育児において父親に求められる役割や期待は、今も母親ほど高くありません。母親は子どもを育てる絶対的な存在であり、家事全般と家族の心のケアにも対処することが当然視されています。しかし、家族を経済的に養い生活を守る存在とは考えられていません。学校行事の対応、子どもの通院や習い事の管理など、子育てに付随する膨大な予定を取り仕切るのは母親の仕事であり、さらに育児にともなう精神的な負担を、声を上げることなくひとりで抱え込むことまでも当たり前と考えられています。 対照的に、父親は一家の稼ぎ手として家族を養うのが主な役割とされるのが一般的です。

このように、性別によって異なる役割が根強く定着していますが、ひとり親家庭ではその両方が一人の肩にのしかかります。育児と経済的な責任のすべてを、たった一人で担わなければならないのです。そもそも、こうした役割分担は社会がつくり上げた価値観に過ぎません。このような社会を変えていけるかどうかは、私たちの意識次第です。ひとり親が孤立せず、一人の親として当たり前に尊重される環境を、少しずつでも着実に築いていく必要があります。 

ひとり親と共働き世帯の経済力の比較グラフ。シングルマザーの困窮率が最も高い。

ひとり親とふたり親における収入と貧困率の比較(2022年)
Credit: Integrated Public Use Microdata Series, Current Population Survey Data for Social, Economic, and Health Research: Version 11.0 via Center for American Progress


一人で抱える家計と心の限界

家賃や光熱費、医療保険料、食費、育児および学校関連の費用など、生活に関わる様々な出費を一人でやりくりすることは、ひとり親の心身を確実に消耗させ、バーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こします。この状況は、低所得世帯だけの問題ではなく、生活に余裕があるはずのひとり親家庭でさえ、その重い負担を実感しています。 

悩みを打ち明け、負担を分かち合えるパートナーの不在は、ひとり親を常に限界ギリギリの状態に追い込みます。アメリカのシンクタンク「Center for American Progress(アメリカ進歩センター)」が2023年に行った分析によると、ひとり親は貧困に陥るリスクが極めて高く、中でもシングルマザーは、シングルファザーや二人親の家庭と比べて収入が低く、最も高い貧困率という過酷な現実に直面しています。

ひとり親であることは、決して「失敗」ではありません。一人だからといって、無責任でも、子育てができない親でもありません。それでも、こうした偏見は今も消えず、社会はひとり親に寄り添うどころか批判の目を向け続けています。必要なのは親身になって周囲が支えることのはずなのに、できて当たり前という重荷を逆に押しつけているのが現実です。 

子育ては簡単なことではなく、それを一人で行うのであればなおさらです。ひとり親が直面する困難を認識し、批判の言葉を共感の言葉に、冷たい無関心を温かいサポートに変えていく。その積み重ねが、ひとり親、そしてすべての親が尊重される明日へとつながっていきます。

ソファでくつろぎながら、幼い娘たちと対話をする母親の姿

ゲストライター M. Hickmanによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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