金属棒によって座ることができないベンチ(ストックホルム中央駅)
Credit: Frankie Fouganthin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
「敵対的建築(hostile architecture)」を、皆さんは実際に見たことがありますか?傾斜したベンチ、窓の縁や高架下に付けられた無数の鋭利な鉄製ピン、都会のビルの壁沿いに金属棒が何本も設置された光景などを目にし、街なかのアートだと思われた方もいるでしょう。こういった建築やデザインは、敵対的建築または防御デザイン、反ホームレス建築と呼ばれるものです。一見ユニークなアートのようなものが多いことから、排除アートとも言われます。これらは元々犯罪防止を目的としたものでしたが、スケートボードや落書き、街なかや公園のベンチで横になる、野宿をするなど、公共の場での迷惑行為を抑制する方向へと広がっていきました。アメリカでは、ホームレスが都市への投資や観光客の足を遠のかせるのではという懸念から、こうした建築デザインが1980年代に広まりました。しかしこれはアメリカだけの話ではなく、敵対的建築は世界各地に存在します。

バスなどが通行できないように意図的に低く作られた陸橋(アメリカ・ニューヨーク州)
Credit: Dougtone, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
誰も幸せにならない不幸な建築物
では、犯罪防止を目的とする敵対的建築には、どのような問題があるのでしょうか?もちろん街の犯罪がなくなること自体は大変良いことなのですが、問題はこの建築が非常に排他的な性質を持っており、特定の人やグループを意図的に排除するようデザインされている点にあります。例えば車椅子利用者向けに設置されたスロープのように、「ある特定の人々を助けるための設計」であれば、全ての人に利益をもたらす結果となります。ところが、敵対的建築は全く逆で、特定の人々を排除することで結果的に多くの人に弊害を与える建築物です。敵対的建築が公共の場に設置されると、ホームレスだけでなく、体調が悪い人々もベンチで休むことができなくなります。高齢者や妊娠中の女性、障がい者、慢性の痛みや疾患を抱える人々は、こういった建築物のネガティブな影響をまともに受けてしまいます。実のところ敵対的建築の多くは、障がいがある人々への差別を禁止する米国の「障がい者法(ADA)」に、適合していないのが実情です。
時代に逆行する利用しにくい公共空間
一見インクルーシブに見えるベンチや構造物であっても、形状や高さが合わないことで、車椅子利用者には使いにくいものが沢山あります。ロンドンの地下鉄やヨーロッパの都市では、歴史的建物のアクセシビリティ向上を目指しインクルーシブな都市作りに励んでいますが、このように使いにくい構造物は取り組みの方向性に逆行するものです。
建築の専門家たちの意見も然り、敵対的建築は特定の人々だけでなく、全ての人へ負の影響があるとの認識で一致しています。日本の東北大学大学院教授で、建築史・建築理論が専門の五十嵐太郎教授は、敵対的建築について「私たちの心を削り取っていく手法であり、最終的には誰も休息できない不快な空間を作り出すものだ」と述べています。彼はインタビューの中で、1970年代の東京・上野公園でよく見られた傷痍軍人とその後の上野について触れました。当時は彼らを追い出すようなことは誰もしませんでしたが、ホームレスが傷痍軍人に代わって上野界隈に居座るようになると、ホームレスの人々は途端にその場から排除されるようになったといいます。このような反ホームレスの感情はアメリカでも同様に存在し、最高裁判所は公共の場で寝泊まりすることを違法とし、そのような人々を各自治体が罰することを認めています。こういった法律の存在も、ホームレスを増々悪者扱いする格好の材料となっています。
フレンドリー建築で対抗
敵対的建築が無くなる日はまだ遠そうですが、一方で最近「フレンドリー建築」と呼ばれる新たなデザイン建築がよく見られるようになってきました。これは、空間をインクルーシブで利用しやすくする、敵対的建築の対極にあるコンセプトに基づいています。カナダのバンクーバーにある「RainCity Housing」という非営利団体は、ホームレスの雨宿りや一時的なシェルターとしても利用可能なベンチのデザインなども手がけており、「フレンドリー建築」として注目されています。このように、快適でよりフレンドリーな空間を作り出すためには、住民が市議会や都市計画担当者に対して、敵対的建築を今以上に増やさないよう訴えていくことが重要です。ホームレスの人々、そして全ての人々の公平性に配慮したフレンドリーな空間を増やしていくことが、私たち一般市民の願いなのですから。

Credit: The Bench Project, Vancouver, by Spring Advertising
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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