常に白人が主役のキャンプ広告|アウトドアが語る排除の歴史

Credit: Old Town canoes, Old Town, Maine, via DigitalCommonwealth.org


キャンプブームの広がりとともに、近年、街中やSNSでアウトドア関連の広告を目にする機会が増えました。山道を歩くハイキングブーツ、星空の下に張られたテント、澄みきった湖面を滑るように進むカヤック。そうしたイメージの中に登場する人物は、多くの場合が白人です。

アメリカのアウトドア産業協会(Outdoor Industry Association)によれば、2023年にアウトドアを楽しんだ人の約70%を白人が占め、黒人は10.3%、ヒスパニック系は13.4%にとどまりました。この結果は、多様化が進むアメリカ社会の実態とは大きくかけ離れており、アウトドアにおける多様化が遅れている現状を明確に示しています。

こうした格差は、人種による文化の違いが理由であるかのように言われ、「黒人はアウトドアを好まない」と安易に決めつけられる傾向があります。しかし実際、アウトドアに親しむ黒人やヒスパニックが少ないのには歴史的な背景があり、また社会の根幹に今も存在する、多数派有利の仕組みも影響しています。

ロサンゼルスの高所得地域(上)と低所得地域(下)における緑地分布の違い 
Credit: Map data, 2024, via Google


追放と排除の上に築かれたアメリカの大自然

現在では自然の雄大さが称賛されるアメリカの国立公園ですが、その成り立ちには排除の歴史があります。17世紀の植民地時代から19世紀後半の西部開拓期にかけて、自然豊かな先住民の土地は、国家政策と開拓の名のもとに次々と奪われ、住民たちは完全に追放されました。そうして人の姿が消えた土地は、やがて新たな価値を与えられていったのです。

1800年代、都市を「移民であふれた不潔な場所」と見なしていた白人上流層は、この壮大で手つかずの「自然」に目を向け、自分たちだけの特別な場所として神聖視するようになりました。自然が白人たちの手に渡ったことで、長きにわたって自然と共生し土地を守ってきた、先住民の暮らしの知恵は消し去られてしまいました。

1905年制作の、桟橋で釣りをする白人女性を描いたグラフィックアート作品。

アウトドアの象徴として描かれた白人女性が釣りをする様子(1905年)
Credit: Fishing, by Schwab & Wolf, via Library of Congress

その一方で、黒人アメリカ人はジム・クロウ法に基づく人種隔離のもと、1960年代まで国立公園の利用に多くの制約を受けていました。当時は、白人以外が日没後に立ち入ることを禁じ、暴力によって排除する「白人専用」の町、サンダウン・タウン(Sundown Town)が全米各地に存在していました。国立公園周辺にもこうした町があり、白人以外の人々は移動手段の確保や宿泊そのものが困難で、容易に近づくことはできませんでした。人種隔離政策が廃止された現在でも、アウトドア文化はいまなお圧倒的に白人中心です。自然は「白人のための空間」であり、それ以外の人種にとっては手の届かない楽しみだとする認識が、歴史的な排除の名残として根強く残っています。

2018年の国立公園来訪者と米国人口の人種・民族構成を比較した棒グラフ

米国における人種割合の比較(2018):国立公園来訪者(上)と米国人口内訳(下)Comparison of Racial/Ethnic Makeup of National Park Visitors vs U.S. Population in 2018
Credit: Data via National Parks System Comprehensive Survey, 2018 and U.S. Census, 2018


人種や経済格差が身近な自然をも遠ざける

さらに、経済的な要因も、アウトドアへの扉を重くしています。現在、黒人やヒスパニック系アメリカ人の貧困率は白人のほぼ2倍に達しています。また、有色人種のコミュニティが「緑地や自然の少ない地域」に暮らす割合は白人に比べて約3倍にのぼり、低所得の有色人種の76%以上が、周囲に緑の乏しい環境で生活しています。こうした状況は個人の選択によるものではなく、住宅政策や都市計画、環境差別といった長年の制度的な不平等によって生み出されてきました。その結果、彼らは日常生活からして、自然と触れ合う機会そのものを奪われています。さらに、アウトドアで初めてキャンプをする場合、一通りの装備を揃えるだけでも500〜1,300ドルかかることが一般的です。この費用は低所得層にとって大きな負担であり、多くの人がアウトドアの楽しみをためらう要因になっています。

文化的な障壁も依然として存在します。アウトドア関連の広告やメディアに白人の姿ばかりが登場すると、アウトドアは白人が楽しむものだという暗黙のメッセージが、知らず知らずのうちに人々に刷り込まれていきます。また、国立公園の規則やキャンプ場のルールも、有色人種の参加を難しくすることがあります。たとえば、多くの施設ではグループあたりの参加人数に上限があり、より大人数での活動を重んじる文化の黒人やヒスパニック系コミュニティにとっては不利に働きます。こうした積み重ねが差別や疎外感を生み、有色人種の人々は、アウトドア空間で歓迎されていないと感じてしまうのです。

業界を変えようと奮闘する市民団体

白人のアウトドア愛好家の中には、自らが享受してきた不当な特権に気づき、何か変えられないかと模索している人もいます。しかし、意識するだけでは状況は変わらず、具体的な行動が伴わなければ状況は変わりません。

実際、アウトドアの世界でインクルージョンを牽引しているのは、草の根の市民団体です。たとえばOutdoor Afroは、地域主導のハイキングやキャンプを通じて、黒人コミュニティが自然に触れ合える機会を提供しています。同様にLatino Outdoorsは、グループ活動を通じて、固有の文化的価値観を尊重したアウトドア体験を企画しています。

こうした流れの中で、アウトドア人口の多様化は徐々に進み、大手アウトドア企業も多様性を意識した動きを本格化させつつあります。しかし、構造的な問題は依然として根強く残ります。業界の意思決定層は圧倒的に白人が占め、多様性を掲げる取り組みの多くは表面的なものにとどまり、経済的なハードルも解消されていません。

アウトドアが白人中心である現状は、決して当然のことではありません。これは、長年にわたる意図的な排除の歴史と、今も残る様々な壁によって形作られてきました。本当の意味でのインクルージョンは、この人種差別の歴史と向き合わずには実現しません。その上で、経済的な負担を軽くし、交通手段の整備や手頃で安全な滞在環境を整えるなど、「家からキャンプ場が遠い」という距離のハードルを下げていく必要があります。さらに、業界の意思決定の場に、黒人や先住民など有色人種の声をきちんと反映させていくことも重要です。

自然はすべての人の共有空間であり、誰もが自分なりの形で自然を楽しむ権利があります。社会が本気で公平性を目指すのであれば、これまで快適な生活が保障されてきた人々ばかりを優先するのではなく、長らく蚊帳の外に置かれてきた人々のためにこそ、私たちは行動を起こさなければなりません。

緑豊かな森林の中をハイキングする2人の男性

ゲストライター Z. Dangによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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