南米サッカー連盟主催の歴史的な国際大会「コパ・アメリカ」。2024年7月、本大会で優勝したアルゼンチン代表チームが、試合後フランス代表に対し人種差別やトランスフォビア(トランスジェンダーへの差別)を歌詞にしたチャント(応援歌)をコールし、アルゼンチン代表のエンソ・フェルナンデスがその様子をライブ配信しました。この差別的なチャントは2022年ワールドカップの頃からアルゼンチンのサポーターの間で日常的に歌われていたので、この時が特別だったわけではありません。社会が多様化とインクルージョンに向けて前進する中、このような差別的チャントが日常化し問題視されない状態が、南米サッカー界に根強く蔓延する差別問題を改めて浮き彫りにしたと言えます。ヨーロッパを中心に行われた、LGBTQ+スポーツに関する国際調査「Out on the Fields 」によりますと、スポーツに関連したホモフォビア(同性愛者への差別や嫌がらせ)を目撃したことがあると答えた観客は、全体の80%にも上りました。特にサッカーが国民的スポーツとして愛されるアルゼンチンのような国では、その割合はもっと高くなるはずだと思われます。
サッカー文化を象徴するチャント
南米やヨーロッパでは、サッカーの試合中にスタジアムのファンが一丸となり、情熱的なチャントを歌う姿がよく見られます。スポーツ特有の熱気に満ちた歌のように聞こえますが、実際こういったチャントには、ホモフォビアや人種差別的な表現が多分に含まれています。コパ・アメリカでの一件をはじめとする問題を多くの人々が目にするにつれ、差別的なチャントが選手や社会に与える影響について社会は問題意識を抱くようになり、改善した方が良いのではないかとの議論が起こっています。
なぜ差別的なチャントをやめないのか?
世の中がインクルーシブな社会へと変革を推進しているにも関わらす、なぜサッカーは差別やヘイトのチャントで挑発的な応援をするのでしょうか?ある研究によると、これは意図的に差別を行っているというよりも、過去からの歴史的な文化に関連があるとのことです。これらのチャントは、主に南米に根付く「マチズモ」という「男性的で支配的な文化」の影響を受けており、これがミソジニー(女性蔑視)や過剰な男らしさを助長する要因となっています。また、アルゼンチンにはスタミナを意味する「アグアンテ(aguante)」という言葉がありますが、これはとりわけ「チームへの無条件の献身と支持」を表します。サッカーチームへのこのような思いから、ファンは意味など考えずチャントを共に歌い、そのチームへの忠誠心と一体感をより強くしていきます。こういった社会や心理的な構図が働くことによって、スタジアムから差別的なチャントが中々無くならないのです。

Credit: Светлана Бекетова, CC BY-SA 3.0 GFDL, via Wikimedia Commons
サッカー界にもインクルージョンの波
こうした問題に対処するため、CONMEBOL(南米サッカー連盟)やUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)などは、差別行為を取り締まるための方針と罰則を制定しました。CONMEBOLは、試合中に人種差別に反対するメッセージを掲示することをチームに義務付け、罰則も設けています。UEFAも同様の対応を取り、違反した選手やチームには出場停止や罰金などの罰則を科すことを決め、また選手たちの問題意識を喚起するキャンペーンなども実施しています。サッカー連盟によるこのような動きにより、問題の本質への理解が広まる一方、実際には違反があっても罰則を科されるに至らないケースが見られ、運用に関しては改善の余地が多く残されています。アルゼンチンでは国民の間で差別反対運動がよく行われますが、差別的なチャントは依然としてサッカーの試合で歌われる状況は変わっていません。競技場のスピーカーから差別反対を促すメッセージが流れたすぐ後に、同性愛差別の罵声の応酬が響き渡ることも多々あり、矛盾した現状が際立ちます。
Whether it’s on the pitch, in the stands or on social media, FIFA is committed to eradicating discrimination from the beautiful game.
— FIFA (@FIFAcom) November 20, 2023
During the #U17WC, FIFA and @UNHumanRights are reinforcing the message that there is no place for discrimination of any kind, anywhere. pic.twitter.com/Rs41mPm5Tb
若干の改善は感じられるものの、まだまだやるべきことがあります。サッカーは南米社会において非常に強い影響力があるスポーツのため、他者への尊敬とインクルージョンの文化がサッカー界にも浸透すれば、社会全体の大きな変革が期待できます。他者を受け入れる寛容さが普通のこととなれば、差別的なチャントを歌い続けるサッカーファンも数が減り、自然と自らの言動を変えざるを得なくなるでしょう。しっかりした規制の施行とそれに紐づいた教育、社会との連携。これこそが、サッカー界と社会そのものを「偏見のないインクルーシブな未来」へと近づける、重要なステップになると考えます。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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