DEI推進の落とし穴|マイノリティ・タックスを防ぐ評価制度

DEIを積極的に推進する企業の多くは、少数派の立場にある人材の採用を目的に、多様性に対する企業理念や具体的な推進施策を積極的に発信しています。そこには、オープンでインクルーシブな社風のもと、誰もが活躍できる環境であることを応募者に感じてもらうという意図があります。

しかしいざ入社してみると、マイノリティの従業員自身が、DEI推進を担う立場に置かれるというケースが非常に多いのが現実です。本来は支援のために用意された従業員リソースグループ(ERG)やメンタープログラムが、「活用できるサポート」から「自ら担う責任」へと、いつの間にか変わってしまうのです。

マイノリティが担う見えない負担

これが、いわゆる「属性に紐づく負担(Cultural Taxation)」の一例です。「マイノリティ・タックス(Minority Tax)」とも呼ばれるこの現象は、社会的に少数派である従業員自身が、多様性の推進役を担わされることで生じます。具体的には、同じマイノリティに対するメンター役や、多数派への理解を促す役割といった、付加的で負担の重い業務が挙げられます。

この問題は職場に限らず、大学などの教育機関でも見られます。ウィスコンシン大学の研究によると、マイノリティに該当する学生の91%、教員の63%がマイノリティ・タックスを経験したと回答しています。たとえば、マイノリティ採用活動への協力、DEI委員会への参加、メンター活動などが課されることで、学業や研究業務に充てる時間が圧迫されています。

重宝される能力が評価されない現実

「属性に紐づく負担」は、多くの場合、正式な業務範囲には含まれず、無償であるうえ評価もされにくいため、搾取の一形態と言っても過言ではありません。また、その追加業務が、周囲に知られていないことも多く、どれほど負担がかかっているかを認識されていないことがほとんどです。

たとえば複数の言語を話せる人は、自然と通訳的な役割を担い、同僚間のコミュニケーションにおいて、いつの間にか異文化間の橋渡し役を期待されます。このような担当外業務に対する暗黙の期待が積み重なり、人種や性別、性的指向、障がいの有無など、複数の側面でマイノリティにあたる人ほど、その負担はさらに大きくなっていきます。

このような不均衡が続くと、やがてDEI施策そのものの持続可能性を危うくします。本来の業務に加え、DEIに関するタスクが上乗せされることで、マイノリティの従業員は精神的な疲弊を抱えやすく、バーンアウトにも陥りやすくなります。とりわけその労働が可視化されず、人事評価にも反映されない場合、影響はさらに深刻です。

多くの組織において、マイノリティの従業員割合は依然として低いにもかかわらず、DEI推進の負担は彼らに偏り、自身のキャリア形成が後回しになるという結果を招いています。DEI推進活動に関わることで昇進の機会を逃したり、キャリアが伸び悩むという状況は、マイノリティにとって明らかに不公平な負担と言えます。

負担の分散でDEIを持続可能に

属性に紐づく負担に対処するには、マジョリティとマイノリティという立場を越えた連帯が不可欠です。DEI推進の責任を組織全体で共有することで、特定の人々への負担の集中を防ぐことができます。また、DEI専任の担当者を配置することも有効です。実際、フォーチュン500企業の59%が、DEI推進を主導するチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)という職位を設けています。

少なくとも、企業はDEIに関わる従業員の業務を正当に評価し、報酬に反映させる必要があります。評価制度や昇進基準にDEI関連の業務を組み込むことで、従業員の時間と労力が適切に認識されるようになります。最終的な目標は、従業員の時間が過度に奪われないような配慮と共に、業務負担を公平にアサインし、それに見合った対価を支払うことです。

属性に紐づく負担とは、DEI施策の陰に隠れた「見えない労働」です。組織がそれを正しく認識し、公平に分担できれば、DEIは単なる形式的な取り組みではなく、持続可能で実効性のある構造的変革へと昇華していくでしょう。

屋外のイベントに集まるマイノリティの従業員たち

ゲストライター G. Johnsonによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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