低所得国の食料システムが、先進国のグローバル企業によって大きな影響を受ける。こうした構造を表す言葉として、近年「フード・コロニアリズム(Food Colonialism:食の植民地主義)」という概念が注目されています。これは、主に先進国の企業が途上国の食料システムに強い影響力を持ち、地域の農業や食文化を弱体化させてしまう状況を指します。植民地主義と食の関係をめぐる研究の中で長年にわたって議論されてきた概念であり、近年はジャーナリズムや社会問題の文脈でも使われるようになっています。
フード・コロニアリズムは、多くの場合、その影響を受けている国の人々が気づかないまま、事態が進行していくのが特徴です。実際、低所得国を搾取している企業が、そうした国々が深刻な危機に直面した際、あたかも支援者や救世主であるかのような顔で近づくケースも少なくありません。その結果、地域固有の食文化は輸入品や加工食品に取って代わられ、地元農業は弱体化し、地域社会にはいわゆる「西洋型」の食生活が広がっていきます。
企業による自然資源の囲い込み
同様の構図は、食料だけでなく、水資源にも見られます。たとえば、一部のグローバル企業は地域の川や湖の水を大量に汲み上げ、ボトルウォーターとして商品化し高値で販売しているとして批判されています。こうした行為は地域の水資源の私有化とも見られ、周辺住民の安全な水へのアクセスを制限する可能性があります。また、水資源の過剰利用は水不足を悪化させる要因であり、この問題はとりわけ干ばつが頻発する地域では深刻な状況です。実際にボトルウォーター企業の取水をめぐり、地域住民が水不足や農業への影響を訴える事例も報告されています。
また、ペットボトル飲料の普及は、環境にも長期的な影響を及ぼしています。プラスチックごみの増加が世界的な問題となる中、コカ・コーラ、ペプシ、ユニリーバといった大手企業は、世界でも最大のプラスチックごみ排出企業として知られています。
大量生産を行うこうした企業は世界中で利益を上げていますが、その悪影響は特定の地域に偏っています。一方で、イギリスを含むヨーロッパの比較的裕福な地域では、発展途上国に比べて食品の流通や消費に関する規制が厳しく設けられています。「ファーム・トゥ・フォーク(農場から食卓へ)」という原則に基づくこの規制では、食品表示の透明性や厳格な安全基準が定められ、市民の健康が保護されています。
しかし、こうした制度の整備、運用には、十分な資金や行政体制が必要です。そのため、多くの低所得地域では同様の規制を導入することが難しく、結果としてフード・コロニアリズムがこうした地域に集中しやすい状況が生まれています。

Credit: 「ファーム・トゥ・フォーク」の基本原則 Farm to Fork strategy, via the European Commission
利益優先が乳児の命を脅かす現実
食規制が十分に整っていない国では、グローバル企業のような巨大な組織が地域住民の健康への影響を十分に考慮せず、利益を最優先に事業を展開することが可能になります。たとえば、世界的な食品メーカーであるネスレは、低中所得国で販売する商品に砂糖を過剰に加えているとして、これまで繰り返し批判を受けてきました。
調査によれば、アフリカ、アジア、中南米で販売されている同社の乳幼児向けシリアルの93%は、他地域の同じ製品よりも糖分が多いことが明らかになっています。砂糖が必要以上に加えられることで、子どもの甘味への依存が強まるだけでなく、将来的な肥満リスクを高める可能性があります。
また、乳児用粉ミルク商品の強力なマーケティングにより、低所得国では母乳による育児が減少し、粉ミルクへの依存度が高まる結果となっています。過剰糖分の問題だけではなく、不衛生な水で溶かした粉ミルクは乳児の健康を損ねる可能性があり、命の危険にも直結します。そのため、安全な水へのアクセスが制限されている地域では、特に深刻な問題となっています。ネスレをはじめとする大企業のこうした数々の販売戦略は、年間最大21万2千人の乳児の超過死亡に関連している可能性を指摘されています。
低所得国の食を植民地化から守る
フード・コロニアリズムの影響を受けやすい低中所得国においては、強力な規制の導入が必要です。たとえば、地元農家や国内の食料、水資源を守るための関税措置などは有効です。また、地域レベルでは、アフリカ連合(African Union)が提唱するように、食料自給の強化を通じて市民を守る取り組みも存在しますが、まだ広く実施されているとは言えません。こうした施策以外には、学校給食に地元産の農作物を積極的に取り入れる取り組みもあり、地域の食材への関心や需要を高める効果が期待されています。
しかし、フード・コロニアリズムへの根本的な対策を世界規模で進めるには、低所得地域を利益最優先の企業による過度な影響から守ることが先決です。こうした国々では、グローバル企業による労働搾取や租税回避が行われ、そこで生まれた利益は企業の本拠地である他国へと流出していきます。その結果、低所得国の地元企業は売り上げを圧迫され、経済全体も停滞していきます。
十分な栄養と安全な水へのアクセスは、すべての人に保障されるべき基本的人権です。だからこそ、グローバルに展開する企業のみならず、それらの企業の本国である富裕国もまた、この問題の当事者として責任があります。当然ながら、どの国や地域で販売される場合でも、製品の品質や安全性は同一の基準を守らなければなりません。各国政府には、人々が飢えることなく、健康で尊厳ある生活を送れるよう、食料を適切な価格で確実に提供する義務があります。そしてこの権利を守ることは、私たち一人ひとりが共に考え、支えていくべき課題でもあるのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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