車椅子なしに障がいを描けない?|映画、ドラマの偏った登場人物

Credit: Voello, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


アメリカでは今、4人に1人は何らかの障がいを抱えていると言われています。CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)によりますと、その数は約6,100万人にも上ります。それほど障がいのある人が多く存在する一方で、テレビやメディアではその取り上げ方が不十分な現状があります。実際、障がいのあるテレビの登場人物はわずか3.1%に過ぎず、子ども向け番組ではその割合が1%以下と更に低くなります。

現在のメディアの取り上げ方を見ると、障がいのある人でないと分からない様々な経験を、とても十分に描ききれているとは言えません。テレビや映画館のスクリーンに映る障がいのある人々はほとんどが車椅子を使う設定ですが、アメリカで障がいのある人のうち移動困難者はわずか12%です。そしてこのような人々が登場するストーリーでは、脚の麻痺を伴う脊髄損傷のような一面的な状況設定がよく見られるのも特徴です。しかし障がいのある人の中には、何とか歩行は出来るものの、症状や状況により時々車椅子を使うという人もいるのです。そのような状態の人は、人物設定として余り描かれることがありません。車椅子利用者にも様々な障がいの程度があるにも関わらず、テレビ番組の影響により、視聴者に「車椅子を使うのは足に麻痺がある重度の障がいのある人々」という誤解を招く懸念もあります。

全てに万能な表現は存在しない

メディアが取り上げる障がいには偏りがあり、非常に単一的です。そのため、障がいのある人の中で「自分たちの状況を代弁してくれるようなテレビ番組や映画を見たことがある」と答えた人は、全体のわずか23%という調査結果もあります。筆者は以前、クリエイティブ・ライティング・ワークショップなるものに参加したことがあります。これは参加者が創作活動を通じて文章を書くスキルを磨き、アイデアを共有し、フィードバックを受けるためのワークショップです。イギリスのウスター大学の学生が主催するクリエイティブな芸術フェスティバル「Speaks Volume Festival」のFreddie Barker氏、そしてAccessAbilityのDK氏主催のワークショップに参加しましたが、ここで障がいのある人に関する描かれ方について、活発な議論が交わされました。参加者はいずれも何らかの障がいのあるクリエイターたちで、以前と比べ状況は良くなってきたとしながらも、多くの人はまだまだ改善の余地が大きいと感じていました。特に不満の声が強かったのは、物語の描かれ方と、インターセクショナリティ(交差性)の欠如でした。インターセクショナリティとは、「特定の社会的カテゴリーが単独で人々に影響するのではなく、複数のカテゴリーが絡み合って影響を与える」という考えです。例えば、黒人女性は「黒人」としての人種差別と「女性」としての性差別の両方を経験する可能性があるということです。このような場合、単に人種差別や性差別だけでは説明できない、複雑で交差性のある差別が存在するということになるのです。

障がい者の存在を自然として描く視点

テレビなどの物語では大抵、障がいのある人は同情される存在として描かれ、障がいが無い主人公に救われるストーリー展開がよくあります。障がいのある人物を登場させ、物語の展開にドラマ性を加える効果を狙うわけです。しかし筆者自身が抱える「自律神経失調症」や「POTS(体位性頻脈症候群)」などは、メディアで取り上げられることがほとんどありません。POTSの主な症状として目まいがありますが、その予防として水を沢山飲んだり、塩分を摂取するなどの対策を取ります。でも、そのような描写をテレビで見て視聴者は面白いと感じるでしょうか。「なぜ障害のある登場人物が単に番組の中に存在しているだけではいけないのか?なぜ障がいがあるキャラクターがすべてエンターテインメントの一部として描かれる必要があるのか?」これはワークショップでFreddie Barker氏が述べた、非常に核心を突く言葉です。

インターセクショナリティの認識が重要な理由

前述の「インターセクショナリティ(交差性)」も、ワークショップでの大きなテーマでした。抑圧や差別の交差性を理解することは、社会の障壁や誤解を少しでも解消するのに重要だからです。インターセクショナリティを最初に提唱したアメリカの法学者、キンバリー・クレンショー氏によると、インターセクショナリティは「複数のマイノリティグループに属する人が、それぞれのグループにおける困難をすべて経験すること」を意味しています。障がいのある有色人種やLGBTQ+の人々は、元々ある障がいに加えて言語の壁や文化的な認識不足といった別の障壁にも直面し事態が複雑化するため、本当に必要なケアを受けにくくなってしまいます。そのため、障がいについての議論ではインターセクショナリティの視点を取り入れることが非常に重要です。これにより、複雑な背景を持つ人々への理解が深まり、必要なサポートと彼らをつなぐことが可能となります。

テレビや映画など、物語の中で障がいをより頻繁に扱い、視聴者がそれに触れる機会が増えてくることで、障がいのある人への社会の見方が大きく変わります。発達障がい研究を扱う国際的な学術誌、「Research in Developmental Disabilities(発達障がい研究)」の調査によりますと、知的障がいや発達障がいのある人と直接触れ合うことで、彼らに対する差別的な考えや態度が大きく改善されるとのことです。しかし障がいのある人を「悪」とする文化やコミュニティーがいまだ存在し、仕事の質が落ちるとの偏見から障がい者雇用を行わない職場も依然としてあります。だからこそ今、テレビなどのメディアで障がいを正しく描き、積極的に取り上げていくことが、これまで以上に必要なのです。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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