ショートムービーで繰り返し使われる流行りの曲や、ライフハック系のポストとともに、中国文化や世界観が最近のSNSでは注目されるようになりました。ネット上では「I’m in a very Chinese time of my life.(今の私は完全に中国モード)」というフレーズが、流行語のように広まりつつあります。この言葉には、中国文化に対する遊び心や好奇心、さらには好意的なニュアンスが感じられます。しかし、異国の文化を楽しみ、称賛する一方で、その国の人々についてほとんど知らないとしたら、それは本当にその文化を理解していると言えるでしょうか。
TikTok禁止で生まれた「中国との出会い」
中国文化に関するSNSでの広がりは、突然生まれたものではありません。2025年初め、アメリカでTikTokが一時的に使用禁止となった際、多くのユーザーが競合アプリであるシャオホンシュー(英語名:RedNote)に流れていきました。シャオホンシューは、中国の若者、特に女性の間で人気の高い、SNSとショッピング機能が一体になったアプリです。写真や動画の投稿と商品レビューが結びついており、3億人以上のユーザーが日常の体験や口コミを共有しています。
このアプリを通じ、多くのアメリカ人が、欧米メディアのフィルターを介さずに中国の日常に直接触れることになりました。アメリカ国内における政治の混乱や生活費の高騰、社会への不信感が広がる中で、中国の暮らしぶりを見て率直な憧れを抱くアメリカ人は少なくありませんでした。
こうした中国文化との出会いは、人々の中に新たな好奇心を呼び起こしました。しかし近年のブームは、中国への純粋な関心や好感というよりも、アメリカ社会への不満の裏返しとして広がっている側面があります。そのため、中国の習慣や文化があるがままの姿で受け入れられるのではなく、SNSの中で人々が思い描いたイメージで消費されていると言えます。結局のところ、それは文化を表面的な「映え」として利用しているに過ぎません。多面的な素顔を持つ中国という国を、ただの「お洒落な切り抜き写真のコラージュ」のように薄っぺらな存在に仕立て上げているのです。
ファッションや食に広がる見た目だけの文化消費
中国の長い歴史の中で受け継がれてきた伝統衣装「唐装(タンズォン)」は、近年アディダスやRohéといったファッションブランドがその特徴的なデザインを取り入れたことで人気が高まりました。しかし、その文化的背景が十分に説明されることは少なく、欧米では「マンダリンジャケット(中国風の立ち襟ジャケット)」という一つの括りにまとめられてしまいます。
同様の現象は、食文化の分野でも見られます。たとえばTikTokクリエイターのコートニー・クックが投稿した動画をきっかけに、「卵の醤油漬け」がSNSで話題となりました。彼女自身は料理の文化的背景にも触れていましたが、フォロワーの中にはそれを彼女のオリジナルレシピと勘違いし、エキゾチックな料理だと「いいね」する人も少なくありませんでした。
このような構図は、さまざまな場面で繰り返し見られます。カルチャーの一部のイメージだけが切り取られ、その中で暮らす人々の存在にはほとんど触れられることがない状態です。もちろん、異なる文化を紹介したり取り入れること自体が問題なのではありません。問題なのは、その文化を借用した側にだけ光が当たり、ルーツとなる文化や人々の存在はフォーカスされず、消されてしまうことです。何世紀にもわたって築かれてきた伝統や歴史が、トレンドとして消費され、やがて忘れられていく。そうした現実が繰り返されています。
文化は受け入れられ、人は拒絶される
皮肉にも、現実はSNSのトレンドとは裏腹です。欧米で暮らすアジアにルーツを持つ人々は、いまも偏見に満ちたステレオタイプと向き合いながら生活しています。学校では、アジア系の子どもたちが、弁当の中身をからかわれる「ランチボックス・シェイミング(Lunchbox Shaming)」を経験することは珍しくありません。ところが、その同じ食べ物が、アジア系ではないクリエイターによってSNSで紹介されると、途端におしゃれなライフスタイルの象徴のように扱われます。
2020年から2021年にかけて、アメリカではアジア系住民へのヘイトクライムが激増し、それまでの3倍を上回る数に達しました。これは「新型コロナウイルスはアジア人の野蛮な食文化に由来する」という誤った認識が広まったことも一因とされています
アジア料理の人気が高まる現在も、米移民税関執行局(ICE)の厳しい取り締まりにより、アジア系移民は依然として不安定な立場に置かれています。さらに、アメリカ国内の多くのチャイナタウンは、街の再開発によって住民が追い出される「ジェントリフィケーション」のあおりを受け、コミュニティが消えつつあります。中国文化がSNSで流行しても、アジア人が直面する現実は変わらないということです。

アジア系へのヘイトクライムの数
Credit: Development Services Group, CC-BY-ND, via The Conversation
文化をつまみ食いする「流行に敏感」な人々
「多数派の人々は、弱い立場にある文化の一部を取り入れることで、自分は多様な価値観を受け入れる素晴らしい人間だと勘違いする。しかし、そこに本当の変化が生まれるわけではない。」これは、フェミニズム研究者で作家のベル・フックスが、エッセイの中で語った言葉です。たとえ身近に中国人の友人がいなくても、至るところに存在する反中国の風潮を変えようと行動していなくても、中国について何も知らない人が簡単に「いま、中国がキテる!」などと語れてしまう世の中なのです。
日本のアニメや韓国のK-Popのように、その文化の中でも「消費しやすい」部分だけに焦点が当たると、その国の現実やそこで暮らす人々の姿には目を向けなくなり、実態とはかけ離れた理想的な国のイメージだけが広がってしまいます。
しかし当事者である中国の人々にとって、SNSで取り上げられている数々のものは、簡単に消え去っていく「一時のブーム」ではありません。ファッションや料理、慣習など、人々の日々の営みと人生そのものであり、受け継がれてきた伝統です。大切なのは、中国文化の一部分への称賛をやめることではなく、その背後にいる人々と、彼らが直面している現実にも同時に目を向けることです。そうすることで、中国の人々が自分たちの存在や文化を正当化し続けなくても、あるがままに受け入れられる社会に近づくことができるのです。

ゲストライター Z. Dangによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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