私たちラーニングサイクルは、多様性の意義について理解を広め、性別、人種、性的指向などにかかわらず、誰もが尊重される社会を目指す人たちと共に、より良い社会の実現に向けて歩みを進めています。この取り組みの中心にあるのが、「DEI」。この言葉は今や世界中で注目を集め、ときに賛否の分かれるトピックでもあります。DEIとは、「Diversity(多様性)」、「Equity(公平性)」、「Inclusion(包括性)」の頭文字を取った言葉で、この3つを柱とする概念です。
DEIの3つの要素と相互関係
まず最初の頭文字「D」は、ダイバーシティ(多様性)を表します。これは外見だけでなく、価値観や考え方といった内面も含めて、人や集団の中にあるさまざまな違いを指します。そもそも私たちは皆、それぞれ異なる背景や特性を持つ存在です。人種や民族、年齢、障がいの有無、心や体の特徴など、違いのかたちはさまざまです。2番目の「E」は、エクイティ(公平性)。すべての人に同じ対応をするのではなく、一人ひとりのニーズに合わせて適切に対応するという考え方です。その結果として個々が受ける支援はそれぞれ異なりますが、最終的には誰もが安心して快適に過ごせることを目指しています。その際、「平等」と「公平」との違いには注意が必要です。例えば、全従業員に同じ標準サイズのデスクを支給するのが「平等」な対応。これに対し、高身長の従業員や車椅子利用者など、一人ひとりの状況に合わせて別サイズのデスクを支給することが「公平」な対応で、私たちが目指すのはこの後者です。そして最後の「I」は、インクルージョン(包括性)です。すべての人が歓迎され、尊重されていると感じられる環境および状態です。誰もが安心して自分らしく活躍できる場を意味します。

上述の3つの要素は、それぞれが機能し、お互いに作用して初めて意味を成します。多様性があっても包括性が伴わなければ、それは単に個人の違いが存在するだけにすぎません。DEI推進の一環として、最近では外国人採用も増え、多様性が実現されているかのように見える日本企業もあります。しかし実際には、会議や社内文書は全て日本語のまま。異なる文化や視点からの意見を受け入れる雰囲気もなく、外国人社員と日本人社員の間には壁ができ、結局彼らの能力を活かしきれていないというケースも多数あります。これは多様性があっても包括性が存在しない典型的な例です。
また、包括性があっても公平性がなければ、形だけのものとなり、本当の意味で全員が受け入れられたとは言えません。たとえば、育休から復帰し時短で働く女性のケース。企業側は時短や在宅勤務などを整備し、育児中の女性も働きやすい風土が整ったと考えます。ところが別の角度から見ると、このような女性社員には大きなプロジェクトへの参加や昇進の機会が回ってこないという話は良くあります。これは、包括性はあっても公平性に欠ける例です。
さらに、公平性があっても多様性がなければ、現状維持に留まり新たな変化は生まれません。社内にどんなに公平な給与システムや昇格制度が存在していても、人事が似たような学歴や職歴の人ばかりを採用してしまっては、イノベーションが起きる可能性は期待できません。このように、DEIの3本柱は、どれが欠けても十分に機能を果たせません。職場で真の包括性を実現するためには、まず多様な人々がそこに存在し、それぞれが公平に扱われることが前提条件となるのです。
企業におけるDEIの実情
ところが実際には、すべての企業がDEIの理念を真に理解し、実践しているわけではありません。2024年、Googleは、聴覚に障がいのある黒人社員から、差別的な待遇を受けたとして訴訟を起こされました。彼女(Jalon Hall)は多様性推進の象徴として社外向けのPRにたびたび登場しましたが、入社後は手話通訳などのサポートが提供されず、会議や日常業務の遂行が困難な状況に置かれていたといいます。さらに、周囲の社員が昇進していく中、彼女にはその機会が与えられず、公平な評価や処遇もなされていなかったと主張しています。このように、推進や改革を掲げながらも、実際には効果的な行動を起こせていない企業も存在します。また、DEI推進による変化がうまく見られないと、問題をマイノリティに転嫁したり、DEI自体の難しさを指摘し始めるケースもあります。しかし、問題の本質はマイノリティの存在自体ではなく、多様な人々が活躍できる場所を社会が十分に用意できていない点にあることを、私たちは忘れてはいけません。
近年、特にアメリカでは、トランプ政権下で強まった白人至上主義的な風潮に同調する企業が増加しています。政治的圧力に影響されたケースもあれば、そもそもDEIの意義を十分に理解していなかった企業もあり、DEI推進から後退する動きが見られています。しかし、こうした流れに対しては、消費者や株主の間で強い反発の声も上がっています。たとえば、アメリカの大手小売企業Targetは、かつてLGBTQ+支援を掲げ、支援商品を大々的に展開していました。ところが一部保守派からの反発を受け、商品の撤去などの対応を行ったことから、「利益のためにLGBTQ+を表面的に利用しただけ」とのピンクウォッシング疑惑が浮上。その結果、消費者による不買運動が起こり、株主からの厳しい批判にさらされました。
本来、DEIはマイノリティが特別扱いを求めるものではなく、すべての人にとってより良い未来を築くための考え方です。実際、経営陣が多様なメンバーで構成されている企業とそうでない企業では、業績に明確な違いが表れます。たとえば前者の企業は、同業他社より25%も高い確率で平均利益率を上回っているというデータがあり、さらに収支目標を上回る確率も後者の約2倍にのぼると報告されています。また、DEIを重視する企業には優秀な人材が集まりやすい傾向があります。ミレニアル世代(1980年代から90年代半ば生まれ)と、Z世代(90年代後半から2010年代前半生まれ)が社会で存在感を増すにつれて、この傾向はさらに強まると考えられます。ミレニアル世代とZ世代の69%が「多様性のある職場なら5年以上勤めたい」と答え、すべての世代で76%の人が「多様性は就職先選びに欠かせない大切な要素」と回答しています。つまり、企業がDEIの視点を持つことは、多様で優秀な人材を惹きつけると同時に、創造性や戦略的ビジョンを高め、組織をより強くする原動力となるのです。

多様(性別、人種)な経営陣をもつ企業は業界平均より業績が上回る
Credit: McKinsey & Company
真のインクルージョンを目指して共に歩き出そう
このような組織をつくるためには、私たち一人ひとりが「アライ=支援者」として行動することが求められます。多くの職場では、制度や慣習自体がマイノリティにとって不利な構造となっており、彼らだけの力で仕組みを変えるのは非常に困難です。だからこそ、マジョリティ側にいる人たちが、マイノリティの視点に立ち、声を上げ、行動することが必要なのです。立場や業種の壁を越えて協力し合うことで、誰もが活躍できる職場づくりが進んでいきます。世界中の多様な仲間と手を取り合えば、必ずや社会に大きな変化をもたらせるはずです。より良い未来に向けて、一緒に歩みを進めましょう。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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