アメリカでのDEIを取り巻く状況は今、大きな転換期を迎えています。DEIの取り組みを撤回する企業は着実に増え続けており、第2次トランプ政権発足時には、DEI推進を撤回する大統領令「Ending Radical and Wasteful Government DEI Programs and Preferencing(過度で無意味な政府のDEIプログラムと優遇措置の廃止)」が発令され、連邦政府内のすべてのDEI推進施策が打ち切られました。この影響もあり、一部の企業では、差別や不平等な扱いを受けてきた人種的マイノリティや女性などを対象に優遇措置を与える「アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)」の撤廃や、DEIを取り巻く社会環境の変化を理由に、DEIの推進を撤回するところも出ています。たとえ大統領令に従わず、企業がDEIプログラムを継続したとしても、直接的な罰則が科される可能性はほとんどありません。それでも、Meta、Amazon、McDonald’sなどそうそうたる大企業が、DEIプログラムの撤廃を次々と決定しているのが現実です。
不買運動で広がる消費者からの意思表示
こうした一連の動きに対し、アメリカの消費者や活動家たちは、不買運動やその一形態である「Economic Blackout(経済ブラックアウト)」を呼びかける動きを強めています。これは、特定の目的や抗議のために、個人や団体が一定期間、ある企業や業界での消費活動を意図的に停止する行動を指します。その最初の標的となったのが、かつてはDEIに積極的な取り組みを見せていたアメリカの小売大手「Target」です。同社はこれまで、黒人ビジネスの支援や、毎年開催される「LGBTQ+プライドコレクション」で多くのLGBTQ+関連商品を展開するなど、DEIに積極的に取り組んできました。しかし現在、同社の方針転換に対し、アメリカの黒人コミュニティを中心に不買運動が強く呼びかけられています。そのうちの一つ、ラスベガスで不買運動を主導するヤスミン・サラス氏は、「Targetの方針転換は、マイノリティやLGBTQ+コミュニティに対する許しがたい裏切りである」と述べています。
また、ジャマール・ブライアント牧師を発起人とする「Targetに対する不買署名運動」も急速に拡大しており、5万人以上が彼の「40日間のレント(Lent)」に賛同しています。一般的に「レント」とは、キリスト教において復活祭の準備期間として設けられた40日間を指し、そこで人々は罪を省み、節制し、中には断食を行う人もいます。従ってこの「40日間のレント」とは、Targetへの不買運動と社会への問題提起を意味しています。この中でブライアント牧師は、Target株の売却の呼びかけも併せて行っています。
連邦政府のDEIプログラム廃止、不法移民の国外追放といったトランプ大統領の発言後、消費者の間では、政権への寄付や支持を表明したいわゆる「政府寄り」の企業の商品の購入やサービスの利用を控える動きが広がっています。こうした中、アメリカの労働活動家ドロレス・ウエルタ氏は、「Latino Freeze(ラティーノ・フリーズ)運動」を立ち上げました。この運動では、「ラティーノ(中南米系)コミュニティを軽視する企業からは購入すべきではない」とし、DEIを縮小する企業からは物を買わないこと、中南米系や黒人系の企業を優先して利用することを呼びかけています。

Credit: Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
組織的な消費者行動で強い抗議をアピール
こうした動きは、個人の活動だけにとどまりません。アメリカの活動団体「The People’s Union」は消費者の購買行動の威力を重視し、「Economic Blackout」を2月28日に行うことを発表しました。上述の通り、これは企業に対する不買運動の1つの形態で、今回は大手チェーンのガソリンスタンド、ファストフード店での購入を24時間完全に控えるよう呼びかけるものです。こういった全国チェーンの店舗は日常的に多くの人が利用するため、消費を一時的に止めることで経済的損失を生み出し、企業側に方針の見直しを迫る狙いがあります。従って、やむを得ない場合に限り、個人商店を利用するか、必要最低限の購入にとどめることが求められます。同団体は、「たった1日でも経済に混乱を引き起こすことができれば、それが大企業や社会への強いメッセージとなる」と語っています。
冷静に判断し行動する現代の消費者たち
上述の「The People’s Union」が訴えるように、私たち消費者は購買を通じて、自らの意思や考えを企業や社会に伝えていくことが必要です。大企業に対する消費者からの信頼が低下傾向にあったところへ、政府からのわずかな圧力で方針を転換する様子を目の当たりにし、その信頼がさらに揺らぐ結果となりました。この現状に、マイノリティのコミュニティからは「大企業に裏切られた」という声も聞かれます。企業の大小を問わず、社会問題への考え方や取り組みを貫く姿勢が見えなければ、消費者はすぐに離れてしまうことは想像に難くありません。社会問題を自社のマーケティング戦略として利用するような企業に対しては、マイノリティの消費者たちはそれを見抜き、躊躇なく新しい購入先にシフトしていくでしょう。実はもう、その動きは始まっています。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

Learning Cycleでは、DE&Iの理解を更に深めることができる様々なプログラムをご提供しています。DE&I、そして私たちLearning Cycleについてもっと知りたい方は、是非こちらをご覧ください。










