民主主義における「代表性」とは、本来、社会の多様な人々の声や立場が政治の場にも反映されている状態を指します。議会において女性やマイノリティが占める割合などは、その代表性を示す一つの指標となり、制度や法律、または憲法によって保障されていることもあります。しかし、頭数としてその場に存在していても、実際に意思決定に関わる力が伴うとは限りません。この「数字上の存在」と「実質的な力を持つこと」のズレこそが、トークニズム(Tokenism)の核心です。
トークニズムとは、議会や職場、報道機関、学校など、さまざまな場所で見られる現象です。社会的に弱い立場の人々が、「多様性への取り組みの象徴」として取り上げられる一方で、実質的な影響力や権限、意思決定の力が与えられない状況です。見せかけの多様性では、参加しているように見えても力の偏りは変わらず、既にある上下関係や不均衡な権力構造は変わらないままです。
クオータ制による女性議席確保の暫定措置
多くの国で導入されている「クオータ制」とは、特定の属性の人に一定の枠を割り当てる制度で、中には女性管理職というポジション枠に適用している企業もあります。アフリカ南部に位置するジンバブエの国民議会では、280議席のうち60議席が女性のために確保されています。これは、ジェンダーの不均衡を是正するための暫定措置として2013年に導入されたもので、当初は女性が主流政治の中で男性と対等な立場を得られるようになれば、段階的に廃止される想定でした。
しかし、クオータ制があるにもかかわらず、議会における女性議員は現在84議席(全体の30.1%)にとどまっています。結局のところ、女性が統治や政策決定に実質的に参加できる状況にはつながっておらず、そのためこの制度は2033年まで延長されることになりました。女性の政治参加という前向きな目的で始まった制度のはずが、実際には「女性の参加は平等な権利ではなく、特別措置によって与えられるもの」という位置づけとなり、政治はやはり男性中心であるという価値観や慣習をむしろ補強してしまう結果となっています。

ジンバブエ国民議会における女性議員比率
Data: The World Bank via The Global Economy
知名度はあっても実権には遠い現状
トークニズムという状態の難しさを示す一例として、ファザイ・マヘレのケースが挙げられます。彼女は、ジンバブエで若者や女性の政治参加を訴えてきた弁護士、そして政治活動家であり、国会議員も務めた人物です。世論やメディアにおいて高い認知度と影響力を持つ一方で、政治権力が行使される場にはあまり関われていません。立法プロセスや議会への実質的な関与、重要な政策決定を担う委員会などには依然として高い壁があり、そうした場には中々携われない状況にあります。
同時に、彼女は長期にわたり、執拗なオンラインハラスメントを受けています。未婚であることや子どもがいないこと、若い女性であることなど、極めて個人的な側面を標的に、彼女の政治的発言の正当性と地位を失墜させようとする画策が続いています。
見せかけのインクルージョンの限界
マヘレを取り巻くこのような状況は、決して特別なケースではありません。制度や組織が数字上の表面的な多様性ばかりを優先し、力の偏りを見直さないままであれば、DEIはただの象徴と化し実際の変化にはつながりません。単にその場に存在するだけでは、何も生まれない、何も変わらないのです。従来の壁を本気で取り払い、マイノリティの人々の実質的な参加を促し、力を発揮できるようにするには、権力のあり方そのものを見直していく必要があります。
ジンバブエでは、大手企業における取締役会や経営層に占める女性の割合は依然として低く、構造的な権力格差は依然として根強く残っています。しかし、そんな中でも、女性リーダーが実力を発揮している事例は存在します。たとえば、女性の経済的自立を支援する金融機関、Zimbabwe Women Microfinance Bankでは、現在女性が経営トップとして組織を率いています。また、アパレル大手のEdgarsでも、過去には女性が組織の代表を担っていました。
形だけの多様性を超えて
トークニズムは、見せかけだけの多様性の「演出」にすぎず、公平な社会の実現にはつながりません。これまで排除されてきた人々が、意思決定に関わる力を持てない限り、インクルージョンはこれからも形だけのものになってしまいます。
構造的な変革は、政策だけで実現できるものではありません。トークニズムに向き合うには、特定の集団を優位に置き続けてきた価値観や慣習そのものを問い直す、意識の転換が必須です。クオータ制は閉ざされていた扉を開くきっかけにはなり得ますが、その鍵を誰が握っているのかまでは変えることができません。だからこそ、既に権力を持つ側に、変革の責任があるのです。
政治や職場など社会のあらゆる場面で、多数派の人々がアライ(支援者)として、これまで軽視されてきた人々の声を拾い上げ、その声が力となる仕組みを作ることが求められています。私たち一人ひとりにできる行動から、変化は始まります。

Credit: Mangwanani, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ゲストライターによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

私たちLearning Cycleは、まだDEIについてよくわからない方、具体的な推進方法を知りたい方など、どなたでも大歓迎です!私たちは、様々な知識やご経験に対応したDEIプログラムをご用意しております。ワークショップの詳細はこちらでご確認ください。







