昭和的価値観からの脱却|男性アライが拓くケア労働の公平性

近年の高額な医療費と脆弱な社会的セーフティネットにより、多くの家庭にとって、必要な介護サービスがますます手の届きにくいものになっています。家族の一人をケアする費用が、その家族の平均年収を上回ることも珍しくありません。そのため、家族のケアの多くは、未だに女性たちが担っているのが現実です。国連のデータによれば、成人女性は男性の2倍以上の時間を無償のケア労働に費やしています。2021年には、アメリカ国内におけるこのケア労働の経済的価値は、約6,000億ドルにのぼりました

私たちの持つ相互責任

パートナーの一方が介護を必要とする場合、もう一方が仕事や家事、ケア労働の責任をすべて同時に負うことになります。このような場合、従来から続いてきたケア労働における性別格差が、深刻な影響を及ぼす可能性があります。

2025年、欧州で50歳以上の夫婦の離婚率についての調査が行われましたが、夫婦共に健康な場合と、夫が健康上の問題や歩行、移動に支障がある場合とで、離婚率に大きな差は見られませんでした。しかし、逆に妻が健康問題を抱えたケースにおいては、夫婦の離婚率が高まることが明らかになりました。

男女の1日あたりの労働時間を示すグラフ。女性が無償労働により多くの時間を費やしている。

男女の1日あたりの有償・無償の労働時間
Credit: OECD, CC BY-ND 3.0, via Statista

出生率が低下し、社会が高齢化する中で、互いに支え合うことはますます大きな責任となっています。愛する人が支援を必要とするとき、行動できる男性アライの存在が、これまで以上に重要になるのです。

家族の危機と向き合った男性アライ

株式会社ダイオーズジャパン勤務の浜西貴之さんも、そうした男性アライの一人です。十数年前、当時JT(日本たばこ産業株式会社)に勤務していた彼は、妻が命に関わる病と診断され、長期入院を繰り返しました。浜西さんは医療費をまかなうため仕事を続けながら、突然、家事や2人の子どもの世話といった家庭内の負担をすべて担うことになったのです。「その時、私の考え方はガラッと変わりました」 と、彼は当時を振り返ります。

浜西さんは、自身が持つ「昭和的」な考え方が、冷徹で時代遅れなジェンダーロールや期待を誰かに押し付けていたのではないか、と語ります。約20年前、当時男性では珍しかった育児休暇を取得した経験はあったものの、それ以外は典型的な「昭和的な仕事人間」として働き、妻は専業主婦でした。それが故に、ひとたび妻が病に倒れると、それまでの働き方や生活スタイルを続けることは非常に困難となりました。

オフィスでインタビューを受ける浜西さん

浜西貴之氏:家族介護と仕事の両立を経験

両親からの一定の援助や、仕事における業務量の調整はあったものの、配偶者や父親としての役割を支える公的なサポート体制はほとんどありませんでした。長年にわたり、彼は自由な時間のすべてを家事や家族の世話、そして入院中の妻に付き添うことに費やすこととなりました。ケアを担うことによる心身の負担は大きく、その両方に向き合うのは容易ではありませんでした。

当時の勤務先であったJTは、従業員のワークライフバランスや女性の活躍推進を中心とした「仕事と家庭の両立」の推進に力を入れていました。そうした中、彼の状況が会社に伝えられると、業務量の軽減措置が取られることになりました。会社が、家族の介護を抱える自分には重要な仕事を任せられないと考えているかのように感じ、自身の意見が考慮されないままその決定を受け入れざるを得ないことに、彼は葛藤を抱いていました。会社の善意による配慮は、結果として裏目に出ることとなってしまいました。

家庭内の公平は皆の貢献によって生まれる

浜西さんはこの経験を通じて、家事をはじめとするケア労働が「終わることのない負担」であることを実感し、かつて妻も同じような重圧を感じていたのではないかと考えるようになりました。妻が亡くなり、その後再婚した際も、この公平性の意識を大切にしています。「正直なところ、再婚相手には専業主婦でいてほしいという気持ちが少しありました。でも、数々の経験を経て、また昭和の男に戻りたいと思っている自分にがっかりしました。彼女のキャリアの妨げになってはいけないと理解したのです。」

彼は、ケア労働を夫婦間で公平に分担し、妻のキャリアを支える対等なパートナーとなることを選びました。その姿勢と家族への献身が、今では成人した子どもたちにとって健全でバランスの取れたパートナーシップのモデルとなり、彼らの人間関係の構築にも影響したら嬉しいと彼は言います。

家族のために多くの時間を費やしたことで、キャリアアップの機会を逃したのではないかという見方もありますが、浜西さんはそうした意見を気にしていません。むしろ、「どう思われても構いません。家族を犠牲にしてまで成功したいとは思いませんから」と語っています。家族より仕事を優先するという「昭和的」な価値観は、もはや現代社会にふさわしくありません。今は、浜西さんのような男性アライの存在こそが、社会により大きな公平性をもたらすのです。

男性アライが支えるケアと社会の未来

男性は、良きパートナー、家族、そして地域社会の一員として、周囲の状況を見ながら、自分がケア労働にどのように貢献できるかを考えて行動すべきです。元より男性は、コミュニティにおいて重要な役割を担い、多くの人々に前向きな変化をもたらす力を持つ存在です。

職場においても、男性アライとして、インクルーシブな環境づくりに大きく貢献することができます。長年の慣習を見直し、浜西さんのように家族が困難を抱えている人々を支える仕組みづくりを行うことも、重要な役割です。

仕事と家庭の両立を可能にすることは、個人にとってだけでなく、組織にとっても重要です。ケアのために時間を使う人は怠けているのではありません。社会にとって欠かせない、重要な役割を担っているのです。

テーブルで待っている高齢男性のために、別の男性が料理のため野菜を刻んでいる

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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