2025年2月、ナイジェリアのナターシャ・アクポティ=ウドゥアガン上院議員が、ゴッドスウィル・アクパビオ上院議長による性的嫌がらせを告発しました。この告発をきっかけに、ナイジェリア社会では、職場で起きている巧妙で目立たないハラスメントについて改めて大きな議論が巻き起こっています。実際、今回のケースは、こうした問題が社会に広く蔓延していることを如実に示しています。ハラスメントは大きな事件として一度に起こるのではなく、長い時間の中で何度も繰り返され、そのたびに被害者の尊厳を少しずつ削いでいくものなのです。
告発に対する不当な処罰
弁護士であり社会活動家でもあるアクポティ=ウドゥアガン上院議員は、法案審議での支援と引き換えに、アクパビオ上院議長から個人的な便宜を求める発言や誘いを受けたと主張しました。しかし、上院側はこの告発に真摯に対応せず、問題を議会ルールの話に矮小化したうえで、彼女に6か月の出席停止処分を科したのです。このような対応は、ナイジェリアの多くの企業や組織でも見られるパターンでもあります。つまり、女性は男性よりも軽い違反に対して厳しく処分されやすく、不正を正すよりも権力を守ることに重きを置く文化が、いまだ根強く残っていることを浮き彫りにしています。

アクポティ=ウドゥアガン上院議員
Credit: Henty Orji, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
小さな痛みの積み重ねが与える大きな影響
職場でのハラスメントは、失礼な言動や過度に馴れ馴れしい態度といった小さな出来事が繰り返されることによって、個人の安全や尊厳が脅かされ、仕事のパフォーマンスにも徐々に影響が出てくるものです。これは、セクハラに限った話ではありません。名前や話し方の特徴に対する人種差別的な発言、LGBTを揶揄する冗談、障がいによる話し方や動作をからかうコメントなども該当します。一つひとつは些細なことに見えても、繰り返されることでそれが偶然ではなく、意図的な嫌がらせだということが明確に感じられるようになっていきます。そしてちょっとした出来事が引き金となり、耐え続けた被害者の心が一気に折れてしまうこともあります。小さな差別の繰り返し、いわゆるマイクロアグレッションは、被害者に精神的負担や孤立感を長期にわたって与えます。被害者はそれが原因で安定して働けなくなり、昇進の機会を逃すといった深刻な影響をもたらします。研究でも、こうした状況が長引くほどストレスは高まり、集中力の低下や業務効率の悪化を招き、結果として組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすことが示されています。だからこそ、インクルーシブな職場では、「些細なこと」として軽んじて片づけず、現実のリスクとして慎重に扱うことが求められるのです。
無視では解決しない職場ハラスメント
「ハラスメントなんて気にせず、無視すれば良いのでは」という意見もありますが、それでは問題は解決しません。この方法では、インクルーシブな職場づくりにつながることは無く、むしろ職場に根付く排除の文化を固定化させてしまいます。
被害者に「気にするな」と助言することは、問題解決の負担を被害者側に押し付ける行為であり、インクルーシブな職場づくりが必須ではなく、選択肢の一つに過ぎないような誤ったメッセージにもなりかねません。真に効果的な対応とは、職場に潜むマイクロアグレッションや偏見を早期に察知し、問題視すること。被害を受けた人が安心して相談や通報ができる仕組みを整え、彼らの立場を損なうことなく状況を是正することです。こうして初めて、組織は言葉だけでなく、実質的なインクルージョンを実現する段階へと進むことができます。
今回のアクポティ=ウドゥアガン氏のケースの背景には、公務と家庭、そして法律家としての仕事に強い責任感を持って奮闘する、一人の人間の姿が見えてきます。彼女の経験は特別なものではなく、外からは気づきにくい小さな嫌がらせの積み重ねが、深刻な精神的ダメージやキャリアへの影響につながることを改めて示しています。インクルーシブな社会の実現にはスローガンだけでは不十分で、これまでの過去の被害を正しく認識し、弱い立場の人々を守るための実効性のある仕組みを整えることが必要です。組織のリーダーが自らの責任を果たし、アライとしての姿勢を日々示していくことは、根深い排除の文化を抑え、職場の安全を守る重要な鍵となります。こうした取り組みを続けることこそが、職場や社会全体のインクルージョンを高める確かな一歩となるのです。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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