夜道の警戒は女性の日常|男性が知らない安全意識の違い

仕事終わりの駅からの帰り道。いつもよりは少し遅く、辺りはすっかり暗くなったが、深夜と呼ぶにはまだ早い時間。ただ、気のせいか、人通りもまばらになってきた。

こんな何気ない日常の場面で、女性たちは常に身の安全を考えています。そして、多くの女性は、自分自身だけでなく、母や姉妹、娘、あるいは友人といった、身近な女性たちの安全につうても、一日に何度も頭をよぎるといいます。もちろん、安全への意識は男性にもありますが、その意味合いや意識する頻度は、女性とは大きく異なります。

男性と女性とでは、身の危険に関する意識の強さが根本的に違い、研究者たちはこの状況を「安全意識のジェンダー格差」と呼んでいます。多くの女性は日常生活において、危険への備えや、どうしたら少しでも安全な状況にいられるかという判断を無意識に行っています。女性たちのこのような心構えは、個人の性格や習慣に起因するものではありません。世界各地で蔓延する、ジェンダーに基づく暴力への至極当然な対応なのです。

女性が常に意識するリスク

実際、女性として生活すること自体が、リスクを伴います。女性に対する暴力は、文化を問わず、その国の経済状態の良し悪しなどとは無関係に、今も世界中の国々で起こっています。このため、女性たちは日常的に、危険を未然に防ぐための行動を取らざるを得ません。灯りの少ない場所は極力避ける、友人とリアルタイムで位置情報を共有する、初対面の人に会う時には事前に誰かに知らせておく。SNSやメッセージアプリで、「帰ったら連絡して」という言葉が当たり前のように使われるようになったのは、それだけ多くの女性が、日常の中に潜む危険を肌で感じているということです。 そして、これらはすべて、身を守るための必然的な行動です。

こうした日常の習慣は、生活の質と安全に関するグローバル調査の結果とも一致しており、「夜道をひとりで歩くことに不安を感じる」と答える割合は、男性よりも女性のほうが圧倒的に高いことが示されています。男性がこのような危険性に関してそこまで意識せず過ごしているのとは対照的に、女性は安全確保のために様々な段取りを考えることが、日常の一部となっています。

各国の女性の安全度(セーフティ・レーティング)を示した世界地図

各国における女性の安全度(セーフティ・レーティング):色が濃くなるほど危険度が高井
Credit: Georgetown Institute for Women, CC-BY-ND, via Statista


終わりのない緊張が女性の心身を蝕む 

この絶え間ない警戒心は、心身を疲弊させます。幼い頃から、恐怖心や不安、常に張り詰めた緊張感とともに女性たちは育ち、いつしか当たり前に抱えて生きています。他人には可視化されないストレスは、心の負担として静かに積み重なっていきます。こうした状況の連続が、やがて女性たちの自信を失わせ、行動の自由や社会との関わり方そのものを狭めていきます。やりたいことがあっても、行きたい場所があっても、安全への不安がその気持ちを奪い、結局は家にいることを選んでしまう。社会の中で自由に活動することを、女性たちは安全のために諦めざるを得ないのです。  

しかし残念ながら、女性は家の中でも安全ではありません。世界中で約3人に1人の女性が、生涯のうちに何らかの身体的または性的暴力を経験しています。その中でもパートナーからの暴力が最も多く、深刻なケースのほとんどが、公共の場ではなく、家というプライベートな空間で起きています。それは時として、パートナーによるフェミサイド(女性であることを理由とした殺害)という、最も取り返しのつかない結末に発展することもあります。 悲しいことに、被害者たちの多くは、見知らぬ他人ではなく身近な人に、しばしば自分の家の中で、命を奪われています。

UNウィメン(国連女性機関)と国連薬物犯罪事務所による共同報告書によると、2022年の1年間で約8万9,000人の女性や女児が殺害されており、そのうち60%がパートナーや家族による犯行でした。 これらのデータから見えてくるのは、蔓延する家庭内暴力やジェンダー不平等の実態、そして法的な保護システムの不備といった構造的な問題の存在です。ジェンダーに基づく暴力は、今も根強く続いている、社会全体の安全と人権にかかわる課題なのです。 

弱者を守ることは、社会を守ること

男女間の安全格差は、社会の深いところにまで潜む「ジェンダーギャップ」を映し出していると言えます。しかし、この問題に本腰を入れて取り組む国が少しずつ増えているのも事実です。 スペインでは2004年に「ジェンダーに基づく暴力への包括的保護措置に関する基本法」が制定されました。女性への暴力事件を専門に扱う裁判所の設置 、被害者支援サービス、予防プログラムを組み合わせた、世界でも屈指の充実した国家的枠組みです。カナダでは、「ジェンダーに基づく暴力根絶のための国家行動計画」のもと、暴力から逃れた女性が身を寄せるシェルター 施設や危機対応ホットラインの設置を行い、暴力被害の多い先住民女性へも、文化的背景に配慮したサービスを届けています。

今後こうした取り組みをさらに広げ、 法的保護の強化、実効性のある通報システムや相談窓口の整備を行うことが重要です。加えて、性行為における同意の尊重、ハラスメントを軽視しない社会風土の醸成、そして家庭内暴力を社会全体の問題として捉え直す意識の変革も、欠かすことはできません。 

女性が身の危険を案じることなく、安心して自由に生活できる社会の実現は、決して理想論ではありません。 その実現に向けて確かな一歩を踏み出した国や地域は存在します。政府と地域社会が本気で動くとき、世界は必ず変わります。 

「ジェンダーに基づく暴力に反対する16日間のアクティビズム」参加中の女性たち

Credit: Chris West, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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