このところ米国において、学習障がい(Learning Disabilities)や知的障がい(Intellectual Disabilities)のある人々に対し、マイクロアグレッション(無意識に繰り返される差別的な言動)をはじめとする、否定的な発言が再燃しています。その顕著な例が、2028年の大統領選への出馬が取り沙汰されているカリフォルニア州ギャビン・ニューサム知事に対するトランプ大統領のコメントです。彼は、文字の読み書きに困難があるディスレクシアを理由に、ニューサム知事は大統領にはふさわしくないと主張しました。そして、学習障がいのある人物は大統領の座につくべきではないという考えを強く示したのです。
トランプ政権はこれまでも、自閉症を「問題」として扱い、その原因をワクチンや環境要因に求めるなど、科学的根拠に乏しい主張を背景に差別的な姿勢を打ち出してきました。さらに保健福祉長官のロバート・F・ケネディ・ジュニアが「自閉症の人々は決して働かず、税金を払わず、野球をすることも、恋愛をすることも、詩を書くことさえできない」と発言し、物議を醸したこともあります。こうした発言や政策は、自閉症を多様性の一つとしてではなく排除の対象として捉えるものであり、当事者の尊厳を損なうものとして批判を受けています。
そして、学習障がいや知的障がいのある人々は普通の日常生活を送れないと決めつけることは、典型的なマイクロアグレッションに当たります。彼らを子ども扱いしたり、赤ちゃん言葉で接したりするような態度は、その能力を実際よりも低く見ていることの表れです。
再び広がりを見せる差別的な言葉
障がいに対する偏見や差別が、政権内部や国のトップである大統領の口から公然と語られる中、人々の間では、いわゆる「Rワード」と呼ばれる「Retard」という侮蔑的な差別言葉が再び使われ始めています。Retardとは、もともと「遅れた」という意味の英語ですが、知的障がいのある人々を知恵遅れといった意味合いで侮辱する言葉として使われるようになりました。その後、2000年代初頭に差別に繋がる言葉への問題意識が高まり、よりインクルーシブな表現を求める社会運動が広がり、使用を控える風潮により現在では差別語とされています。しかし、一度は使われなくなったはずのこの単語が、いま再びインターネット上で広まりつつあるという社会の逆行が、障がいのある人々に新たな痛みをもたらしています。
学習障がいや知的障がいのある人々が多く直面する問題は、障がいそのものに起因するものではなく、私たちが構築してきた社会の仕組み、組織構造が生み出しています。画一的な教育制度や指導方法の中で、彼らは十分な支援を受けられず、周囲から取り残される傾向にあるのです。実際、クラスの5人に1人が学習能力や集中力維持に困難を抱えている一方で、授業に必要な配慮や支援を受けられている子どもは、わずか50人に1人にとどまっています。この背景には、教育現場に十分な知識や研修の機会が不足し、人員などの支援が行き届いていない現状があります。その結果、子どもたちの間で偏見や差別的な言動が生まれやすい環境が作られ、特に予算の限られた学校では、その傾向はより顕著となります。

5人に1人が学習に困難を抱える中、極めて限定的な支援 Credit: The State of Learning Disabilities Today via Learning Disabilities Association of America
ユニバーサルデザインが支える公平な学びと働き方
学校や職場での公平性は、Universal Design for Learning(UDL:学びのユニバーサルデザイン)という考え方によって実現することができます。これは、一律的な教え方や働き方を全員に当てはめるのではなく、多様な学び方や労働環境を提供し、誰もが無理なく参加できる場をつくるというアプローチです。たとえば、識別しやすい色を使った図表を取り入れたり、文字にサンセリフ体のフォントを用いて読みやすくしたりといった工夫によって、障がいのある人々の学びやすさ、理解力を高めることができます。職場では、柔軟な勤務時間や、体への負担が少ない仕事のアサイン、複雑な作業をシンプルにする工夫などが、UDLの具体例として挙げられます。
一方で、こうした環境づくりが十分に意識されていない職場では、学習障がいや知的障がいに対する企業側のネガティブな先入観が、偏見やサポート不足を招き、その結果、彼らの可能性が十分に発揮されないことがあります。また、静かに休めるスペースを設けることも有効で、障がいのある従業員も一般の社員も共に一息つき、日々のストレスから解放される時間を確保することができます。このように、UDLはすべての人にとって働きやすく、学びやすい環境を作り出すものなのです。
環境と機会が可能性を左右する
学習障がいや知的障がいのある人々が本来の力を発揮できないのは、障がいそのものの問題ではなく、単にその機会が与えられてこなかったことにあります。自分の適材適所を見つけることで、成功を収めた例は多数存在します。たとえば、ディスレクシアによって読み書きに苦労しながらも、古生物学の分野で尽力してきたジャック・ホーナーや、ダウン症のある人としてヨーロッパで初めて大学の学位を取得し、俳優としても活躍するパブロ・ピネダなど、それぞれの分野の第一線で活躍する人たちがいます。彼らの姿が示すように、インクルーシブな社会では、障がいのある人々も働き、税金を納め、大統領にだってなり得ます。その可能性を支える社会をつくれるかどうかは、私たち一人ひとりの意識にかかっています。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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