見えない特権に気づく|当事者意識が育てるアライの姿勢

多数派に属する人々にとって、自分が今持っている影響力や、培ってきた地位や権威が失われるかもしれないことなど、簡単には想像できません。確かに、中には容易には揺らがない特権もあります。たとえばアメリカでは、白人に生まれ育った人が社会の中で一定の優位性を持つというのはよくある話ですが、とはいえ今の自分の立場を「当たり前」と思うべきではありません。なぜなら、この世の誰もがある瞬間に突然、少数派となる可能性があるからです。たまたま一時的に「少数派になる」人もいるかもしれませんが、場合によってはそれが一生続くこともあります。

誰もがマイノリティになり得る社会

そうした立場の変化は、誰の身にも起こり得ます。たとえば海外赴任をきっかけに、「職場で唯一の外国人」になるかもしれません。あるいは突然、アメリカの成人の25%を占める「介護を担う側」となる可能性も否定できません。怪我や病気などをきっかけに、一時的または長期的な障がいを抱えることもあるでしょう。そしてその結果、働き続けることが難しくなれば、職を失うことにもなりかねません。アメリカでは医療と雇用が強く結びついているため、職を失うことは医療へのアクセスを失うということも同時に意味しています。

世界には約13億人、つまり6人に1人が何らかの障がいを抱えていると言われています。米国社会保障局(SSA: Social Security Administration)によれば、2024年時点で20歳のアメリカ人男女が定年までの間に障がいを負う確率は23%に上り、そのリスクは高齢になるほど高まっていくとされています。また、コロナ禍以前には既に、アメリカ人のおよそ5%が一時的に障がいのある状態を経験していました。障がいという言葉からは身体的なものを思い浮かべがちですが、近年ではメンタルヘルスによる精神的な不調が長期的な障がいの中で2番目に多く、その割合は今も増え続けています。

年齢が上がるにつれてリスクが高まる、年齢層別の障害者状況を示すグラフ

年齢層別の障がい者率の推移(アメリカ、2024年)
Credit: 2022 American Community Survey via U.S. Census Bureau


少数派になって初めて見えるもの

現代社会の構造は、マジョリティにとっての居心地の良さ、過ごしやすさを前提に作られています。そのため、少数派という立場に置かれない限り、多くの人が自身の生活環境における優位性を自覚することは困難であると言えます。日本の消費財メーカーであるクラシエ株式会社でD&C推進室長(Diversity&CRAZY)を務める七森有貴さんは、彼自身もいくつかの点において少数派の一面を持つことから、「少数派であるとはどういうことか」を常に考え行動している一人です。

クラシエの看板の前に立つ七森有貴D&C推進室室長

七森有貴D&C推進室長

20年以上クラシエで働く彼の同期入社はほどんどが女性でした。キャリアを積む中で、既婚か未婚かによって任される業務に差が生じたり、子どもを持つ女性のキャリアが思うように進まなかったりと、同期の女性メンバーが職場で直面するさまざまな課題や境遇をを間近で見て、強い共感を抱いてきました。

七森さんは過去に重い病気を患い、10年以上にわたる厳しい食事制限を経験しました。罹患前は活動的でスポーツも得意でしたが、病によって体重が大幅に減少し、体を動かすことさえ難しい時期もあったといいます。アルコール摂取も不可能な状況のため、重要なビジネスでの会食だけでなく、プライベートの集まりにも声がかからなくなりました。同じ場で同じものを食べられないことや、お酒を飲めないことを理由に「よそ者」のように扱われ、身体的な負担に加えて精神的にも強い疎外感を抱いたと振り返ります。

経験と気づきが育てたアライの姿勢

こうした経験は、七森さんの価値観を大きく変えるきっかけとなりました。世の中には多様な経験や能力を持った人が存在すること、そしてすべての人が排除されることなく、思いやりと敬意をもって扱われるべきだということを、強く感じるようになったのです。

また、発達の遅れがある息子との生活も、彼にさらなる気づきをもたらしました。「たとえできないことがあったとしても、必ずその人なりの強みがある」と、七森さんは語ります。以来、彼は信頼できる相手には自分自身の気持ちや経験をすすんで共有するようになり、Diversity & Crazy室での仕事を通じ、社内でも私生活でも、周囲に寄り添うアライであろうとしてきました。

周囲とのオープンなコミュニケーションや、インクルージョンを重視する七森さんの姿勢は、同僚や部下から高く評価されています。ある同僚は、「七森さんは常に自己を振り返り、物事を深く考える人。持ち前の好奇心や共感力に加え、ご自身が実際に色々な経験をされたことで、周囲に細やかな気づきと配慮ができるのだと感じています」と話します。こうした当事者意識の強さが、支援を必要とする人に寄り添う姿勢につながり、インクルーシブな環境づくりを後押ししているのです。

「当たり前」を問い直し、よりインクルーシブな社会へ

特権は、それを持つ人にとっては見えにくいものです。だからこそ私たちはしっかりと周囲に目を向け、他者が必要としている配慮や支援に気づく努力が必要です。そうした想像力と配慮が、敬意と支え合いに満ちた、そして何よりもインクルーシブな社会を築くための第一歩となるのです。

自分が少数派の立場に置かれたことのある人は、自分が疎外感を覚えた経験や、それを生み出した社会の「当たり前」を振り返ってみることも大切です。一方で、これまでそうした経験をしてこなかった人は、ぜひ他者の立場に立って「多数派によって作られた社会構造」について考えてみてください。世の中には、周囲と同じような生活を営むことを難しくしてしまう障壁があります。そしてそうした壁は、いつか自分の前にも立ちはだかるかもしれないということを、忘れてはなりません。

会議室で女性と談笑する、スーツ姿の2人の男性

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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