世界には数多くの言語が存在しますが、その中でも先住民の言語は今、深刻な危機に直面しています。国連によると、およそ2週間に1つのペースで、先住民族の言語が消滅しているといいます。最後の話者が亡くなることで自然に消えてしまう場合もありますが、多くはその話者が生存しているにもかかわらず、英語やスペイン語のように、その地域で大多数の人が使う言語への同調を強いられる中で、次第に使われなくなっていくという現実があります。
たとえば、日本の先住民族であるアイヌの人々は、義務教育における同化政策の中で日本語の使用を強いられ、次世代にアイヌ語を継承していくことが困難となりました。自らのアイヌのルーツを隠す家庭も多く、子どもたちにすら伏せておくこともありました。Endangered Languages Project(消滅危機言語保存プロジェクト)の推計によると、現在、アイヌ語を母語として話す人はわずか2人しか残っていないということです。
テクノロジーと先住民言語の未来
こうした状況の中で、世界各地の先住民コミュニティでは、受け継がれてきた伝統を再びよみがえらせ、自らの言語や文化を守るために新たなテクノロジーを活用する動きが広がっています。その一例が、先住民族の言語に特化した小規模言語モデル(SLM)の開発です。これまで、歴史的にも先住民の言語が持つ価値は軽んじられてきたため、オンライン上には音声やテキストのデータがほとんど存在していません。そのため、SLMの開発者たちは、数少ない母語話者やコミュニティの協力を得ながら、独自に言語データベースを構築しています。

世界に約7,000ある言語のうち、約4割が消滅の危機にある
Credit: Monbeeree, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
コミュニティが守るデータ主権
先住民の中でSLMの開発に取り組む人たちは、言語モデルに用いられるデータについて、コミュニティ自身が所有権を持つべきだと考えています。これは政府機関や大企業による無断でのコピーや販売を防ぐことが目的ですが、この背景には、これまで多くの搾取を受けてきた先住民の歴史があります。
実際、北米の先住民言語であるラコタ語の辞書を開発するNPOプロジェクトでは、コミュニティの人々の音声データに、このプロジェクトを主導したNPO側の著作権が付与され、先住民族の家族による教育目的の利用すらできない事態に発展しました。こうした問題を踏まえると、言語モデルをコミュニティ内で構築し、データの管理や所有を自ら担うことは、データ主権の確保につながると考えられます。また同時に、略奪的に不当な利用を狙う企業からデータを守りつつ、作成に関わった人々自身が活用できる環境が整います。
現在では、先住民の研究者やエンジニア、クリエイターたちが、失われつつある言語の継承という課題に真正面から取り組み、AIを活用して次世代に言語を伝える新たな方法を生み出しています。メキシコのオアハカ工科大学では、Google Lensのように物体を認識し、その名称や説明をトゥウン・サビ語で表示できるAIアプリを開発しました。また、アメリカのダートマス大学のコト・ソラノ准教授は、クック諸島のマオリ語の音声を認識し、文字起こしができるAIモデルの構築に取り組んでいます。さらにソフトウェアの枠を超え、アメリカの発明家でありアニシナベ族出身のダニエル・ボイヤーとそのチームは、「SkoBots」と呼ばれるAI言語学習ロボットを開発しました。SkoBotsは英語の音声による質問を理解し、アニシナアベモウィン語で応答する仕組みを備えています。
言語の継承は社会の責任
先住民の言語を守ることは、その文化や価値観、受け継がれてきた伝統や知恵を未来につなぐことでもあります。これらの言語が失われてきた背景には、差別的な慣習や、主流となる言語や文化への同調を強いる圧力がありました。SkoBotsのようなロボットや言語アプリに組み込まれるSLMは、言語の衰退を食い止める強力な手段ですが、その保護や継承の責任を先住民族コミュニティだけに負わせるべきではありません。企業はもちろんのこと、大学などの教育機関には、未来をつくる学生たちに知識や技術を直接提供する役割が求められます。たとえばミシガン州立大学では、10年以上にわたり、アニシナアベモウィン語やケチュア語といった、北米や南米の先住民族の言語の研究を行う希少言語プログラムを実施しています。
公用語を話す人々もまた、アライとしての役割を果たすことが必要です。先住民のデータ主権を尊重しながら、彼らが社会で適切な扱いを受けられるよう働きかける。そして、こうしたAIツールを活用し、言語や文化への理解を広く社会に発信していくといった行動が求められています。先住民族の言語を未来へつないでいくためには、私たち一人ひとりの協力が欠かせません。もしこの取り組みが途絶えれば、かけがえのない歴史や文化が、永遠に失われてしまうことになるでしょう。

Credit: Joan San Carlos, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
ゲストライター S. Jarvisによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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