街づくりのゾーニング|住宅格差が生活と教育を左右する

近頃、都市開発、街づくりをめぐる話題の中で、「ゾーニング(Zoning)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。普段あまり意識することのない言葉ですが、実は私たちの日常生活を大きく形づくる仕組みのひとつです。

ゾーニングとは、土地の用途を自治体が定める制度で、住宅用、商業用、工業用などのエリアに分け「どのような建物が建てられるか」「どの程度の規模と密度で開発できるか」などを決めるものです。街づくりの一般的なルールのようにも聞こえますが、実際にはそのエリアの住み心地や、交通の便、教育水準など、暮らしのさまざまな面に広く影響を及ぼしています。

最近では、生活に必要な店やサービスが15分圏内に揃う「15分都市」という考え方も広がっています。この街づくりは、「ここは住む場所」「ここは買い物の場所」と分けていたこれまでのゾーニングを発展させ、住まいと機能をあえて混ぜて配置するという、新しい都市デザインの視点から成り立っています。ところが、この15分都市というコンセプトは一部の人から、「人々を都市に押し込み、自由を奪うもの」といった形で誤解され、批判の対象となってきました。こうした反発の背景には、多様な人々が近くで暮らすことや、従来の住み分けが崩れることへの不安や拒否感も見え隠れします。しかし、ソーニングとは、移動や居住の選択肢を狭めるのではなく、むしろ広げることを目指す考え方です。このような批判の声から、ゾーニングが私たちの暮らしにどれほど深く関わり、より暮らしやすい地域をつくるうえでどのような役割を果たしうるのか、十分に理解されていないことがうかがえます。

どこに何を建てるか

ゾーニングは、住まいや食料といった、人々の日常を大きく左右します。たとえば、高所得者層が多く暮らす地域では、一戸建て住宅を中心とした用途指定がなされることが多く、アパートや小規模な集合住宅のような、より多くの人が住める住宅の建設は制限されています。そのため、マイノリティや低所得層の家庭に多く見られる、三世代が一緒に暮らすような住まいのあり方は実現しにくくなります。さらに、高い家賃や住宅価格によって、教育や生活環境が整った地域に住める人と、必要なサービスが十分に行き届かない地域で暮らす人との間に差が生まれ、経済状況や人種による居住の分断が進んでいます。

その価格差は、地域ごとの固定資産税収にも影響し、公立学校や地域サービスを支える財源の差にもつながります。住宅価格が高い地域ほど税収が多くなるため、教育環境や、道路、公園などのインフラを含めて、充実した地域サービスが提供されやすくなります。そして、そのことが地域の魅力をさらに高め、住宅価格をいっそう押し上げるという循環が生まれます。こうした偏りを和らげるために、ニューヨークやシカゴでは、新たな住宅開発の際に、手頃な価格の集合住宅などを一定割合で整備するよう開発業者に義務づけ、多様な人が暮らせる街づくりを進めています。

フードデザート(生鮮食品の入手が困難な地域)の米国分布図

アメリカのフードデザート分布図
Credit: USDA, Public domain, via Wikimedia Commons


街の設計が生む排除

低所得層が多く暮らす地域では、スーパーマーケットよりもコンビニエンスストアやファストフード店が多くなる傾向があります。アメリカでは、およそ1,900万人がこうした「フードデザート(食の空白地帯)」に暮らしており、新鮮で手頃な価格の食材を手に入れるために、長距離の移動を余儀なくされています。

また、公共交通が、設置を望まない一部住民の反対によって整備を阻まれることもあります。低所得世帯ほど自家用車を持つことが難しく、日々の移動を公共交通機関に頼る場面はおのずと多くなります。ところが実際には、移動を支えるはずの交通インフラが十分に整わず、必要な場所へのアクセスを広げるどころか、むしろ制限をかけるような状況が生まれてきたのです。

この背景には、NIMBY(Not In My Backyard:「必要な住宅や公共交通であっても自分の家の近くには作ってほしくない」という考え)の存在があります。彼らは、「街の雰囲気が変わる」「土地の価値が下がる」といった理由を掲げ、自分たちの地域に集合住宅が建てられたり、公共交通が整備されたりすることに反対します。こうした姿勢が、地域開発や公共サービスの改善を難しくします。

多様な暮らしを支える街づくりへ

アメリカの大半の地域では、街づくりの幅を狭める方向でゾーニングが使われますが、他国では柔軟なアプローチも見られます。たとえばカナダのトロントでは、住宅と店舗が一体となった複合施設の開発が、都市計画として推進されています。こうした街づくりは、より多くの人の住まいを確保できるだけでなく、生活に必要な店やサービスを利用しやすくする利点があります。また、人や施設が一定の範囲に集まることで公共交通の整備にもつながり、自動車への依存を減らす効果もあります。所得の異なる人々が共に暮らす地域が生まれ、地域の魅力が高まった後も、元々住んでいた人たちが立ち退きを迫られるジェントリフィケーションのリスクを抑えることにもつながります。

先のニューヨークやシカゴのように、新しい住宅開発時に比較的手の届きやすい住宅を一定割合含める、「インクルージョナリー・ゾーニング」が成果を上げた事例もあります。こうした取り組みは、ゾーニングが単なる土地利用のルールではなく、人々の暮らしを直接的に左右する仕組みであることを示しています。

ゾーニングのルールを少し変えるだけでも、暮らしに必要なものを手にしやすい環境はつくれます。住まい、食、交通、教育といった生活の基盤へのアクセスを整えるうえで、土地の使い方のルールを見直すことは、格差の是正と、より公平で暮らしやすい地域社会をつくるために欠かせない取り組みなのです。

高層ビルや住宅が並ぶ通りを走行するトロントの路面電車

ゲストライター E. Takamuraによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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