企業も注目のニューロダイバーシティ|違いを強みに脳の個性

近年、「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」という言葉が注目されています。ニューロダイバーシティとは、「人間の脳の働きや認知、情報処理の仕方には個人によって違いがあり、それらは相互に尊重されるべき『自然な違い』であり、決して優劣や欠陥ではない」とする考え方です。

多数派とされる一般的な脳の特性を持つ人を「ニューロティピカル」、多数派とは異なる特性の人を「ニューロダイバージェント」と呼びます。この2つの違いは、脳の情報処理の仕組みにあります。ニューロティピカルな脳は「標準的」とされ、その人の行動や思考、他者との関わり方が、社会の大多数の人々とほぼ同じ傾向を示します。一方、ニューロダイバージェントの人は、物事の受け取り方やコミュニケーションの取り方、周囲への反応などが異なることが多く、その特性ゆえの強みもあれば、環境によっては困難な状況にぶつかることもあります。

自分を偽ることの代償

日常生活の中でこの違いが強く表れるのは、主に対人関係です。ニューロダイバージェントの人は、会話相手のボディランゲージを読み取ったり、コミュニケーション上の暗黙のルールを理解するのが苦手な傾向にあります。また、騒がしい場所や人混みでは過度な刺激を受ける「感覚過負荷」を起こし、極度の疲労を感じたりパニックに陥ることもあります。そのため多くのニューロダイバージェントの人は、周囲に合わせることで自分本来の自然な行動を隠す、いわゆる「マスキング」という行動をとらざるを得なくなります。マスキングは、周囲の偏見から身を守る手段ではありますが、多くの場合大きな代償が伴い、慢性的な不安感や精神的な疲れ、そして自分らしさの喪失につながります。

現代社会において、ニューロダイバージェントは思うほど特別ではありません。現在、世界の人口の15%から20%が、OCD(強迫性障害)、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉症スペクトラム症)など、ニューロダイバーシティの特性を示しています。これらの特性を持つ人々は時に怠け者、不器用、無責任などと誤解されがちですが、実際には他の人とは異なる、極めて価値のある独自の視点を社会にもたらしています。

年ごとの米国の子どものADHD率を示すグラフ。わずかな増加が見られる。

アメリカの子ども(3〜17歳)のADHD診断率推移
Credit: Laila A. Lico via Brighterly


「学ぶ場」がストレスになるとき

学校生活では、授業活動への積極的な参加や教師とのやりとりが求められ、いくつもの情報をその場で処理する場面が連続的に起こります。こうした環境においては、ニューロダイバージェントを取り巻く課題が顕著となるため、彼らには学校での学習が大きなストレスとなることもあります。 

多くのニューロダイバージェントの人が直面する困難の原因は、彼らの脳の働き方(内的要因)だけでなく、彼らを取り巻く周囲の環境(外的要因)にもあります。一般的に、学校や職場など社会的な場の多くはニューロティピカルの人を前提に設計されており、ニューロダイバージェントの人にとっては、日常の些細なタスクすら困難に感じられてしまいます。この傾向は、同じような価値観や教育システム、就労スタイルを前提に成り立っている、アメリカ、イギリス、オーストラリアなど多くの国に共通して見られます

ニューロティピカルを前提とした学校環境では、授業の内容より、周囲のペースについていくことだけに精一杯になってしまう生徒も少なくありません。そのため、たとえ授業自体は理解できていたとしても、自信が持てず授業への参加意欲が低下したり、成績に悪影響が出ることもあります。

ニューロダイバーシティと、ニューロティピカルの強みを示すチャート

ニューロダイバージェントとニューロティピカルの特性比較:能力診断ツール「クリフトンストレングス」の34の資質に基づく分析
Credit: Katelyn Hedrick, Rachael Yi and Jim Asplund via Gallup


問題は環境と社会の認識にある

ニューロダイバージェントの人が、生活の中でつまずく場面は至るところにありますが、 それは彼らの能力の問題ではなく、環境や社会の仕組みが多様な人間の思考スタイルに対応できていないことが大きな要因と言えます。この認識が広がり、様々な特性を持つ人々を支える環境の重要性が浸透すれば、ニューロダイバージェントの人は本来の強みを発揮し、社会で活躍できるようになります。

近年、多くの組織や支援者が声を上げ始め、ニューロダイバーシティへの認識向上と、よりインクルーシブな社会の実現を訴えています。アメリカ最大級の映画館チェーンであるAMCシアターズ、世界有数の投資銀行ゴールドマン・サックス、そしてグーグルが提供するクラウドサービス部門のグーグルクラウドなどのグローバル組織は、ニューロダイバーシティをむしろ強みとして捉え、様々な人材の積極的な採用を進めています。これらの企業では、独自の才能を見出すための先進的な採用選考プログラムを開発し、職場における機会均等の創出に注力しています。

企業が多様な人材の採用を始めることで、私たちにも、今後ニューロダイバージェントの人々をサポートする機会が増えていくでしょう。これまでの固定観念を見直し、誰もが自分に適した方法で学び、働ける環境を整えていくこと。その先に、ニューロダイバージェントの人もニューロティピカルの人も、共に活躍できる社会が見えてくるはずです。

音に敏感なためヘッドフォンを着けた女性が遊園地で楽しい時間を過ごしている様子

Credit: Image via Magnific

ゲストライター M. Hickmanによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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