出産奨励の裏で続く妊娠差別|育休義務なきアメリカの矛盾

お腹に新しい命を宿したとわかったとき。それは、女性の人生を大きく変える瞬間です。知らせを手にしたそのときから、頭の中は生まれてくる赤ちゃんのことでいっぱいになり、期待と不安が入り混じる中で我が子を迎える準備が始まります。そんなときに、自分が築いてきたキャリアを失うのではないかと恐れを抱くのは、女性にとってあまりにも酷なことです。

法律が守るキャリアと子ども

アメリカでは「妊娠したらキャリアが終わる」と不安を感じる女性は少なくありませんが、決してそんなことはありません。アメリカには妊娠差別禁止法(Pregnancy Discrimination Act)という法律があり、妊娠中の女性が求職活動をする際や、妊娠後も働き続ける際の平等な扱いと配慮を義務づけています。1978年に制定されたこの法律は、妊娠や出産、またはそれらに関連する健康上の理由による、あらゆる雇用上の差別を禁止しています。 

妊娠を仕事の足かせにしない 

妊娠中の女性でも、まだ妊娠初期で周囲に気づかれない段階であれば、面接で敢えてその事実に触れないでおくことも選択肢の一つです。それは決して不誠実なことではなく、女性が負い目を感じる必要はありません。妊娠中の求職活動で女性たちが一番懸念するのは、近いうちに産休に入ることを企業側がリスクと見なし不採用になるのではないか、ということです。

残念ながら、妊娠中の女性への不当な対応は採用面接の場だけにとどまらず、職場においても、妊婦の5人に1人が何らかの妊娠差別を受けているといいます。必要に応じてトイレ休憩に行かせる、業務上に不可避な場面だとしても、大量の紙の資料や重たい備品などは持たせないなど、妊婦への基本的な配慮を会社側が怠るケースは少なくありません。

少子化対策と職場の現実

矛盾しているのは、金銭的な優遇政策などによって国が子どもを産むよう盛んに奨励する一方で、職場では妊娠中の女性が差別にさらされ続けている現状です。2025年に大統領に返り咲いたトランプ大統領は、新たに子どもをもうける親たちへの一時金支給を提案し、さらに6人以上産んだ母親には勲章を贈呈するとまで言及しました。しかし、政府の期待通り妊娠や出産に臨もうとしているその女性たちが、皮肉にも職場では差別を受け続けているのが現実です。 

妊娠中の女性はとかく孤独感に陥りやすいものですが、その間に新しい仕事を探すという人も少なくありません。ミネソタ州に住むアシュリー・オーガードは、第三子の妊娠35週目、臨月間近のタイミングで仕事が決まった経験をSNSで発信しています。彼女の事例は、家族や友人、職場からの適切なサポートさえあれば、妊娠のどの段階であっても、転職や新たなキャリアへの挑戦は可能だということを示しています。 

過去数十年で妊娠中に働く女性の増加を示すグラフ

第一子妊娠中に就労していたアメリカ女性の割合
Credit: Working while pregnant is much more common than it used to be, Pew Research Center, Washington, D.C. (March 31, 2015)


「母になること」と「働き続けること」

妊娠中や出産後に仕事を続けるかどうか、それを決めるのは当の女性自身です。妊娠を理由とした差別や、必要な配慮が得られないことで、理不尽に退職へ追い込まれるようなことがあってはなりません。

現在、アメリカの労働力人口において、妊娠中の女性が占める割合は毎年1.6%程度です。アメリカは国として出生率の向上を目指していながら、連邦法で育児休業が保障されない数少ない先進国のひとつであることは、見過ごせない矛盾です。国からの法的な生活保障がない以上、自ら生活を支える方法を見つけなければなりません。その現実が、子どもを持つという決断をさらに難しいものにしています。

何より大切なのは、今まさに母になろうとしている女性たちは皆、ひとりではないということです。妊娠中であっても、仕事の能力も職場での存在価値も、何ら変わることはありません。そのことを社会全体が理解し、女性が子どもを産み、育て、働き続けられる環境を整えることが、今のアメリカ社会に求められているのです。

オフィスでデータ分析する妊娠中のビジネス女性

Credit: DC Studio via MagnificM

ゲストライター H. Clouserによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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