メンタルヘルス崩壊からの孤立化|男らしさの呪縛を解け

「メンタルヘルス」という言葉は、近年になり広く使われるようになりました。WHO(世界保健機関)はこれを、「人々が人生のストレスに対処し、自分の能力を発揮し、よく学びよく働き、自身が所属するコミュニティに貢献することを可能にする、精神的なウェルビーイングが保たれている状態」と定義しています。しかし、人生の様々なプレッシャーに耐えられなくなったとき、働くことも人とつながることも、どこかに居場所を見つけることも難しくなったとき、その先には何が待ち受けているのでしょうか。

多くの男性にとって、この内なる苦しみは誰にも見えないところで静かに進んでいきます。「男は弱さを見せるべきではない」という社会の期待によって、男性はその苦しみに蓋をしてしまうからです。こうした風潮は世界中で見られますが、アフリカでは男性のメンタルヘルスが重要な公衆衛生上の課題でありながら、これまで長いこと見過ごされてきました。中でも南アフリカでは、この問題が深刻かつ複雑な形で表面化しています。

声に出せない苦しみが蝕む男性たちの命

男性が自らの痛みを言葉にするのをやめたとき、その苦しみは別の形で噴き出します。誰にも悩みを打ち明けられないまま、静かに心が壊れていく。そうして私たちは、息子であり、父親であり、兄弟である男性たちを失っていくのです。南アフリカでは、自殺で亡くなる人の約80%を男性が占めています。この衝撃的な数字が、問題の深刻さと一刻も早い介入の緊急性を切実に物語っています。

この問題の根底には、「男らしさ」への根強い固定観念が存在します。アフリカ各地の伝統的な社会では、男性であることが、強さやたくましさ、そして家族を養うという役割に強く結びついています。幼い頃から感情を抑えるよう育てられ、弱音を吐くことは恥ずべき行為だと教え込まれます。

もちろん、「アフリカ流の男性らしさ」が、アフリカ大陸全土に当てはまるわけではありません。しかし共通して見られるのは、感情を表に出すよりも黙って耐えること、心を開くよりもストイックに気持ちを抑えることを良しとする社会規範です。こうした価値観は、実際に逆境に負けない強さやたくましさを育む側面もありますが、しかし同時に、男性が自らの苦しみを認めたり、周囲に助けを求めたりすることを阻んでいるのも確かなのです。

世界の自殺率における男女比を示す世界地図。全地域で男性が上回る。

世界各国における男性自殺率の対女性比(2021年)
Credit: World Health Organization, CC BY 4.0, via OurWorldInData.org


社会の価値観と現実の狭間で

アフリカの価値観や男性への期待値に加えて、高い失業率や不安定な経済、社会的格差といった問題が重くのしかかっており、その影響は特に若い層に顕著に見られます。多くの男性にとって、「家族を養う」ことは義務というより、自分自身の存在意義でもあります。そのため、それが果たせないときの精神的なダメージは計り知れません。周囲に助けを求められず、アルコールや薬物に逃げる人もいれば、怒りや引きこもりという形で苦しみが表れてくる人もいます。南アフリカメンタルヘルス連盟(South African Federation for Mental Health)の報告によれば、うつ病を抱えながらも治療を受けない男性ほど、性別を理由にした暴力に走りやすいことが明らかになっています。男性のメンタルヘルスの問題は、決して本人のみにとどまらず、家族や地域社会全体へと、負のスパイラルを広げていくのです。

幸いなことに、近年では、男性のメンタルヘルスに正面から向き合う動きも広がっています。南アフリカ最大のメンタルヘルス支援団体(The South African Depression and Anxiety Group)は、1994年の設立以来、ヘルプラインやサポートグループ、啓発活動を通じて、悩みを抱える人々に寄り添い続けています。 また、民間医療グループのNetcareも、職場でのメンタルヘルス啓発に積極的に取り組んでいます。状況は少しずつ改善されつつあり、以前と比べて支援を求める男性も増えてきました。

支え合いが救う男性の心と家族の未来

「強さ」の意味を問い直すこと。それは、より良い社会への変革のきっかけになります。男性は周囲からしっかりと支えられながら、息子や兄弟、父親として成長することができるのです。そうして、心豊かでたくましい次の世代が育まれていきます。 

しかし、支援が届かない男性がいる限り、問題は解決しません。注意しなくてはいけないのが、孤立や不満、居場所のなさを抱えた男性の心の隙間に忍び込み、偏った考え方を持つグループに引きずり込もうとする、危険な勢力が存在します。彼らはジェンダー平等や多様性の進展を、社会の進歩ではなく「男性への脅威」であると、人々に刷り込もうとします。だからこそ、男性のメンタルヘルスに真剣に対処することが、今まで以上に求められます。

そのためには、男性が孤立しない環境を作り、悩みや苦しさを打ち明けられる文化を育て、より健全な男性像を社会に広めていくことが重要です。男性自身が自分のメンタルヘルスと向き合うことはもちろん大切ですが、社会全体が変わらなければ、真の変化は起こり得ません。弱さを沈黙で覆い隠すのではなく、それを受け止め、支え合える社会を作ること。それが、この問題の本質的な解決につながります。

そして最後に、この記事を読んでいる男性の皆さんへ。心の苦しさや重圧を、一人で抱え込まないでください。周りに助けを求めることは弱さではなく、回復へと向かう勇気ある第一歩なのですから。

互いの心身の状態を気遣いながら支え合って話し合う4人の黒人男性

ゲストライター F. Makoniによる寄稿

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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