フェムテックが描く女性の健康未来図|情報リスクと革新の狭間で

皆さんは、「フェムテック(Femtech)」という言葉をご存じですか?これは2016年に「female technology(女性のための技術)」から生まれた造語で、女性の健康ニーズに焦点をあてた技術を意味します。最初に誕生した関連製品は、月経記録機能を備えた「Clue」のようなアプリでした。現在では妊娠確率のモニタリングや性の健康に関するサービスなど幅広いヘルスケア技術へと広がり、世界中の何百万人もの女性に利用されています。これまでの医療は、男性の身体を基本として研究が進められてきたため、女性の健康ニーズには十分な配慮や対応が行われていませんでした。この長年の遅れを取り戻す上でも、フェムテックは極めて発展的で重要な技術であると同時に、女性に男性と同等の医療を提供するための正面からの取り組みと言えます。

女性の健康問題を「見える化」

その技術はアプリからウェアラブルデバイスなど様々ですが、単に便利というだけではありません。これらの技術や製品の出現は、女性特有の健康ニーズへの認識が高まっていることを意味するのです。「Clue」のようなツールを使うことで、月経のトラッキングや周期予測、妊娠しやすい時期の割り出しなどが可能になり、今や多くの女性にとって欠かせないツールとなっています。女性が月経時に使用する生理カップ、生理用下着、女性用バイブレーター。日本では、東京に拠点を置くスタートアップの「Fermata(フェルマータ)」が、タブー視されがちなこういった製品の認知、普及に力を入れており、ジェンダー格差が顕著な国ではこうした活動が大変注目されています。

フェムテックフェスで展示されたフェムテック関連商品

フェムテックフェス(東京)


さらに、こういったツールから収集されるデータも非常に貴重です。それら数百万のデータ観測値を分析し、製品や治療に活かすことで、フェムテック企業はこれまで軽視されてきた女性の健康問題を社会に知らしめる役割を果たしています。研究者たちはデータのパターンや傾向を把握し、治療法の改善に着手し、最終的には患者ごとに最適化された医療の実現に向けて挑戦し続けています。

プライバシー保護と医療格差解消の狭間で

一方、フェムテックにはデータのプライバシーに関する問題など、倫理的な懸念も付き纏います。月経や妊娠管理アプリなど多くのフェムテック製品は、非常に秘匿性の高い健康データを収集しており、それらが悪用される可能性もあるということです。アメリカでは「HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)」により、医療分野における個人の健康情報の機密性が保護されていますが、フェムテックアプリは一般の消費者向け製品であるため、この法律の対象外となります。そのため、ユーザーの個人情報が、本人の同意なしに共有または売買される可能性もあるわけです。これは決して、過度な心配ではありません。実際に2021年には、FacebookやGoogleなど第三者に対してユーザーに無断で機密データを共有したとして、人気の月経管理アプリ「Flo」が米国連邦取引委員会により告発されたこともあります。

さらに、2022年には米国最高裁判所が「ロー対ウェイド判決(女性の中絶権を認めた判決)」を覆す判決を下し、中絶禁止または中絶に何らかの制限をかける州が増加しました。このことを受けて、フェムテックアプリのデータが、女性たちの妊娠関連情報の追跡や調査に利用されるのではという懸念の声が高まりました。業界の専門家は、収集された月経データから、中絶を受けたまたは中絶を考えている女性が割り出され、当局から追跡される可能性を指摘しています。そしてこういった医療情報は、州法で中絶が禁止されている州において、女性の医療上の選択を理由に移動を制限したり、起訴の材料として利用される恐れもあります。女性の健康を守るために開発された技術が、あろうことか女性の健康を脅かす可能性があるという状況にあります。プライバシーの保護と、女性の健康や医療に関する研究データの活用とのバランスをいかに取っていくかが、今後の課題となっています。

フェムテックが不要な未来へ

フェムテックが、格差の無い医療への一歩であることは確かです。しかし性別にかかわらず、すべての人に平等でインクルーシブな医療システムを構築することが最終目標です。そこまでいけば、フェムテックのような女性に特化した技術は、もはや不要です。その時が来るまで、フェムテックは医療の再構築への議論や革新を加速する推進力として、重要な役割を果たし続けるでしょう。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)


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