オランダでは、この10年間で刑務所の収容者数が着実に減少しており、それに伴い刑務所も次々と閉鎖に至りました。これはオランダが、犯罪者への刑罰のあり方に対し、他国とは異なる視点で取り組んできたことを反映しています。刑罰として長期の実刑を科すことよりも、将来的な社会復帰に重きが置かれているこの国では、拘留に関しても受刑者の人間性を尊重したやり方を実践しています。つまり、刑務所は単なる懲罰の場ではなく、社会復帰に向け準備する場所として位置づけられているのです。受刑者は、心のケアや依存症治療によって心身の状態を整え、教育を受け、就労スキルを身につける。そして、出所後の生活設計に焦点を当てることで、刑期を終えた人々は安全かつスムーズに、社会復帰の可能性を高めることができます。
一方で、オランダとは全く逆のアプローチを行っているのがアメリカです。アメリカの司法制度では、刑務所に収監することが犯罪抑止と懲罰の柱となっています。現在アメリカの人口はオランダの約19倍ですが、刑務所の収容者数は約160倍にも上ります。このように懲罰を基本とする制度は、犯罪の背景にある問題を未解決のまま受刑者を社会から切り離してしまうため、結果として問題を長期化させる原因となっています。
罪の裏にある苦しみ
オランダでは、精神疾患や依存症、あるいは治療が必要な健康上の問題などと、犯した罪との間に因果関係があるかどうかが慎重に考慮されます。一方のアメリカでは、受刑者の約40%が何らかの精神疾患を抱えているにもかかわらず、そのうち63%は服役中に必要な治療を受けられていません。立ち直るための適切な支援がなければ、刑務所はただ人を罰するだけの場所となり、根本的な問題は放置されたままになります。
しかもこうした精神疾患は、経済的な不安定さに加え医療施設のない地域や環境的な問題も影響し、出所後の精神的な負担にもつながるため、未治療のままでは状態がさらに悪化しかねません。依存症についても同様で、違法薬物やアルコールへの依存を治療しないまま放置すると、それに起因した問題行動により、再犯リスクが高まることが分かっています。 考え方や行動の癖を見直す行動療法や投薬治療、そして出所後のフォローアップ支援を含めた効果的なケアが不可欠です。

刑務所収監率が最も高い国々(人口10万人あたりの割合)
Credit: Institute for Criminal Policy Research World Prison Brief, CC BY-ND 3.0, via Statista
消えない前科に閉ざされる未来
受刑者が服役中に行う労働は刑務作業と呼ばれますが、オランダの刑務作業プログラムは、職業訓練や資格取得を通じ、刑務所内の労働が実際の社会復帰へとつながるように設計されています。この点、アメリカの刑務作業は、憲法上唯一認められた「奴隷的な強制労働」であるのが実態です。受刑者に平均時給わずか約0.52ドルという低賃金、あるいは無報酬で強制労働を強いることができるのです。アメリカの刑務作業は、掃除、洗濯、調理など、刑務所の運営に必要な作業を割り当てることが大半で、わずかに家具製造や農作業など、施設や州の必要に応じた業務に従事することもあります。 しかしそこで受刑者が実務経験を積んだとしても、出所後の職につながる可能性は高くありません。
例えばカリフォルニア州では、特に山火事のシーズンに「林野保護キャンプ」と呼ばれる施設で、受刑者を消防要員として長い間働かせてきました。彼らは危険な消防の仕事を通じて貴重な経験を積みましたが、犯罪歴があることで、出所後に消防士として働くことは禁止されていました。その後2021年に、保護キャンプでの消防活動を無事に修了した受刑者は、前科の抹消を申し立てられるという新法が施行され、彼らの資格取得への道が開かれました。
社会で通用するスキル習得が、公正な賃金や出所後の実質的な雇用機会へとつながれば、刑務作業は社会復帰への大きな後押しとなります。しかしどの国においても、元受刑者に対する社会の偏見は根強く、依然として雇用への大きな障壁となっています。
刑務所に服役している人の多くは、いずれ社会に戻ります。しかし病気の治療も就労支援も無く、住む場所や経済的な安定の見込みもないまま出所すれば、彼らを厳しい現実が待ち受けています。アメリカの再犯率は非常に高く、刑務所が受刑者を社会復帰に向けて準備させる場として機能していないことを、如実に示しています。実際、オランダでも同様の傾向が確認されています。ある調査で軽微な犯罪を犯した人を対象に、6カ月以下の短期禁固刑を受けた場合と、地域奉仕活動などの代替刑を受けた場合とで出所後の再犯率を比較したところ、禁固刑を受けた人は出所後1年での再犯リスクが17%高いことが分かったのです。
罰する場所から更生する場所へ
出所後に受刑者が直面する困難は、人により千差万別です。だからこそ、オランダのように受刑者の社会復帰を重視する司法制度は、公平性と、一人ひとりの事情に応じた公正さの両方に根ざしています。懲罰から社会復帰支援へと制度がシフトしても、罪を犯した本人にしっかりと責任をまっとうさせることに変わりはありません。そのうえで、受刑者が自らの人生を立て直し、地域社会とのつながりを持ち続けるための手段が、同時に与えられるべきなのです。

連邦刑務所内で学ぶ受刑者たち
Credit: US Department of Justice, Bureau of Prisons, Public domain, via Wikimedia Commons
ゲストライター E. Takamuraによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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