キャリアの明暗を分けるのは、決して個人の実力だけではありません。有益なフィードバックを得られるかどうかもまた、きわめて重要な鍵を握っています。大企業では従業員に対し定期的なフィードバックを推奨し、評価査定の面談の日程や、伝えるべき内容なども事前に細かく決められているところが少なくありません。本来、フィードバックは従業員の成長には欠かせないものであり、その客観的な指摘により、従業員は自らのパフォーマンスを省みて、仕事の質を改善していきます。またその過程で、業務の効率化と成果の最大化にも効果を発揮します。しかし一方で、フィードバックは諸刃の剣にもなり得ます。的を得た指摘は従業員のキャリアにプラスとなりますが、内容が曖昧であったり伝え方が適切でないケースでは、気づかないうちに成長の機会を妨げ、キャリアを停滞させることもあるからです。
このように、評価フィードバックは従業員のキャリアに大きな影響を与えるため、当然ながら公正さが求められます。しかしそこには、見過ごされがちな大きな落とし穴があります。それが「バイアス(偏見)」です。評価バイアスは、評価者が用いる言葉遣いや口調、そして評価基準のわずかなブレに表れるため、実力や成果ではなく、評価する側の偏った先入観がそのままフィードバックや評価につながります。こうした扱いの微妙な差異は、たとえ評価者たちがそれを明確に意識していなくとも、確実に従業員たちにネガティブな影響を与えています。

業績評価で受けるフィードバックの実態(男女別):女性には建設的なコメントが少なく、否定的なものが圧倒的に多い。
Credit:Emma Luxton via World Economic Forum
評価の裏にある見えない物差し
心理学の研究では、ビジネスにおける女性は一般的に「温かみ、親しみやすさ」が強みであるものの、「有能さ」は低いと見なされやすく、逆に男性は、能力は高いが協調性に欠けると見られる傾向が明らかになっています。このジェンダーバイアスにより、たとえ業務パフォーマンスが同等のレベルであっても、性別によって与えられるフィードバックの内容に乖離が生じることになります。
男性に対しては、業務成果や将来性に焦点を当てたコメントが多く、担当業務に関する直接的なコメントや具体的なアドバイスが中心となる傾向があります。評価においては「積極性」や「リーダーシップ」といった特質が強調され、それが報酬や昇進へと直結していきます。一方で女性に対しては、評価者が「厳しい人」「女性への偏見がある人」と見られないようにと過度に意識するあまり、具体的な課題への指摘を控えがちです。その結果、目標に対する達成度がどうかというよりも、人柄や性格に焦点を当てた内容が多くなります。 つまり女性へのフィードバックは、励ましなど上司の協力的なトーンは感じられるものの、具体性に欠けるため、何が課題でどう改善すべきかを示すという本来の目的を達成できないまま面談が終わることも少なくありません。
さらに根深い問題として、男性であれば高評価につながる「積極性」も、女性がそれを示した途端に周囲からの反発を招いてしまう点があげられます。積極的な姿勢という点でまったく同じ態度や行動をとっても、評価者は男性社員に高い評価を与える一方で、女性社員には「扱いにくい」「きつい性格」といった評価を下すのです。
母親は代償を払い、父親は恩恵を受ける
こうした評価の歪みは、「子供がいる」という要素が加わることでより顕著となります。母親である女性は有能さを10%も低く見積もられ、採用率は男性と比べて6分の1にまで低下します。また、履歴書に母親であることを示す記載があるだけで、女性は面接試験まで進む可能性が半減するという研究結果もあります。
しかし、子どもがいる男性が経験するのはこれとは真逆の現実です。父親であることがむしろプラス評価に働く、いわゆる「父親プレミアム」の恩恵を受け、評価や給与面で優遇されます。この極端な対比が示しているのは、バイアスの本質が単に「子を持つ親であること」への偏見ではないということです。同じ「親」であっても、女性であり母親であることはマイナスに評価され、男性であり父親であることはプラスに評価される。つまり、評価を分けているのは「性別」そのものなのです。
期待値と評価基準を変える
定期的に従業員が受け取る上司からのフィードバックは、業務の質やその人の成長に直接的な影響を及ぼすため、業務評価におけるバイアスの存在は、決して看過できない問題です。しかし企業にとって、このバイアスの解消はさほど難しくありません。何よりもまず必要なのは、部下を管理する立場にある人々が、自分自身の中にあるバイアスに気づくことです。彼らがこの気づきを得るためには、社内教育やDEI研修の取り組みに加え、組織に根深く存在するバイアスについて率直に話し合える環境を整えることが有効です。
人事部門は、社内の従業員評価データを定期的に分析し、先述したような性別による偏った言語パターンが繰り返し行われていないかを積極的に洗い出すべきです。また、従業員のパフォーマンスをどう評価し、スコアにどう反映させるかについても、明確で一貫した客観的基準を設けることも重要です。評価者があらかじめ定められた項目に沿って評価を行うことで、主観や個人的なバイアスが入り込む余地を大幅に削減できます。
私たちはとかく、会社の業績指標といった分かりやすい「評価の対象」ばかりに目を奪われがちです。しかし本当に注視すべきは、フィードバックが「どのような言葉で従業員に伝えられているか」という点です。評価に用いられる言葉は、従業員の実力を表しているようでいて、その実、評価する側のリーダーが抱くバイアスを鮮明に映し出しています。女性には「人柄も良く協調性がある」というフィードバックが常に与えられ、男性は「リーダー候補」と評価される。この差は偶然ではありません。今、私たちが向き合うべき課題は、無意識に生じているこの差を認識し、当事者としてとらえ、解消していくことにあります。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

この記事を読んで、ダイバーシティの促進に興味を持たれましたか?そんな皆様には、私たちLearning Cycleのプログラムが必ずやお役に立ちます。詳しくはこちらをご覧ください。








