多くの人たちにとってタトゥー(刺青)は、自らの体に刻む、力強く雄弁なメッセージです。近年はタトゥーへの理解が広がり、公の場でも受け入れられるようになってきました。しかし、依然としてほとんどの企業では、個人の能力よりも時代遅れな外見上の基準が重視される傾向が根強く残っています。
何十年にもわたり、職場には「仕事にふさわしい」服装や髪型をルールづける文化があり、タトゥーなどのボディアートはもちろん良しとはされていません。控えめな服装や自然な髪色、目立つ場所にタトゥーがないことが「職場にふさわしい身だしなみ」とされ、現在も多くの職場で見られる、画一的な外見が正解とされてきました。
タトゥーへの偏見が生む採用の壁
タトゥーなどのボディアートがある人を採用してはいけない、と明記した法律はどこにもありません。しかし、就職や転職活動の際、目立つ場所にタトゥーがある応募者が、タトゥーを入れていない人であれば決して経験しない「不条理な壁」にぶつかるのは事実です。
特に女性の場合、この壁は高く、険しいものになります。「女性は女性らしく、控えめであるべき」という社会的な価値観が残る中、女性のタトゥーへの抵抗感は男性以上に強いのです。これはジェンダーによって変わるダブルスタンダードとも言え、接客業やオフィス業務に応募する際、タトゥーのある女性は男性よりも厳しい評価を受ける傾向があります。
最新のデータによると、いまやアメリカ人の32%(およそ3人に1人)が少なくとも1つのタトゥーを入れています。昔から、医療のような社会的評価の高い分野では、その仕事に見合った身だしなみの基準が厳しく設けられてきました。しかし現在では、医師のおよそ4人に1人がタトゥーを入れています。どのような職業に就いていても、タトゥーを入れる理由は人それぞれです。亡くなった家族への思いをタトゥーに込める人もいれば、自分のルーツや個性を表現する人もいます。タトゥーには、衣服の下に隠された、一人ひとりの大切なストーリーがあります。タトゥーがあるというだけで、一律にその人の資質を疑うことは、そこに込められた思いや背景を考慮していないことを意味します。

タトゥーを1カ所のみ(オレンジ)、または2か所以上に入れている人(緑)の割合
Credit: 32% of Americans have a tattoo, including 22% who have more than one, Pew Research Center, Washington, D.C. (August 15, 2023)
外見差別は髪型や髪色にも
欧米で重宝されてきた職場での適合性や清潔感の基準には、本質的に保守的な側面があります。そこには白人を中心とした身体的特徴や服装を標準とする前提があり、タトゥーのような自己表現はそこから外れるものと考えられてきました。タトゥーと同様の偏見は、髪型や髪色が「標準」から外れる人々にも向けられています。派手な髪色であることを理由とした差別を禁じる法律は存在しないため、当事者たちは髪型や髪色によって不利益を被ったり、仕事を続けることの条件として、自然な髪色に染め直すように求められたりすることまであります。
また、黒人が生まれ持った髪質や髪型への、ビジネスの場での偏見も広く知られています。とりわけ黒人の女性たちは、周囲の目や無言の圧力により縮毛矯正やストレートパーマで髪のうねりを矯正したり、ウィッグを着用せざるを得ない状況に置かれています。実際に、黒人女性の20%以上が、髪型を理由に職場を去るよう求められた経験があるというデータも存在します。髪型を理由にした差別を禁じるCROWN法(Creating a Respectful and Open World for Natural Hair Act)は2019年にカリフォルニア州で最初に成立し、その後各州へと広がったものの、「職場にふさわしくない髪型」という偏見はそう簡単には消え去りません。髪型とタトゥーは別の話のようでもありますが、その根底にあるのは、自己表現そのものに対する共通の偏見です。

派手な髪色がトレードマークのゾーイ・ガーベット(ロンドン・ハックニー区長)
Credit: Hackney Council, OGL 3, via Wikimedia Commons
外見より能力を評価する時代へ
社会人としての評価は、仕事に対する姿勢や成果によってこそ決まるものであり、偏見の上に作られた外見的基準に左右されるべきではありません。頼もしいことに、ミレニアル世代(1980年代〜1990年代生まれ)やZ世代(2000年代〜2010年代生まれ)を中心に、多様性や個性を尊重する価値観が広がっています。これまで「ファミリー向け」のイメージを徹底して守ってきたことで知られるディズニーですが、テーマパーク従業員の服装規定を緩和し、タトゥーを隠さなくても勤務できるようになりました。ディズニーがタトゥーを受け入れたことは、社会全体の価値観が変わりつつあることを示す象徴的な出来事と言えます。
時代と共に変わることを拒み、差別的な外見基準を今後も守ろうとする企業は、遠くない未来に大きな代償を払うことになるでしょう。外見だけで人材を評価することで、目の前の優秀な人材を見落とし、激化する人材獲得競争で確実に後れを取ることになるのは想像に難くありません。

ゲストライター H. Clouserによる寄稿
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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