皆さんは、大切な人が命の危険にさらされる状況を想像したことがありますか?例えばあなたの奥さんが流産し子どもを亡くし、今度はその奥さんの命まで危険な時に、あなた自身が車のハンドルを握り別の病院まで搬送せざるを得ない状況。想像するだけで恐ろしいことですが、これは現実に起きている話です。ここ2週間で、病院に中絶手術を拒否された女性のニュースが立て続けに報じられましたが、そのうち1人の女性は亡くなる事態となりました。カリフォルニア州在住のアンナ・ヌスロックさんは双子を妊娠していましたが、彼女が運び込まれた病院の医師は「このまま出産しても子供はすぐ亡くなる危険性が高い」と判断し、本人にもありのままを告げました。更に医師は、大量出血や感染症、不妊症などになる可能性にも触れましたが、その病院では救命のための中絶であっても手術に踏み切ることはせず、他の病院に行くよう勧めました。その病院はカトリック系で、胎児の心拍が確認できるうちは手術を実施してはならないという規則があったためです。しかしこの時彼女は、別の病院で中絶処置を受けるほどの時間的余裕など無く、搬送中に手遅れになることも十分に考えられる状態でした。何とか別の病院で緊急措置を受け、結果的に一命を取り留めたものの、彼女はこの体験がトラウマとなりPTSDを患ってしまいました。
政治化する医療とその影響
アンバー・サーマンさんのケースは、残念ながら命を落とすという最悪の結末を迎えました。アンバーさんの自宅があるジョージア州では妊娠6週目以降の中絶が禁止されているため、彼女はノースカロライナ州の病院までの長距離を移動し、合法的に中絶手術を受けました。ところが、胎児組織の一部が母体に残っていたことが原因で、自宅に戻った後に感染症を引き起こしてしまいました。通常であれば、単純なD&C手術(子宮内容除去術)により残存組織を除去すれば良いだけの話でした。しかし処置を担当したジョージア州の医師たちは「妊娠6週以降の中絶禁止法」に抵触することを恐れ、手術を躊躇している間に、彼女は重篤な状態に陥りました。医師たちが慌てて手術を始めた時にはもう遅く、彼女はそのまま命を落としてしまったのです。
中絶禁止法が母子の命を危険に晒す
こういった中絶禁止法は、すでに医療格差に直面している女性たちにとって更なる負担となり、上記のような痛ましい話が今も後を絶ちません。調査報道に定評のあるニュース機関「ProPublica(プロパブリカ)」は、先日、ホッセリ・バーニカさんという女性が医療対応の遅れにより命を落としたと報じました。犠牲になるのは母親だけではありません。2022年10月から2023年初めにかけて、新生児死亡率が全体で7%も増加しており、これは実に247人もの子どもが前年より多く亡くなっているということになります。
中絶については、アメリカ人の63%が「いかなる場合においても合法であるべき」と考えています。多くの人々がこれを女性の権利と捉え、通常の医療行為として扱うべきと主張しています。ドナルド・トランプ大統領は前回の任期中、中絶を認めた「ロー対ウェイド判決」を覆した判事らを指名しましたが、その妻メラニア・トランプ氏ですら、「中絶は女性の権利」との考えを最新の著書の中で明らかにしています。
中絶禁止措置は医療システムにも確実に影響を及ぼしており、中絶禁止の州に隣接する州では、その負担を不本意にも被るケースが増えています。例えば、テイラー・エドワーズさんのケース。テイラーさんは、お腹の子が死産になる可能性が高いと医師から告げられました。仕方なく中絶手術を受ける決心をし、ニューメキシコ州へ飛行機で移動するために着々と準備を進めていました。しかし出発の数時間前に突然クリニックから連絡があり、「中絶手術の数が急増し環境が整わない」との理由で急遽中止になってしまったのです。彼女は手術を受けることも叶わず、心身ともに辛い状態が更に長引くこととなってしまいました。
患者と医師に委ねるべき判断
また一方で、体外受精を希望する夫婦が、医師の法的リスク回避のためにその処置を故意に先延ばしにされるケースも出てきています。これはアラバマ州の最高裁判所が「凍結胚は既に一人の子どもである」との判断を下したことがきっかけとなりました。凍結胚は通常の体外受精の過程で生じるもので、それまでは保存期間を過ぎ患者が使用しないと決めた場合に廃棄処理されてきました。しかしアラバマ州の判決により、多くの不妊治療クリニックや病院が胚の使用・保管方法を巡って刑事訴追を受ける可能性を恐れ、体外受精治療を一時的に停止する事態にまで発展してしまったのです。体外受精患者と医療従事者が十分に話し合い、自由な選択と判断ができる環境こそが、安全な医療には必要です。この問題が解決されない限り、女性や子どもがこれからも被害者となり、今後も尊い命が失われてしまうに違いありません。

(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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