近年、男性の育児休暇が様々な場面で話題になることが多くなりました。しかし男性に育休が認められるまで長い年月がかかったことで、女性の家庭と職場双方での負担は中々軽減されず、公平性の実現には至っていませんでした。役割や仕事の公平な分担とは、家事だけの話ではありません。会社とそこに働く社員たちが、「皆で協力し合える職場と家庭」の両方を実現することが大切で、男性の育休推進や取得条件を改善することはそのために非常に重要な意味を持っているのです。
男性の育児休暇が浸透しないことで起こる問題
これまでは、父親と母親の役割がそれぞれの固定観念として存在し、国の制度は異性同士の結婚・出産が前提となっていました。そのため、ほとんどの企業が母親である女性にのみ、産後休暇を認めてきたという背景があります。もちろん、出産は女性の身体に大きな負担を与えるものであり、体調が元に戻るまでの休養期間も必要です。しかし、子どもの面倒は母親がみるものという昔からの認識によって、実の父親や同性カップルの親、養子縁組をした養父母らは産休・育休の対象外となっていました。「男性である父親」は「時々母親の代わりに子供の面倒をみる程度」の存在であり、また同性カップルや養子縁組などの親はその子どもを実際に出産したわけではないのだから、産休・育休は不要というわけです。世界中には様々な文化がありますが、男性は子どもの世話に適さないという共通の考えが存在します。それが一つの社会的圧力となり、せっかく男性の育休制度がある会社に勤務していても、その制度を使いづらいと感じる男性が多く存在するのです。このようなジェンダーバイアスが存在することで、育休を取る部下の男性の業績が、古い感覚を持った上司によって不当評価される可能性もあります。このような上司は育休を「時間の無駄」程度にしか認識しておらず、「会社を休んで家で女の仕事をする」といった偏った考えの人が多い傾向にあります。
昔からの「性別役割」を変える
そこで必要なのは、社会全体が「古い固定観念を捨て現代の価値観に合わせる」ことです。育児は両親が協力して行うもので、子供のために両親が共に育休を取るのは当たり前。会社や周囲がそれを当然のように勧めるようになれば、母親である女性へのジェンダーバイアスは一夜にしてなくなるでしょう。実のところ、これは男性にとっても非常に大きなメリットがあります。世界的なコンサルティング企業、マッキンゼーの調査によると、育休後に職場復帰した男性社員たちは仕事への意欲が以前より増し、会社への満足度も高まったそうです。また調査対象の男性全員が「育休を取得して良かった」と回答し、次に子どもが出来たらまたこの制度を利用したいとしています。回答者の男性たちは、育休で子供との時間をしっかり取れたことで、親子の絆が強くなったとも言っています。更に、自分が育休を取ったことで、妻やパートナーとの関係が良くなったと感じる男性は90%に上りました。
今から100年以上も前、国際労働婦人会議が女性の産休を推進したように、社内にDEIを確立するには「男性の育休推進」が一つの有効な手段となります。驚くことに米国を含む7か国ではまだ産後休暇が保証されていないものの、世界の96%の国々においては女性の産休が制度によって保証されています。一方で男性の育休を法的に義務付けている国はまだ53.5%であり、このうち育休期間中の給与を全期間・全額保証としている国はさらに少なく、39.5%にとどまります。そして男性の育休の平均取得期間は1.98週間と、非常に短いのが現状です。

州法で有給育児休暇を保証しているアメリカの州
Credit: Inkscape, CC0, via Wikimedia Commons
徹底した育児休暇を推進する企業例
スウェーデンでは国の文化的な価値観から、「健全なワークライフバランス」および「性別に左右されない公平性」が重視されています。2006年に同国で設立され、今では世界中にその音楽ストリーミングサービスの利用者を持つSpotify社は、社員に非常に手厚い育児休暇を提供しています。入社直後の社員をも含めた全社員を対象とし、子どもが3歳になるまでの間、最大6か月間の育休を全額の給与保証にて取得できる制度です。さらに育休明けの1か月間は、状況に合わせて労働時間を柔軟に調整できるという徹底した内容。この育休制度には、Spotify社がその企業理念のもとに、全ての社員と家族をしっかりサポートするという強い姿勢が表れています。
世界最大級の求人検索サービスを60ヵ国以上で展開するIndeed社では、社員たちが連携して「親と養育者のための従業員リソースグループ(ERG)」を立ち上げ、仕事と子供の世話の両立に悩む同僚たちを支援しています。このグループは他のERGと連携し、同社における育休制度の改善に尽力しました。2023年現在、Indeed社では、全ての社員が6か月間の育休を給与全額保証で取得でき、対象となる子供が実子・養子に関係なく利用することができます。育休から復帰後の1か月間は「慣らし期間」として100%有給での移行期間が設けられており、さらに15日間の有給休暇も取得可能。これらの制度により、社員たちが子供の面倒をしっかりと見られる体制が整えられています。

Credit: Will Buckner, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
親としての自覚や責任について改めて見つめ直すことは、現状改善のために大切な過程です。ある調査によると、育休中の父親の多くは子供の直接的な世話に加え、子供の健全で幸せな成長に役立つ様々な活動にも参加したそうです。このように育児に積極的な現代の父親たちは、子どもと遊び、お風呂に入れ、おむつを替え、またご飯を食べさせ子供を夜通し見守るなど、かなり広い範囲の育児に関わっています。こうして子どもと密接に触れ合う時間が確保され、親子の絆は一層強くなっていきます。
子供たちの未来を形作る「家庭内の公平性」
しかし中には、本来の目的とは違う育休の使い方をする男性もいます。なんと2022年のサッカーワールドカップ開催期間中、男性の育休件数が通常より著しく跳ね上がったことが、スペインのある調査によって判明したのです。これは、育休を単純に有給休暇としか考えていない人たちがいることを裏付けていますが、もちろんこれは大きな間違いです。育児休暇は、子供の世話がどれだけ重責であるかを理解し学ぶための時間として、正しく有効に活用されなくてはいけません。

男性が妻やパートナーと協力し、どのように子育てや家事を分担できるかを学ぶことで、多くの女性たちの負担が軽減されるのは間違いありません。そのため、企業が男性社員も育休を取得しやすい環境を整えることはもちろん重要です。しかしそれ以上に大切なのは、育休とは夫である男性が妻を支え、女性の負担軽減を実現するためのものであるということを社員全員に正しく理解させることにあります。夫婦の間に公平さと真のパートナーシップがあれば、女性は夫との協力により、仕事への情熱や自らのキャリア、そして昇格さえも諦めなくて良いのです。そしてそのような環境で育った子供たちは、やがてインクルーシブで公平な価値観を持った次世代の大人となり、これからの未来を担っていくことでしょう。
(こちらは英語による執筆記事の日本語訳です。是非、オリジナル英語版もご覧ください。)

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